労働力確保~奴隷オークションに8億ゴールド持って参加した
「黄金の買い取り価格は500億ゴールドとなります」
ジェーンさんに十トンの黄金の買取価格を計算してもらうと、眩暈がした。
「そんな金額になるんですか!」
「はい。ただ申し訳ないことに、そこまでのゴールドは銀行にも置いてありません。ですから一括払いはできません。120分割で毎月8億ゴールドをお支払いする形でしたら大丈夫です。これは利息も含めた計算です」
なんて金額だ! 冒険者時代はその日暮らしだったのに! いきなり億万長者だ!
「ジーク様。多いと思われているようですが、町を作るとなるとそれくらいの金額は必要です」
ジェーンさんの言葉で目を覚ます。
お金はいくらあっても困らない。
「分かりました。そのように進めてください」
「かしこまりました」
ジェーンさんは恐る恐る頭を下げる。なんというか、慣れない。
「ところで、ジェーンさんは奴隷が買えるところ知らない?」
「ジェーンで結構でございます。私ごときにさん付けなど、王に相応しくありません」
私ごときなんて思わないけど。
だけど魔物たちには様付けされてるし、呼び捨てにしている。なら、この際だから受け入れよう。人間を贔屓していると思われたくない。
「分かった。今からジェーンって呼ぶよ」
「ありがたき幸せです」
ジェーンのような美人に言われるとだんだん変な気持ちになる。
自制心は残しつつ、上手く立ち回ろう。
「話を戻すけど、奴隷を買えるところ知らない?」
「奴隷市場が皇都の東にあります」
「奴隷っていくらする?」
「単純作業しか出来ない下級奴隷でしたら1万ゴールドです。ただ、最近は奴隷の値崩れが起きているため、もっと安いと思います」
人の人生が1万ゴールドで買えるのか。複雑だ。
奴隷を買ったら、自由民にして、しっかりと給料を与えよう。
「教えてくれてありがとう。買い取り作業は何日かかる?」
「急ぎますが金額が金額です。月の支払い手続きも含めて一月はかかるかと」
「そこまで待てないな。タマモ母さん。ジェーンを手伝ってあげて」
「分かった。面倒な手続きとやらを幻術で誤魔化してやる」
「ありがとう。夕方には終わらせて」
「任せておけ」
自信たっぷりの笑みだ。
「ジェーン。奴隷を買いに行くからひと月分の支払いになる8億ゴールド用意して」
「かしこまりました。ゴールド金貨では全て持ち運べないと思うので、ゴールド紙幣でお渡しします。この紙幣は皇都と支配下である王都でのみ使用できます。ご注意ください」
「買い物はここや王都で済ませればいいんだね。それなら大丈夫だ」
「大丈夫と言われて安心しました。では、いってらっしゃいませ」
ジェーンの深いお辞儀に内心ドギマギしながら、銀行を出た。
銀行を出たら皇都の見物も兼ねてゆっくりと奴隷市場へ向かう。
「活気がないな」
皇都なのに出店が全くない。歩く人は俯いている。それに浮浪者が多い。
「ジェーンが言っていたように、皆、落ちぶれ貴族や商人じゃ。金が無くなって路頭に迷っとる」
リム母さんは目に入る全ての人に目を光らせる。今のところ、不審な奴は居ない。
「お金か。もしも僕たちが大金を持っているって知ったら、どうなるのかな」
「ふふ。ジークを神様と言うようになるぞ」
金は恐ろしい。
そして大金を得た僕たちは、人間からすると恐ろしい存在なのだろう。
「ここまで悲惨だと、簡単に職人が雇えるかも」
くいっぱぐれた人なら、多少無茶でも僕の町に来るはずだ。
「今は止めとき。急ぎ過ぎると失敗するぞ。それに金に目のくらむ奴は碌な奴じゃないぞ」
「そうだね。まだ人っ子一人住んでいないのに職人を雇うのは自殺行為だ。少しずつ大きくしていこう」
とはいえ、近い将来職人が必要になるだろう。その時まで、頭の片隅に置いておこう。
そうやって見物していくと、大きく拓けた広場に出る。
そこは先ほどと打って変わって活気に満ちていた。
奴隷市場だ。
「さあ! 生きのいい農奴が10人セットで5万ゴールド! 買わなきゃ損だよ!」
「冒険者の皆さん! 荷物運びに使える便利な奴隷はいかが! 囮にも使えてこりゃ便利! 要らなくなったら迷宮に捨てればいい! なんて素晴らしい買い物! 今ならたったの5000ゴールドだよ!」
「紳士淑女の皆さま! よってらっしゃいみてらっしゃい! この奴隷! 足し算割り算掛け算引き算何でもできる! 文字もかければ本も読める! とんでもない優れもの! それもそのはず伯爵家で育ったエリート奴隷! 今ならたったの40万ゴールドだよ!」
凄い場所だ。人が鎖で繋がれている。それを奴隷商人が積極的に客に勧めている。実際に見ると予想以上にショックだった。
「どいつもこいつも死にかけだな。買う価値など無い」
マントになっているブラッド母さんが耳元で囁く。
「そうなの?」
「臭いが死人だ。それに何人か血液に病原体が混じっている」
ブラッド母さんは吸血鬼の始祖だ。体臭や血の臭いに詳しい。
「そうなると、奴隷商人は死にかけと分かって売っているの?」
「だからこそああして客寄せしとるんじゃ」
リム母さんは軽蔑の目で商人たちを見る。
「どれもこれも、貴族や地主が金のために手放した不良品じゃ」
「不良品? 病気とか?」
「それだけじゃなか。一揆に参加した反抗的な奴らも沢山いる。つまり奴隷として手に余る奴らも売っているんじゃ」
なんてこった。詐欺じゃないか。
母さんたちが居てくれてよかった。僕一人なら確実にババを引いていた。
しかしそうなると困ったことになった。僕は純粋な労働力が欲しい。だから可哀そうだが彼らを買うことはできない。
病気を治す手間が惜しいし、反抗的な奴隷は手に余る。
「どうしよう? 帰るしかないのかな?」
「そうでもないぞ。あっちの建物から良い人間の香りがする」
リム母さんが指さした建物を見る。
凄く大きな豪邸だ。こんなところで奴隷を売っている? にわかには信じられない。
でも母さんが言うのだから間違いない。
「入ってみよう」
母さんたちを連れて豪邸に近づく。
「ここから先は入場料10万ゴールドを払ってもらいます」
入り口で呼び止められる。
「眠れ」
ガードマンはブラッド母さんの一言で眠りにつく。催眠術だ。タマモ母さんの幻術とほとんど同じ効果を持つ。
「ありがとう」
ボソリと小声でお礼を言って、中へ入った。
「オークション会場か!」
中を進んでいくと、大きなステージにたどり着く。
ステージには50人の美人、美少女奴隷があられもない姿で立っていた!
「性奴隷じゃな。なのに全員生娘じゃ」
リム母さんは鼻を鳴らす。
「どうやら、貴族やら地主の娘のようじゃ。借金のかたで連れて来られたようじゃ」
「そうなんだ」
贅沢な暮らしから一変して最悪の人生。世の中一寸先は闇だ。
「皆、働けるかな?」
性奴隷! ちょっとクラッとしてしまったけど、今はそれどころではない。
もしも働けるなら全員欲しい。
「大丈夫じゃ。皆、病気や怪我はない。それにある程度奴隷としての覚悟ができておる。反抗心も無い。若いし、見かけ通り肉質も良い。仕事を覚えるまで大変じゃろうが、その後はどうとでもなるじゃろ」
「知識のほうはどう? 経験者が二三人くらい居たほうが手間が少ないと思う」
「心を読む限り知識はあるようじゃが、経験はないようじゃ」
「それもそっか」
少々残念だ。だがそれでも魅力的な女の子たちだ。見逃すのは惜しい。
「外で経験豊富な奴隷を1人買えば、ある程度は補えるか」
フェニックスの涙やラファエル母さんの薬草を飲ませれば、どんな病気や怪我も治る。ステージの彼女たちが居れば、そういった奴隷で知識や経験を補うのも悪くない。
「ジークじゃねえか!」
突然耳障りな声が聞こえた。右手を向くと、一年前に冒険者としてチームを組んだハボックが居た。
僕は三年間冒険者をやっていたが、事あるごとに追放された。
ハボックはその一人だ。
「久しぶりだねハボック」
今にも母さんたちが襲い掛かりそうだったので、咄嗟に止める。
殺したらオークションに参加できない。
「久しぶりだな! 臆病ジーク!」
相変わらず歯を磨かない奴だ。笑うと煙草のヤニが見えて気分が悪くなる。
「臆病ジーク?」
「こいつがあのジークか!」
ハボックの仲間が続々と集まる。
「こんなところで何してんだ? ママのおっぱいが欲しくなったか!」
全員ガハハと品の無い笑いをする。
「ママが居なくて寂しいよ~」
「ママ~僕を捨てないで~」
全員言いたい放題笑いまくる。
「いい度胸じゃのう~」
母さんたちはマジ切れして殺意をむき出しだ。
でも手は出させない。
「ハボックたちもオークションに参加するの?」
「ああ! 俺たちはお前を追放したおかげでAランクになったからな! 臆病者は追い出すに限るね~」
命知らずな奴らだ。能天気に笑えるのが羨ましい。
「Aランクになると羽振りが良くなるんだね」
「年に200万ゴールド稼げるようになった! お前と違ってな!」
ガハハと笑い続ける。うるさい奴だ。周りに迷惑だろ?
「ところでお前は何しに来た? まさか奴隷を買いに来たのか!」
「こいつにそんな金ある訳ねえ! ママを探しに来たんだろ! 安心しろや! あんなかにママが居たら俺たちが可愛がってやる!」
「右手で扱きに来たんだろ! 10万ゴールド払ったら俺たちがやってるところを見て良いぜ!」
本当にうるさいな。母さんたちを抑える僕の身にもなってくれ。
「僕はオークションに参加しに来たんだ」
笑いがピタリと止まる。
「へ~! お隣のお嬢様がパトロンか? 女に媚びるのは得意だったな!」
ハボックはこめかみにぴくぴく青筋を立てる。
「お嬢さんよ~。そんな奴より俺らのほうが良いぜ~」
「気持ちよくしてやるぜ! 顔だけのそいつよりもな!」
ふざけた奴らだ。僕だけでなく母さんにまでちょっかいをかけるなんて。
「オークションを開始します! 着席してください!」
母さんたちが飛び掛かる直前、オークションが始まった。
「ち! 行こうぜ」
ハボックたちは離れた席に座る。
「なぜ止めるんじゃ!」
リム母さんはギリギリと歯ぎしりする。
「子供の喧嘩さ。僕が決着をつける」
札束の入った袋を撫でる。
「あの時は勉強のために来た。だから怒らなかった。手加減した。でも今回は違う!」
あいつらの泣き顔が楽しみだ!
「それでは、始めます!」
オークションが始まった。
ブクマ、評価くださると嬉しいです!




