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XX.魔王の事情1

 この国は代々魔族の王が支配している魔物の国だ。


 大魔王であった父は、自らの命が尽きる際、残りの力のすべてを息子の俺に引き継がせた。


 生まれながらに強大な魔力を有していた俺は、名実共に立派な王となりこの国を豊かにすべく、幼き頃から日々勉学と鍛錬を欠かさずに過ごしてきた。


 俺の父は、俺が幼い頃にその命運が尽きた。


 魔族の寿命は長く、大魔王ともなれば何百年、いや千年も生きることができるのだが、父は売ってはならない相手に喧嘩を売ってしまった。

 人族に誕生する、勇者に。


 その者に倒された父は、その身が滅ぶ前に自らの力を俺に託し、俺は新たな魔王となったのだ。



 先代の魔王がそんな最期を迎えたためか、配下たちはまだ若い俺の世継ぎを早く誕生させようと、焦っていた。


 俺は父のようなことをする気はないのだが、そんな言葉では納得もしてくれず、何かにつけ俺の婚約者を選ぼうと、国で評判の女戦士や美女を連れてきては俺に会わせた。


 父や祖父等、過去の王たちはこの国の預言者が選んだ者を妻にしてきた。

 預言者は、聖女を王の妻に選ぶ。


 しかし、現預言者・フレデニスはすぐに聖女を導き出さなかった。


 そんなわけで、せめて世継だけでも先にと、配下たちは国の女たちと俺を見合いさせたのだ。


 しかし、正直俺にはまだそんな気はなかった。


 どんな美女を連れてこられようとその気は起きず、毎度断りを入れていた。


 そんなある日。


 自らの目で国を見るため、民に変装して町の視察に出ていた俺の目前に、一人の女が現れた。



 市場でパンの入った袋を抱えて走っていた子供が転んでしまった。その拍子にパンは地面に飛び出し、前日の雨のせいでぬかるんでいた水たまりに落ちてしまった。


 泣き出した子供を見て、俺は代わりのパンを買ってやろうかと考えたが、その子供に迷うことなくすぐに手を差し伸べた者がいた。


 スモーキーピンクのふわふわとした長い髪に、ピンクベージュの瞳。

 それが、フラッフィーナ・アリアコールだった。


 フラッフィーナは子供に優しく笑いかけると、汚れた体をはらってやり、自分が持っていたパンを半分ちぎって分け与えた。


 平凡な田舎町。

 その町で、フラッフィーナが俺には輝いて見えた。


 身なりなどはもちろん平凡そのもので、化粧気もなく、自然なその風貌は、今まで会ったどんな美女よりも美しかった。

 それは彼女の豊かな心が見た目に投影されているのだと、すぐにわかった。

 子供に向けられた彼女の笑顔は、まさに女神のようだったのだ。

 俺の胸は彼女を見て高鳴り、熱くなった。


 そんな思いは、初めてだった。


 すぐに彼女を妻に迎え入れよう。


 そう考えたが、俺にはいずれ預言者が告げる聖女を正妻に迎えなければならない時がくる。

 その時、彼女はどんな思いをするだろうか。


 一番に愛したとしても、正妻ではないと、傷つけるのではないか――。


 そう思い、俺は彼女への想いを諦めることにした。


 しかしその日から彼女が俺の中から消えることはなかった。

 何度、彼女に会いにあの町へ行こうと考えたかわからない。


 そうして二年の時が経ち、ついにフレデニスが聖女を預言した。


 その娘がフラッフィーナだとわかったときは、高鳴る鼓動が鳴り止まず、何度も夢ではないかと疑い、彼女が城へ来るその日まで何度も胸を熱くさせ、待ち焦がれた。


 これで堂々と彼女に求婚できる。


 そのことが嬉しくて、眠れぬ日々を過ごし、ついにその日が来た。


 俺の前にやって来たフラッフィーナは美しく着飾っており、あの時とは雰囲気が違ったが、それはそれでとても美しかった。


 二年ぶりに会えた想い人を前に思わず彼女の手に口づけてしまったが、嫌な思いはさせなかっただろうか。


 そんなことすらも気になった俺は翌日、レッスンで疲れているであろう彼女に焼き菓子の差し入れを持っていった。


 王宮の料理人が作った自慢の品だ。

 甘いものが好きならばきっと気に入ってくれるだろう。

 そう思い、弾む気持ちを抑えて彼女の部屋をノックする。


 侍女が出るかと思ったが、愛しい声で「どうぞ」と聞こえ、俺は勢いよく扉を開けてしまった。


 そして目に映ったのは、バスローブ一枚で無防備に横になる、彼女の姿。


 一気に身体が熱くなり、顔を逸らした。


 彼女も慌てた様子で座り直していたが、着替えるのを待った方がいいだろうかと悩む俺に、にこりと微笑みかけてくれた。


 遠慮がちに焼き菓子を渡せば、彼女は予想以上に喜び、たまらなく可愛い笑顔を見せてくれた。


 思わずクラクラと目眩がしそうになり、ついその気持ちを素直に口にすれば、彼女からは少し冷たい言葉が返って来た。


 不思議に思い話を聞くと、彼女はこの結婚に乗り気でないということがわかった。


 情けなくも酷く落ち込んでしまったが、どうやらその理由は彼女が俺のことをよく知らないから、ということらしい。


 俺は既に彼女に惚れているから問題ないのだが、その気持ちはよくわかる。


 では、俺を知ってもらい、好きになってもらえば問題ない。


 絶対に彼女は離さない。


 そう心に誓い、明日から彼女と過ごす時間を多く持てる約束に、胸を弾ませたのであった。

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