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4日目.ソースの味

 翌日も同じように魔王と朝食を食べ、午前中は歴史と聖女についての学科、昼食時には食事マナー、そして午後からは魔法学とダンスレッスン。というルーティンを送った。


「疲れた~」

「お疲れ様です」


 お風呂で汗を流したら、夕食までの少しの時間、自室でダラっとする。

 これもルーティン。

 アリエラが紅茶を入れてくれたので、魔王が持ってきてくれた焼き菓子と共にいただく。


「あまり食べすぎないでくださいね、本日もルークアルト様との夕食がございますから」

「うん、わかってる」


 アリエラとは歳が近くて話しやすい。

 私の身の回りの世話を一番やってくれている侍女である。

 いつも赤茶色の長い髪を綺麗にシニョンでまとめていて、きっちりとした格好で朝早くに私を起こしに来てくれるし、夜も私が休むまで傍にいて、何かあるとすぐに対応してくれる。


 もしかして、アリエラはこき使われているのでは……? まさか王宮社畜!?


 と心配になったけど、アリエラは私の世話を楽しそうにしながら気さくに話しかけてくれるのだ。

 前世の私とは違う。

 彼女はこの仕事が本当に好きらしい。


 そんなアリエラとはこの王宮で唯一の女友達のような感覚でもある。


「それよりどうなんですか?」

「え? なにが?」

「ルークアルト様とですよ! なんでもフラッフィーナ様にご執心だとか」


 うふふ、と可愛らしく微笑みながら、アリエラは言った。


「ああ……いや、まさか。だって私たち会ってまだ一週間も経ってないのよ? あの方は相当女性慣れしているようだし」


 わざとため息を吐いて言うと、アリエラは「え?」と怪訝そうに声を上げた。


「ルークアルト様が女性と親しくしているところはお見かけしたことがありませんが……」

「そうなの?」


 困ったように微笑みながら告げられたその言葉に、私の胸は期待に弾んでしまった。


「いや、でも見えてないところでやってるのよ、お上手そうだったもの」

「そうでしょうか?」


 やっぱりアリエラは納得いかなそうにしていたけれど、魔王とアリエラは常に一緒にいるわけではない。むしろ仕事内容的に、一緒にいない時間の方が多いのだ。

 これまでだってそうだったに違いない。


「確かにルークアルト様はお強く、お優しく、とても優秀で女性の憧れですが、浮いた噂は耳にしませんよ」

「……ふーん」

「それより、お付きのフェリオン様。あの方はクールな外見で意外と手がお早いと噂になっていますので、フラッフィーナ様もお気をつけください!」

「まさか、魔王の側近でしょう?」


 アリエラの話に、フェリオンの顔を思い浮かべた。

 確かに彼はクールで知的なイメージの、イケメンだ。

 あんな(ひと)に口説かれたら、コロッといってしまいそうだけど……。仮にも私は魔王の婚約者。魔王の側近が私を口説くなんてことはありえない。


「まぁそうですね。それよりそろそろお支度なさらないと、夕食に遅れてしまいますよ!」

「本当だ!」


 まだバスローブ姿でいた私は慌てて着替えて、お風呂上がりで洗いっぱなしだった髪をアリエラに可愛くセットしてもらった。


 それにしても、やっぱり女性って噂好きなのね。

 そりゃあ王宮だし、優秀なイケメンもいっぱいいる。


 魔物であろうと心があるのだから、恋もするだろうし、恋愛禁止、なんていう法律もない。


 仕事だけの毎日では疲れてしまうから、恋をしたり、噂話に花を咲かせたりもしているのだろう。


 けれど、魔王には女の影がないのか……。


「……」


 本当に……?


 なんて少し期待してしまったけど、やっぱり魔王なのだから、バレないようにうまくやってるんだろうな。そう思うことにした。




 *




「今日は何をして過ごしたんだ?」


 夕食をいただきながら、魔王が聞いてきた。


「いつもと変わらないですよ。この国についてや魔法のことを勉強して、レッスンを受けて」

「勉強はどうだ?」

「……んー。難しいこともありますが、魔法の勉強は楽しいです」


 その言葉に嘘はない。


 前世では魔法なんて、ファンタジーの世界でのものだったから、憧れが強かった。

 生活魔法だけでも感動していたのに、それ以上のことができるかもしれないとなると少しやる気が出る。


 ある程度の知識を身につけたら、私は聖女としての力を目覚めさせなければいけないようだけど。


 本当に私は聖女なのだろうかと、今でも信じ難い。


「……フラッフィーナ」

「はい?」


 もぐもぐと食事を頬張りながらそんなことを考えていると、魔王が私を見て名前を呼んだ。


 その声に顔を上げると、席から立ち上がり少し前のめりになった彼の手がこちらに伸びてきた。


「ソース、ついてるよ」

「…………」


 じっと唇を見つめられていると気づいたときには、彼の長い指先が私の唇のすぐ下に触れた。

 クス、と微笑んで親指でそこを拭われると、なんてこともないようにペロリと自らの親指を舐める魔王。


「うん、美味い」


 そしてはにかみながらそう言うと、再び席に着いて食事を続けた。


 ……なん、な……っ、


 なんてことするの、この男は――!!


 私の唇(の、すぐ下)に付いていたソースを舐めた……!!


 しかもその親指をペロリと舐める仕草があまりにも色っぽくて、途端に私の顔に熱が集まっていくのがわかった。


「……」


 平然と食事を続ける魔王を前に、私の手は止まり、ついナイフとフォークを置いてしまう。


「どうした? 食べないのか?」

「……少し、お菓子を食べすぎてしまって」

「そうか。無理はするな」

「はい……」


 そうじゃないんだけど、胸がいっぱいです。


 魔王の顔を直視することができなくなってしまった私は、申し訳ないけど食事をさげてもらい、食後の紅茶をもらった。



 もしかしたら私、そのうち胸が膨らみすぎて破裂してしまうかもしれません。

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