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金策~十トンの金塊を持って銀行へ

 大陸の中心である皇都アトランティスの城門前へたどり着く。

「止まれ! 通行手形を見せろ!」

 城門の兵士が馬車を呼び止める。

「通せ。ワシらを誰だと思っている?」

 馬車から下りるタマモ母さんの瞳がキラリと光る。兵士の瞳から光が消える。

「失礼しました!」

 僕たちは難なく皇都アトランティスへ入った。


「ワシ一人で皇都の兵隊皆殺しにできるのに、わざわざ門を潜るとは律義じゃのぉ」

 タマモ母さんに頭を撫でられる。

「ジークは優しいのぉ!」

 リム母さんに頭を撫でられる。


 僕は二人の母さんに両側からナデナデされている。


「か、母さん……もう僕は子供じゃないんだよ? 抱き着いて来ないでよ……」

 幌で外から見えないとはいえ、さすがに恥ずかしい。もう僕はいい大人だ。

「い、嫌なのか!」

「わ、ワシらの子じゃろ?」

 でも二人は涙目になる!


「わ、分かったよ……撫でても良いよ」

 恥ずかしいけど、嬉しいと思う自分も居る。やっぱり僕は母離れできていない。

「そうかそうか! ワシは嬉しいぞ!」

「子供は撫でるもんじゃ!」

 ナデナデと頭が禿げそうなくらい撫でられる。腕が折れそうなくらいギュッと抱きしめられる。

 二人も僕離れできていない。


「ジーク、良い子良い子!」

「ジークは可愛いなぁ!」

 なぜか服とマントになっているはずの青子とブラッド母さんまで撫でて来る。


「もう……」

 でも癒される~。抗えない~。


「到着しました」

 なでなでされていると、馬車の運転手である商人が声をかけてきた。

 彼はタマモ母さんが幻術で洗脳した人だ。黄金の詰まった袋をむき出しで運ぶと、思わぬトラブルがやってくる。そう思ったため、たまたま草原で休んでいたところを襲わせてもらった。

 この人は結構良い人で知識人だ。洗脳状態でも、どこで黄金が売れるか教えてくれた。

 僕たちは運がいい。


「ありがとうございます。ほら母さんたち! 行くよ!」

 母さんたちを振りほどこうと身じろぎする。


「もうちょっとじゃ!」

「人間なんぞ待たせとけ待たせとけ!」

「青子! ジーク大好き!」

「町作りなど忘れてこのまま観光しよう。どうしても町が欲しければ私が皇都に住む全員を吸血鬼にしてやる」

 皆離れない!


「……どうしよう」

 結局一時間くらいなでなでされた! 遊びに来た訳じゃないのに!


「あ、ありがとうございました」

 母さんたちから解放されると、商人にお礼として1kgの黄金を渡す。しばらくしたら洗脳が溶ける。その時いつの間にか皇都に居て、さらに手元に黄金があったらびっくりするだろうが、狐に化かされたと思って欲しい。


「さて! 初めての商売だ!」

 僕たちは黄金が詰まった100個の袋を、アトランティス中央銀行へ持ち込んだ。




 アトランティス中央銀行はアトランティス皇都とその支配下である王都で使用されるゴールドを製造している。つまり造幣局も兼ねた銀行だ。取引相手は大貴族や銀行関係者、王族関係者など著名人が多い。


「忙しいわね!」

 職員の一人であるジェーンは書類の山の山と格闘していた。

 今年は害虫の異常増殖で大飢饉が発生し、多くの農地で大規模な一揆が発生していた。その結果、経済的に立ち行かなくなった貴族や地主が大勢居た。そうなると金貸しの銀行もてんてこ舞い。猫の手も借りたいほどだった。


「ジェーン! 色男の客が来た! 対応しろ」

 大汗に書類を握りしめる太っちょが叫ぶ。

「私を殺す気ですか! 今日だけで50件の財産審査が残ってるんです!」

「皆んな死にそうだ! これから10件財産の差し押さえをするんだ! 罵倒される身にもなってみろ!」

「はいはい分かりました!」


 アトランティス国は未曾有の経済危機であった。奴隷という最高の商品が反旗を上げたから当然だ。さらに大飢饉! 食料という資産までない!


「また金を貸してくれって相談でしょ!」

 ジェーンはプリプリと怒る。大飢饉発生後、泣きつく商人や貴族は1000倍となった。新たな客もそうに違いない!


「お待たせしました」

 それでもプロだ。ジークと対面すると気持ちの良い笑顔になる。


「ジークです。よろしくお願いします」

 ジェーンはジークに挨拶されると、凄い色男だ! と思った。物腰が良く、声も落ち着いている。見た目も悪くない。何より笑顔が素晴らしい。


「ジェーンと申します。今日はどのようなご用件で?」

 ジェーンは一目でジークが金を借りに来た男ではないと見抜いた。

 借金を願い出る者は皆、銀行員に媚びるような笑顔をする。ビクビクと神と相対したように顔色を伺う。

 

 ジークはそんな卑屈な笑顔ではなく、自然体の笑顔だ。おまけに両側に美しい女を侍らせている。二人の女は身なりこそ平民だが、落ち着いた様子で、むしろこちらを値踏みしているような態度である。

 見た目は若くて十代後半、いって二十代前半。その歳でこれほどの度胸を身に着けるとなると、英才教育を受けた才女に違いない。


 そんな女を二人も揃えるとなると、相当な身分に違いない。

 もしかすると、明るい話題かもしれない。自身の評価を上げるほど良い客かもしれない。


「黄金を売りに来ました」

 黄金を売りに来た? 財産の処分? 心の中に無数のはてなを作りながら、ジークが運んできた袋を開ける。


 目が眩むほど輝く純金の山が現れた!


「こ、これは!」

 ジェーンは言葉を失う。平である彼女はここまで見事な黄金を見たことなど無い。

 盗んできた? 違う。ここまでの量が盗まれたなどという事件は聞いていない。


 ならば答えは一つしかない。


「奥のお部屋へご案内します」

 慇懃に、丁寧に、失礼の無いように細心の注意を払ってお辞儀をする。


 王子様が何らかの事情でやってきた。


「いけないわ」

 ジェーンは部屋へ案内する間、ジークが気になって仕方なかった。


「素敵な人……」

 ジェーンは一瞬にして、ジークの虜になっていた。


いまさらですが本作はジークと仲間たちは最強です。


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