兄・裕一郎と、弟・浩二郎の葛藤
兄の裕一郎が、言う。
「その『特別口座』の存在が、税務当局や金融当局が把握している『公的な記録』と、父が死の間際に書き換えた『裏の帳簿』の間で、存在そのものが矛盾をきたしているとしたらどうだ?」
「……」
「つまり、国家のシステム上は存在しないはずの資産が、市場の決済システム上でだけ、莫大な利益を生み出し続けているという、デジタルな幽霊のような状態だ」
「裕一郎。父は、そんな姑息なことは、断じてしていない。税務申告に何の不正もない。もちろん、法人設立にも、俺の代表就任についてもだ」
長男は、自分の管理下のデータベースに、弟・浩二郎の資産を検索しても、該当するものがないことは知っていた。しかし、市場のデータには、父の特別口座由来の巨額の売り買いが刻まれている。
彼は、「システムにハッキングされている」と錯覚した。自分たちの管理能力が及ばない領域で、父・ヒロシの幽霊が市場を操作していると怯える。
浩二郎は、兄が「法的に縛ろう」と必死になればなるほど、「兄は、俺が何を動かしているのかすら、理解できていない」と確信する。彼は、太田黒が遺した「国家を出し抜くための暗号鍵」を使い、兄・祐一郎の作る「官製相場」という虚像を、外側から食い破ろうと目論んでいた。
一般投資家は、市場が理由もなく不自然な動きを見せるたび、不安に駆られる。しかし、それは何かの陰謀ではなく、単に「裕一郎のシステムと、ヒロシの幽霊(特別口座)、あるいは浩二郎の投資行動との噛み合わせが悪く、システムが軋み音を上げているだけだとは知らない。
裕一郎は、浩二郎を逮捕しようと、司法の網をかけた。しかし、いざ法廷で「ヒロシの資産の正体」を追及しようとした瞬間、「その資産は、法律上、何の問題もなく法人に受け継がれた」という証明(裕一郎自らが構築したシステムによる否定)が、彼自身の首を絞めた。
裕一郎は、「実在しない罪によって、実の弟を冤罪によって陥れようとした、自分たち国家の側が、逆に翻弄されている」という恥辱を世間にさらすことになった。
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