体育祭 前編
『皆さん今日という日を待ち望んでいたことでしょうか!?今日始まります白組、赤組による戦いが!実況は私漢城伊里と放送部部長でお送りします!』
開会式が終わり、赤組、白組に分かれた中、実況席では赤の鉢巻を身に着けた漢城がマイクを握りしめて実況という名の自己紹介を行っている。
「張り切ってるなあいつ」
「あんたも張り切るのよ吉条!今日は絶対に勝つわよ!」
拳を高らかに掲げながら、南澤もまた赤い鉢巻をしながら張り切っている。張り切り過ぎて、俺には目から炎が出ている様に見えた。
「頑張れよ」
「あんたも頑張るのよ!あんたは特にクラス対抗リレーのアンカーなんだから」
「俺の出来る範囲内でな」
最後の種目であるクラス対抗リレーで俺はアンカーになってしまった。というのも、順番何てどうせどういじっても変わらないんだから、出席番号順でそれよりもバトンを渡す練習をしましょうっと南澤が言ったことにより、吉条というこういう時に不運な名字で俺はアンカーになってしまった。
「どうせ、これで最後に抜かれたら大批判何だろうな。別に気にしないけど、面倒になるのも嫌だな」
別に噂を流されるのは知った事ではないのだが、いじめに発展して机の中に何かを入れられたら処理するのが面倒な気がする。
まあ、流石にアンカーなんて誰もが速い人間を送ってくるんだから誰も思わないか。
「――――そうですよ!私達は赤組で寺垣先輩や清水先輩に負けません!」
座って眺めていたら南澤の反対から泉が現れて、こちらもやる気を漲らしている。
「そうね。真由美と違う組になったのは少し残念だけど、あの澄ましたお嬢様をコテンパンにしてやるわ!」
パキパキと拳を鳴らす南澤を見て、どう見ても不良娘にしか思えなかった。
俺達とは反対側のコートでは寺垣は他の人達と仲良く談笑する姿が見受けられ、清水は体育座りでボーとしているご様子だ。
俺達の学校は特殊であり、偶には違う人たちと交流し、コミュニケーション能力を培えという方針でクラスの半分で赤組、白組で分かれる。そして、南澤、泉、漢城とは同じ組なのだが、寺垣、清水とは別の組になった。
というより、久しぶりに清水を見た気がする。
「何あの澄ましたお嬢様見てるの?何か気になるの?」
こういう時だけ鋭い南澤がひょっこりとこちらをのぞき込んでくる。
「いや、気になるというかただ単に久しぶりだなって思っただけだ。それよりも、お前第一種目じゃないのか?」
『初めは女子による徒競走です!ここは先人切って運動が得意な女子が出てきます!』
「何であんたが私の種目知ってるわけ?…まさかストーカー?」
「ハッ。笑える冗談だ。お前をストーカーするぐらいならそこら辺の野良猫を見守っていた方が有意義だ」
「何ですって!?」
「まあまあ、南澤先輩もそろそろ行かないと」
俺の言葉に清水よりも先に俺をぶっ飛ばそうと考えたのか拳をこちらに向けようとする南澤を泉が宥めると、落ち着きを取り戻したのか俺に対し何かとギャーギャー、叫びながら持ち場に戻って行った。
「……どうして南澤先輩が女子の徒競走だって分かってたんですか?」
隣に泉が腰掛けながら尋ねてくるが、こいつも俺を疑ってんのか?
「俺はストーカーじゃないぞ?」
「いや、そこは疑ってないですから。もしもストーカーなら本人の前で言わないと思いますし」
「冷静な判断な事で」
「それで、どうして分かったのか純粋に気になって」
「分かったって言われても単純なんだが、予定表を見たとき何かと一番最初の種目や、昼からの最初の種目、自分の種目は覚えてないか?」
「まあ、言われてみれば最初と昼からの種目とか何が最初なんだろうって見ますね」
「だろ?それで、ただ単に女子の徒競走だって覚えてただけ。それで、南澤はどう見ても運などに左右されない純粋な勝負事が好きそうだ。だったら、勘だが徒競走とかに出そうだろ?」
「あー。言われてみれば確かに南澤先輩は徒競走に出そうなイメージですね」
「だから、俺はストーカーじゃない」
「ですから、そこは疑ってませんから。気にし過ぎです」
だってストーカーとか俺思われたら終わりだぞ?クラスで浮いた存在所の話ではなくなる。
「…って茜の番じゃないですか!あー、でも組が違うから応援しずらいです」
女子の徒競走を見れば、白の鉢巻を付けた伊瀬が走る準備をしている所であった。
「別に気にしなくても良いと思うがな」
「茜頑張れ!怪我をしない程度に頑張れ!」
つい、少し離れた場所で誰よりも、応援団よりも応援している黒柿を見てしまう。因みに黒柿も赤組であるので伊瀬とは違う組である。
「…あれは別って言うか」
泉もどうやら黒柿を見ていたようで、苦笑い気味だ。だが、応援されている伊瀬はちょっと赤面している。
俺からすれば、黒柿が伊瀬の父親で周りを気にしないで応援している人にしか思えない。
伊瀬が走るが、そこそこ速く順位は三位だった。大人しい子だが意外と足が速いというギャップがあった。
他に知り合いがいないが、走っていく人間を流し目で見ていけば、白組の一位の率が少し高いように見える。
「……あ、次南澤先輩の番です。頑張ってください!」
泉が応援すれば、前を向いていた南澤もこちらに気づき、手を振っている。
「勢い余ってコケんなよ」
「コケないわよ!」
「静かに」
「…すみません」
南澤が大声で反応すれば、開始の合図を送る人に怒られてしまっていた。
だが、それで南澤もまた気持ちがリセットしたのか真剣な表情で走り出し、結果は一位。
『ここは南澤選手圧倒的一位でゴールしました!学力だけではなく運動も出来る選手であり、次から出る種目も期待が出来ます!』
先程から漢城がノリノリで実況しているのがやたらと耳に届きながらも南澤が運動が出来るのが意外だった。
「そう言えば、広先輩の種目っていつなんですか?」
「俺は昼前の最後の種目の棒倒しだな」
「じゃあ、一番重要ですね。頑張ってください。私も今から借り物競争を頑張ってきます!」
「借り物競争なんて運だから頑張る要素無いけどな」
「やる気が無くなることを言わないでください!」
泉に叱咤されながら、第二種目である借り物競争を見てみれば、南澤以外の部活メンバーに漢城も出ていた。
全員が全力でやっている様に見える。
だが、俺には分からない。どうしてそこまで全力でやるのか、体育祭に何があるのかは理解出来ないが、勝つために全力でやるのは分かる気がする。
『第八種目午前の部最後の競技であり全学年で行われる棒倒しです!白熱した戦いが期待できます!』
――――まあ、やるだけやるか。




