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殿下! その婚約宣言は反則です!?  作者: 冬野ほたる


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29/53

【29】 混乱

 


 周囲の状況を考慮して、即時に判断を下したオーギュスト様は首を横に振った。

 叫び声と剣戟(けんげき)音は、だんだんと大きくなりながら迫ってきている。

 会場は混乱を極める一歩手前だった。


 「危険です。私が行きます。ルナ様はマリエルと……身を隠して待っていてください」

 

 そんなことを言われても。

 周囲を見回しても、隠れられるような場所はどこにもない。

 せいぜいが窓の脇の厚いカーテンの陰くらいだ。子どものかくれんぼ遊びにすらならないだろう。

 オーギュスト様もそれは解っているらしい。

 視線を(めぐ)らせて、マリエルと二人で隠れられる場所を探してくれている。

 でも……。


 「オーギュスト様、ここにいても同じことです。だったらご一緒したほうが……なにかのお役に立てるかもしれません!」


 「そうよ! お兄様と一緒に行く!」


 「しかし……」


 マリエルとわたしを交互に見つめながら、緑色の瞳を思案気に揺らめかせるオーギュスト様。

 ふと、その視線が途中で止まる。揺れていた緑色の瞳がそのまま見開かれると――。

 

 「大丈夫ですよ。私がお護りいたします」

 

 背後から聞こえたその声に、思わず振り向く。


 !!


 目の前には、晴天の冬の空の色のドレスを纏い、金色の長い髪をなびかせた青い瞳の美人さんがいた。


 涼やかな目元には下がり気味に濃くラインを(えが)き、左目の目じりのほくろは消している。長い睫毛をくるりと巻いて、薄い唇は元の形よりもかなり厚めに紅をひいていた。お化粧のせいでだいぶ顔の印象が違う。

 だけど。

 立ち姿だけでも間違えるはずはない。やっぱり……!


 「ノア様!」


 「遅くなって申し訳ありません。ルナ様、お怪我はありませんか? 皆様も?」


 ノア様はいつも通りに青い目を細めると、唇を少し上げた。

 

 「ノア様?」


 マリエルが怪訝そうに見上げる。ノア様は麗しく微笑んで肯いた。


 いつもの黒髪も素敵だけど。

 濃いお化粧を施した金色の髪のノア様は、間近で見ると迫力が違う。

 女神様のようで……いや、ノア様の場合は妖精王、サリファ―ルというべきかも……なんて美しい。そして、なんと(あで)やかなのか。

 いつまでも、ゆっくりと見蕩れていたい、けど。

 訊きたいこともたくさん、たくさんある、けど。

 だけど、残念ながら今はそんな悠長なことをしている場合ではないのだ。

 

 「わたしたちなら大丈夫です。あの、テオ殿下は……」


 「セオドア殿下なら心配はないでしょう。殿下の左腕の、信頼のおける騎士もついております」


 そう言って深く肯く。

 確信を持つようにも、安心をさせるようにも取れるノア様の言葉。

 今はそれを……信じるしかない。

 

 「さあ、あまりのんびりとはしていられませんね」


 ノア様に促されると、なんだか呆けたようにじっとノア様を見つめたままだったオーギュスト様が、はっとしたように自分の頬を両手でパンと叩いて、頭を左右に振った。

 

 ? オーギュスト様? 


 そして。


 「よし、行きましょう」


 覚悟を決めたようだった。

 

 

 フロアも人で埋まりだしている。

 会場にいた大半の貴族や給仕たちが奥に流れようとしていた。奥側もだいぶ人が詰まってきているようだった。


 避難する人々に巻き込まれないように、オーギュスト様はマリエルの肩をしっかりと抱いて、川を渡るように人々の間を横切って進む。

 ノア様に肩を抱えられるようにして、そのあとに続いた。


 王太子殿下もオリヴィア王女様も、ルドア殿下もフラン伯爵親子も、クリスタもアーバン子爵様さえも見当たらなかった。

 この人込みに紛れてしまい、見つけられないだけなのか。それとも、すでにどこかに避難したのだろうか。

 もしかすると、ルドア殿下たちはするりと逃げて、高見の見物をしているのかもしれない。


 人の川を抜けると大扉の前に出た。

 大扉周辺では、楽団の団員たちが落ち着きなく、どうしたものかと右往左往としている。

 団員たちは持ち出せる大きさの楽器を、それぞれに大事に胸に抱えていた。


 オーギュスト様が前に進み出て、指揮棒を持った楽団の指揮者に声をかける。


 「皆さん、会場から出るために、この大扉を開きましょう!」


 「しかし……」


 指揮者は戸惑いの表情を浮かべた。


 「……こちらの扉は王族方の専用なのだよ」


 楽団員たちは平民出身者も多い。やはり、不敬罪ということが鎖のように引っかかっているのだろう。

 貴族だって不敬罪には敏感だ(クリスタを除いては)。当然の反応かもしれない。


 「そんなことを言っている場合では……!」

 「うおおおおおぉぉぉおおお!!!」

 

 突然、三人の黒装束の侵入者たちが後方から飛び出してきた。

 大扉の前に立つオーギュスト様に、剣を大きく振り上げて切りかかる。

 

 「ちっ……!」


 頭上から振り下ろされた一太刀を、オーギュスト様は身を(よじ)ってかろうじて(かわ)す。

 剣の太刀がオーギュスト様のコートの腕を掠って、ジャリっと表面の飾り布が削ぎ切られる音が聞こえた。


 ノア様の動きは迅速だった。


 

 

  


 

 

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― 新着の感想 ―
色々甘い計画だったくせに、戦力だけは充実しているルドアくん。 なんだか女装or男装フラグの建ってるノア。 キャスター「ただいま、現場は非常に混乱しているようですね。現場のルナさ~ん!」 ルナ「それど…
[良い点] 久しぶりにゆっくり読めると思うたら (つд⊂)ゴシゴシ (つд⊂)ゴシゴシゴシ (;・∀・) ナン! (; ∀・)・ デス!! (; ∀ )・・ トー!!! [気になる点]…
[良い点]  依然として緊迫したまま。はらはら。  テオ殿下はお強いのでしょうけど、やっぱりルナは心配ですよね。  気遣うルナはいじらしくもかわいくて。殿下に伝えてあげたい…。 [一言]  そ、そ…
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