追い詰める
……待てよ。
待て…待て、待て。
落ち着け。
まだ、確証はない。
証拠もない。
――だが、一瞬何かが閃いた気がする。
「漢城!今すぐメモ用紙とペンを貸してくれ」
「きゅ、急にどうしたのかは分かりませんがどうぞ」
漢城が突然の大声に一瞬驚いた様な声を上げるが、メモ用紙とペンを貸してくれたので、今思い出したことを忘れないように書く。
そして、今までの漢城とのやり取りで気になった点も忘れずに書き写す。
非現実的な小説で考えればヒントは既に散りばめられて伏線になっていたんだ。
書きながらも時間を短縮する為に漢城に情報を聞かなければならない。
「なあ、伊瀬って結構男子から人気あるのか?」
「結構人気ですよ。大人しいですが、可愛いですし、告白されるかどうかは別としても、悪くはないと言い切れます」
「本当に助かる」
今まで思いだした全てを書き写していく。
一通り書き写した後はやるべきことがある。
「ちょっと待っててくれ」
「え?吉条君?」
突然立ち上がり、走っていく俺に対し、呆けた漢城の声が聞こえたが今は気にしている場合ではない。
全力で階段を下りていき、目的地であるサッカーの部活をしている――春義先輩の元へ向かう。
「…ハア…ハア。春義先輩、休憩中悪いんですが、一つお話良いですか?」
春着は休憩時間で部活のメンバーと会話をしている中で話しかけるのに普通は緊張するが今は急いでいることもあり余り緊張は無かった。
春着もまた俺というボッチで名前を憶えられている訳ではないだろうが、『お悩み相談部』で相談し解決した人間の顔は覚えているようで笑顔で答えてくれる。
「あれ?君は昨日の」
「はい。本当に少しで良いので」
「うん。良いよ」
背後にいる部員に手を振って、春着と二人で離れたグラウンドで対面する。
「どうしたんだい?」
「部活中すみませんが、一つ確認したいことがありまして。依頼を受けた者として、あれからどうなったのかきちんと聞いておこうと思いまして」
春義先輩は笑顔を向け、
「君は律儀な男だな。だが、それに関しては大丈夫になったよ」
「……それは、小野さんから振ったからですか?」
「え?どうして分かったんだい?」
笑顔を崩した春着は驚いた顔をしているが俺の予想は間違いでは無いことが分かった。
「何となく小野さんから振ったんだと思いました」
「まあ、そうなんだよ。僕が勇気を出して言おうって考えてたんだけど、その前に言われたからなんか拍子抜けだったよ」
「そうでしたか。無事に解決出来て何よりです。サッカー頑張ってください」
春義に対し、一礼して階段を昇り漢城の元に戻る。
「何話してたんです?」
「歩きながら説明する」
端的に伝えると、漢城は言う通りに立ち上がり俺の隣で歩く。
「それで、春義先輩と何を話していたんです?」
「依頼に関する話だが、いずれバレると思うから伝えるが小野と春義先輩は破局した」
「大スクープじゃないですか!」
「一応言っておくが、新聞にはするなよ?」
「だから!私は礼儀は弁えているので!吉条君は心配屋さんですね」
漢城が頬を膨らませ指を突きつけられて不服そうな顔を隠そうともしないが、
「お前は馬鹿だから喋りそうで怖いんだよ」
「ねえ、吉条君って私に冷たくないです?女子に優しくしないと駄目ですよ?」
「安心しろ。誰でもこんな感じだ」
「もっと駄目だ!?」
漢城と軽くやり取りをしながら、二つ行く場所があるうちの一つに辿り着く。
……頼む。いてくれ。
僅かに願いながら教室の扉を開ける。
「黒柿って…居てくれたか」
「あ!今日も来てくれたんですか!?どうしました!?お茶ですか!?」
「お茶はいらない。少し二人で話せるか?」
「はい!何時までも!」
「一分で良い」
「本当に誰に対しても冷たい!」
漢城が隣でツッコんでくるが、今は放っておく。
「あれ?この人って」
黒柿はどうやら俺しか見ていなかったらしく、漢城の存在に気づく。
「いやいや。どうもです黒柿君!」
「ハア。どうして、漢城先輩と兄貴が一緒に?」
黒柿が似合わないペアだと思っているかもしれないが自分でも分かっているので勘弁してほしい。
誰に対しても警戒心の強い野良猫に懐かれた気分なんだ。
「こいつに関しては気になるとは思うが、今は置いてくれ。あまり時間がない」
「時間?どういうことです?」
「下校時間が迫っているのも一つだが、それ以外にも一つだけ問題はあるが、ああ!こんな話してる場合じゃない。取り敢えず、黒柿に話があるから少し待ってくれ」
「はーい」
漢城は本当に聞いては駄目な話をする時に従ってくれるのでありがたい。
他の人では絶対に言う事を聞かずに盗み聞きするに違いない。
「どうしました兄貴?」
「ああ。一つお前に確認したいことがある。お前は――――」
俺の言葉に黒柿は目を見開き顔を俯かせる。
本当は聞かれたくない話をしているのも分かっているが案件を解決する為にも話してほしい思いが強い。
強制ではないが話してくれると信じて静かに黒柿が顔を上げるのを待つとゆっくりと顔を上げその眼に揺らぎはなく覚悟だけが決まった表情だけが見受けられた。
「――――――です」
「分かった。話してくれて助かった」
黒柿にお礼を伝えながら、漢城の元に向かう。
「二人の雰囲気が中々に悪い気がしましたが深刻な話です?」
無駄に的確な言葉を突きつけられるので困るが、依頼人の個人的情報を与えては駄目なのは約束なのできちんと守らなければならない。
「噂を流した人物に関して話してた」
「分かったんです!?」
「今の所は俺の予想で間違っていないことが確認された。だけど、まだ確証を得るには足りない。だから、今の内にもう一人会いたい人物がいる」
「どうしてそんなに急いでいるんです?」
先程までとは違い走らず迅速に歩き続けるが漢城が急に焦りだして気になるのも分かる。
先程までは慌てずにゆっくりとしていればいいと思った。
だが今回の件で俺は二つの案件を解決しなければならなくなったとも言える。
……それに、
「次に会う奴は時間がどうなるか分からないからな。まあ、急いでいる理由は後で教える」
「フフ。秘密主義。吉条君は中々分かってますね」
「何が分かってるのか知らないが、これから先は付いて来るなよ?」
「行きます!」
即答。
漢城の眼はこれを逃してたまるか!と言わんばかりに目を輝かせている。
…今から会う奴にあんまり人を増やしたくは無いんだが、まあ仕方ないか。
こいつを説得する時間が勿体ない。
足早に移動しながら、辿り着くのはお馴染みになっている部室。
「結構遅かったね」
寺垣が話しかけてくるが、今はそれ所ではない。
「まあな。それよりも泉、お前に頼みがあるんだが」
泉に話しかけるが本に没頭して一切話が聞こえていない様子。
「おい!泉!」
「うひゃ!?なんですか!?って広先輩じゃないですか。急に大声上げないでくださいよ。びっくりするじゃないですか!」
肩を叩き、大声を上げたら泉はビクリと体を震わせながら、こちらにようやく気付く。
「お前には本を貸している借りがある筈だ。だから、嫌かもしれないが、一つ頼みがある」
「……今、良い所なんで明日じゃ駄目ですか?」
「駄目だ」
……泉の将来が少し心配になってきた。
泉に一つお願いすれば、本を貸しただけでは割に合わないと、また今度何かを奢るという取り引きで、お願いに応じて貰った。
後は泉に協力して呼び出してもらった人に話を聞くのだが、ここからが問題だ。
犯人に関しては見当がついた。
だが、追い詰める策が思い付いていない。
噂を流した件について根本を探すなど無理だ。
根本を見つけられないとは証拠が無いと言う事だ。
追い詰める材料が無い現状で犯人に自白をせずに白を切る可能性が高いが今は考えている場合でもないんだよな。
「漢城。本当に付いて来るならバック持ってこい」
「了解です!」
元気よく返事をして、颯爽と走る姿を見送る。
最初は漢城を一緒に連れていくのは躊躇いがあったが、よく考えれば一人で行くよりも元気一杯な漢城が居た方が助かるので昇降口で待とう。
漢城を待つ間に頭の中で犯人を追い詰める策を考えながら行こうと思ったのだが、部室を出た瞬間、
「待ちなさい」
「ん?清水か?」
部室を出た先で仁王立ちしている清水に呼び止められる。
「その様子だと犯人が分かったの?」
「多分だけどな。今からそれを確認してくるつもりだ」
「誰かはどうでも良いけれど、私が昨日探っておいた情報を紙に書いてあるから使いなさい」
一枚のノートを千切り使ったメモ用紙の様な物を渡されたが清水の行動に驚いて顔を上げて自分でも変な顔をしていると気付いていた。
「…色々と動いてくれたのか?」
清水が懸命に頑張ってくれるとは思わず反応が遅れてしまった。
「私もやるなら完璧にやるのよ。それで、その情報は使えそう?」
清水に渡された二つ折りの紙を捲り、調べていた情報に度肝を抜かれて再度清水の顔を見るが、無言でも言いたいことが伝わったのか首肯が返ってくる。
「――――嘘と思うかもしれないけど事実よ」
「……流石に予想外だ」
「私も思ったわ。理由も全て書いてあるから使うなら使いなさい」
「正直、今日ほど自分がついていると思った日は無いかもしれない。これは間違いなく使える。ありがとな、清水」
「……と、当然よ。見返りは覚悟していなさい」
褒められ慣れしていない清水は照れ臭そうに無意識であろうが目線を外し頬を朱色に変えていた。
「清水にここまでしてもらって犯人を捕まえられなかった報告だけはしない」
清水のおかげで、追い詰めるだけの策を一つ見つけることが出来た。
その後、漢城と一緒に目的地で一人と話し合い、長い一日が終わった。
翌日。
昼休み。
学校の校舎裏。
学校のイベントで言えば、告白イベントが、待ち構えているであろう場所。
そこで、俺は一人に人差し指を向けて、名探偵であろう人物なら必ず言い放つ言葉を言い放った。
「――――伊瀬茜の噂を流した犯人はお前だ」




