第67話 上月秋那と 5月22日
5月22日(土)『表』
時刻は朝8時。
アウトドアでもない土曜日の外出としてはかなり早い時間だ。
実はもっと早く6時には起きて準備完了していた。
しかしさすがに非常識かと思い今まで自重していたのだ。
「♪~♪~~♪ ぐえっ!?」
鼻歌を歌いながら慣れないスキップをしてしまう。
そして小石に足を取られて転倒し部活に向かうであろう女子中学生に笑われた。
だが今の俺にはこの程度なんのこともない。
『明日、都合が良ければ新居に来ませんか? もちろん期待してOKだよ』
昨夜、秋那さん――陽助の助けも借りて質の悪いヒモから解放した女性――から貰った一文だ。
「向こうから新居に呼んでくれたならもう切られる心配はなさそうだ」
更に『期待してOK』の一文。
男子高校生が年上のお姉さんからそんなことを言われれば期待することは一つだ。
「これはやりまくれるぞ」
俺は期待やその他の色々も膨らませながら、再びのスキップで秋那さんの新居に向かう。
「さて普通だ」
到着した場所は普通だった。
貧乏アパートとも言えないが豪華マンションでもない。
普通の6階建てマンションだ。
秋那さんが前に住んでいた豪華タワマンとは比べ物にならない。
俺は軽く頭をかく。
「わざわざこの場所を選んだ……というのは考えすぎかな」
ここまでの道中はとても見慣れた景色だった。
それも当然で、このマンションは俺の家から学校までの経路上にあったのだ。
家から7割、学校から3割ぐらいの位置取りか。
「とりあえず会おう」
時間はまだ午前8時半になっていない。
向こうからの呼び出しとは言え、夜型の秋那さんは起きているだろうか。
などと考えながらチャイムを押してみる。
『どうぞー』
ほぼ待ち時間なく応答がありオートロックが音を立てて開く。
エレベーターに乗って3階へ、一応玄関前のチャイムも鳴らしてから扉を開く。
「いらっしゃーい」
「……うわっ」
玄関が開かれた瞬間、俺は秋那さんに抱きつきながら部屋に飛び込み扉を閉める。
「こらこらー押し込みはダメだぞー。1年前のトラウマが蘇るからー」
「前にもあったのかよ……って恰好なんですかそれ!」
俺が強姦魔のような真似をした原因は秋那さんの格好だ。
上下ともに下着姿、いやもう下着と言っていいのかわからないぐらい透けに透けている。
というかほぼ全部見えている。
「君スケベだしセクシーなの期待してたでしょ?」
「期待してましたけどやりすぎです。誰かに見られたら引っ越し早々襲われますよ」
割と真面目に警告するが秋那さんはケラケラ笑いながら俺の手を引く。
「まーまー続きは中で話そうよ。前に比べたら狭いけどねー」
俺はセクシー秋那さんに手を引かれながら若干前屈みで部屋を案内される。
狭いと言っても間取りは2LDKだった。
風呂もウチと同じぐらいの大きさだし単身者用としてはそれなりの広さだろう。
表で一人暮らしなんてしたことないからわからないが。
俺はリビングに案内され、新品の匂いがするソファに腰かける。
「ビールでいい? タバコは私のやつで良ければテーブルにあるよ」
「ああ。サンキュ」
俺は冷えた缶ビールを片手にタバコに火をつけ――。
「高校生なんだよなぁ」
「あは、そうだったね」
秋那さんはビールとタバコを引きあげ、コーラとポテチを置いてくれた。
「店の知り合いに聞いて見たけど、コウの奴あれから一度も見かけてないんだって。君の方はなにか悪さされてない?」
「まったく問題ないですよ。きっともう現れないと思います」
そう答えると秋那さんは安心したように笑う。
「そっかよかった。高校生にボコボコにされたのがよっぽど効いたのかな? あはは」
もうこの世にいないから当然……とは言わないでおこう。
無駄に秋那さんの気分を悪くさせることはない。
「もう連絡来ないかと思っていました」
秋那さんは小さく首を傾げる。
「どうして? 別れ際1週間後ぐらいに連絡するって言わなかったっけ?」
あの日の光景を思い出す。
俺はヒモ男を文字通りボコボコにした。
殴りつけてやったなんて生易しいものではなく、本当に破壊しようとしたのだ。
そんな狂気を間近で見せられた秋那さんが俺を怖がり、遠ざけようとしても当然のことだ。
だから俺もあえて連絡をとるつもりはなかった。
「あの時の俺、怖かったでしょう? こんな男を新居に招くのは嫌かなって」
秋那さんは更にもう少し首を傾げ、プッと噴き出す。
「あーなるほど。全然連絡来なかったのは私が逃げようとしてたと思ったのかぁ」
笑いながら俺の背中をバシバシ叩く。
「平気平気、私を舐めすぎだよー。私って高校中退してからずっと悪い奴らの玩具にされてたんだよ? 目の前で喧嘩なんか当たり前、一緒に居た男をボコボコにされてその場で犯されるなんてしょっちゅう……つらくなってきた」
秋那さんのテンションがモリモリ下がってきたので後ろから抱き締めて頭を撫でる。
「自爆で傷付くのやめて下さいよ」
「私の人生丸々トラウマみたいなもんだから……あー若い男の子に優しくされると生き返るわー」
秋那さんは俺の腕の中で軽く伸びをし、体を反らせて俺の顔を見上げる。
セクシーを通り越してもうセックス以外の目的を感じさせない下着姿、柔らかく伝わる体温、成熟した甘い女の香りと徐々に荒くなる息遣い……五感全てが目の前の女を抱けと訴えてくる。
後ろから密着している状態で男がこの感情を隠すのは不可能だ。
「さっすが高校生、反応が早い」
秋那さんは茶化すように笑ってから体を離そうとする。
そこで女体を逃がしてなるものかとオスの本能が発動した。
俺は咄嗟に秋那さんの腕を捕まえて抱え直し、そのままソファに横倒しになる。
「うーわ。完全にエッチする気だ」
「当たり前じゃないですか。昨夜連絡貰った時からその気でした」
秋那さんは抱きしめられながら器用に体を捻り、目を閉じてキスを求める。
もちろん拒む理由など無く、俺は即座に顔を近づけた。
「んふ」
だがキスの直前で首をひかれて空ぶってしまう。
もう一度……。
「んふー」
またも空振った。
ニヤニヤ笑われているところを見るとわざと躱されているようだ。
焦らされて鼻息が荒くなっていくのが自分でもわかる。
早くキスがしたい、キスをさせろと強引な三度目……。
またもスルリとかわされたが、その瞬間に俺は抱擁の手を解き、秋那さんの後頭部と肩を押さえて強引に唇を押し付ける。口が合わさるなり強引に舌をねじりこみ、秋那さんの舌を絡めとって舐め回す。
「ぐむっ……もごもご……ふふ」
晴香や奈津美なら真っ赤になってされるがままだろうが、秋那さんは薄目を開けつつお手並み拝見とばかりにニヤついている。
「ムチャクチャキスしますからね」
こんな顔をされたら男の誇りにかけて全力で行くしかない。
俺はこれでもかと舌を絡ませ、むせるほどの唾液を送り込み、口内を余すところなく舐め回す。
秋那さんは俺の乱暴なキスを受け止め続け、攻め疲れた俺が舌の動きを止めた瞬間反撃に出る。
やや肉厚な舌が吸盤でもついているかのように俺の舌を絡め取り、ヘビのように巻き付きながら硬くした舌先で俺の口内をチロチロなぞって刺激する。
更に攻撃は続く。
初めての刺激に思わず引いてしまった舌を追いかけて俺の口内に飛び込み、今度は絡めるのではなく舌の全面をベッタリ擦りつける濃厚なキス……いやもうこれはキスではなく口のセックスだ。
なんとか反撃に出ようとしても絡めとられて刺激され、力が抜けて引いてしまえばベッタリ濃厚キスが襲ってくる。
「ぐ……」
肩に手を置いて距離を取ろうとするも逆に尻に手を回されてグチャグチャのディープキスが続く。これはだめだ……俺の敵う相手じゃなかった。
ギブアップとばかりに秋那さんの背中を軽く叩いてようやくキスが終わる。
男の側からやめての合図を出したのだから完全敗北だ。
「俺の負けです……まるで敵いません」
「フフ当然。高校生が私にキスで勝とうなんて甘い甘い……それじゃあしよっか」
秋那さんは勝利の証とばかりに俺の鼻先を舐めて勝ち誇った。
「ちなみに君、結構ヤってるよね?」
「いえほぼ童貞ですよ」
食い気味に即答する。
俺の経験人数は3人……まあほぼ童貞でいいだろう。
「ほんとかなぁ? まあいっか、ゆっくり確かめてあげる」
「あ、少しいいですか?」
俺は期待に胸と色々を膨らませながら2箱のXLを引っ張り出す。
それを見た秋那さんは今までで一番のニヤリ笑いを浮かべた。
「ちゃんと準備してくれたんだーありがとね。ってXL? この箱プライベートで見るの初めてかも」
笑いながら秋那さんは俺の手をとる。
そして連れ込まれたのは大きなベッドだけが置かれた寝室だ。
部屋は空調で適温に保たれ、甘い匂いのするアロマが焚かれて加湿器まで入っている。
準備万端の光景にますます興奮が高まる。
「はいこれ」
渡されたのは数枚の紙切れ……診断書?
「私の職業柄心配かと思ってさ。オールグリーンびょーき無し」
「それはなによりですけど」
突然生々しいことを言われても反応に困るな。
「で、薬も飲んでるから」
秋那さんは何やら良くわからない薬をヒラヒラを見せてからベッドに横になる。
「ソレいらないよ」
「いらない? それは……」
『いらない』の意味を理解した途端、俺の心臓がドクンと脈打った。
思わず身を乗り出した俺を秋那さんは更に挑発し続ける。
「自然のまま、動物みたいに、していいってことだよぉ」
一瞬にして俺の息は荒くなり、心臓の音が自分でも聞こえるほど高まる。
「目が怖いなぁ。ふふ、おいでぇ」
秋那さんはベッドに倒れ込み、挑発するように舌を出しながら手招きする。
俺の手からXLの箱が滑り落ちる。
オスの本能が沸騰した俺は下半身の命ずるまま野獣のように吠えて秋那さんに飛び掛かる。
「わっ本当に動物みたいになっちゃった! きゃー食べられるー。交尾されるーアハハ」
ベッドに押さえ込まれながら秋那さんは余裕の表情と態度で笑い転げる。
俺はそんな彼女を組み敷き、人生で初めてオスの本懐を遂げたのだった。
――午後4時
俺達は硬く抱き締めあっていた体を離し、グッショリ湿ったベッドの上で並んで仰向けになっていた。
「あー激しかったぁ。君の精力とんでもないね。頑張った頑張った」
うつ伏せでぐったりとしている俺の頭を秋那さんが撫でてくれる。
「魂まで出た気がします……起き上がれない……」
俺が情けない声で言うと秋那さんは楽しそうに笑いながら体を起こす。
「7時間もぶっ続けでやったらそうなるって。お腹も減ったでしょ? ピザでも頼むねー」
言いながら秋那さんが電話をかけるが、その声色は最初と変わらない。
掠れた声でようやく返事できる俺とはえらい違いだ。
注文を終えると秋那さんは再び俺の隣に来て汗まみれになった体を優しく拭いてくれる。
拭きながら首筋や胸板、背中にちょんと跡が残らない軽いキスを繰り返す。
「どうだった私の体? 気持ち良かった?」
言うまでもない。
「最高でした。気絶するかと思った」
俺は力を振り絞ってなんとか体を起こして秋那さんの胸の間に顔を埋める。
「ずっと触ってたもんね。おっぱいそんなに好き?」
「ええ、この適度な硬度がたまらなくて」
カキンと空気が固まる音がする。
「ええと、誉ちゃん?」
秋那さんは俺を『誉ちゃん』と呼ぶようになった。
「……胸の秘密にお気づきになりました? 最高級のやつだから見分けつかないと思ってたんですけど」
突然敬語になる秋那さん。
「あー以前酔っ払った時に自分で」
「グエー」
バッタリと仰向けに倒れる秋那さん。
「もしかして顔の方も気付いてたり?」
「薄々、今ので確信になりました」
秋那さんはベッドから転がって床に落ちる。
まあこれだけ密着して色々すれば鼻のラインとか顎とか気付いてしまうよな。うん。
「人造の巨乳はお嫌い……?」
冗談めかして聞いてくる。
しかし少しだけ本気の口調が混じっているのもわかった。
一瞬でもためらってはいけない。
「大好きですよ。顔を埋めた時の適度な弾力が癖に――」
「さ、最高級のやつで触感は自然のやつと変わらないからぁ!」
バタついて文句を言いながらも秋那さんがホッと息をついたのがわかる。
まあちょっと顔をいじるだの胸を膨らませるだの些細なことだ。
さて今度は俺のセンシティブな問題を聞いてみよう。
「……俺のエッチどうでした?」
秋那さんは男女の行為についてプロ中のプロだ。
その彼女から見て自分のセックスがどの程度のものなのか是非意見を聞いておきたい。
バタつくのをやめた秋那さんはベッドに上がってふむと頷く。
全裸のまま顎下に手をあてて熟考する様は少し滑稽だが、全裸のまま正座で答えを待つ俺も十分滑稽なのであいこだな。
「まず勢いは80点かな。最初から最後までガツガツ来れるのはさすが高校生だね。私も激しいの好きだから噛み合ってかなり良かったよ。もう少し体力があったら完璧かも」
なるほど、やはり体を鍛える必要があるか。
「テクは……良かった……良かったかな? うん、まだ高校生だもんね」
フイと逸らされる目が気になって素直に受け止められない。
なのでもう少し押してみる。
「さっきみたいに点数つけると何点ぐらいです?」
秋那さんは困った顔をして目を泳がせてから俺に向かってゴメンと手を合わせる。
「15点……かな」
今度は俺が『ぐえー』とばかりにひっくり返る。
「だってぇ……胸揉むのとキスする以外、ただ激しく腰振ってるだけなんだもん。高得点は無理だよぉ」
まだだ……まだ挽回のチャンスはある。
俺はシーツを掴んで体が起こそうとする――。
「タフネスはどうでしょう? 点数でお願いします!」
「……30点かな。ちょいはや……ぐらい?」
俺は手を滑らせて今度はうつ伏せに倒れこむ。
「ごめんねぇ。もう少し頑張ってくれたら私もって場面がいっぱいあったからさ。勢いが良かっただけに早いのが残念で残念で」
「はや……い」
俺はベッドに突っ伏したまま動けなくなる。
女性に早いと言われるのがここまでダメージ来るとは思わなかった。
つまり俺は勢いだけはあるのにヘタクソで早いってことなのか。
もうダメだ。立ち直れない。
晴香や奈津美も本当は事の後『誉ってヘタだよなぁ』とか『誉さんってほんと早いですね』なんて思っていたかもしれないのだ。
恥ずかしくて情けないのにちょっと興奮してしまうのはどういう訳だろう。
「で、総合評価が」
「……はい」
聞くまでもなく赤点だろう。
一教科だけ80点でも他がガタガタではどうしようもない。
そういえば今日もテスト勉強できなかった。
俺はこのまま中間テストでもセックスでも赤点をとってしまうのだろうか。
「80点かな」
「いやいや下駄が高すぎますよ」
今の流れだと情けをかけられているとしか思えず喜べない。
「ま、色々言ったけど多少のことなんてコレの前では全部隠れちゃうって。ここまでのは大きさが売りの男優さんでもまずいないわ。というか誉ちゃんこれを同級生とかに使ってるの? そんなのほぼ犯罪だよ。R25かR人妻指定の代物でしょこれ」
褒められるのは嬉しいが、早くてヘタクソで勢いはすごくてデカいとかエロファンタジーに出てきそうなオーク的な生き物ではなかろうか。
俺が悩んでいる姿を見て笑っていた秋那さんがふと真面目な顔になる。
「さてと。これで私は心も体も誉ちゃんの女になったわけだけどさ。どうしよう?」
はて、と俺は悩んでいた顔をあげる。
「私、お店このまま続けていいの? ビデオも次の出演依頼とか来てるんだけどなぁ」
「む……」
秋那さんとそういう関係になったからと言って彼女に仕事をやめろなんて言えない。
俺が彼女と結婚するとか生活全部を面倒みるとかなら別だろうが。
だから『俺は気にしませんので、うんぬん』と答えないといけないはずだ。
「辞めて下さい。秋那さんが他の男に抱かれるのは腹が立ちます――おおぅ」
頭の中で出した結論と全く違う答えが口から飛び出てしまった。
「……訂正します。えっと俺が口出しできることじゃないので――」
「ううんわかった。すぐに辞めるね」
言い直そうとする俺の声に被せて秋那さんが言い切る。
これではもう何も言えない。
「いいんですか? 結婚するでもなくこうやって肉体関係だけ持とうとしてる男の為に」
「いいよ。誉ちゃんすごくいい男だもん。私を本気で守ろうとして、私の為に本気で怒ってくれた人……しょっぱい男なんかと付き合うより君のセフレにでもなる方が絶対幸せになれるから」
秋那さんは俺を押し倒して頬に手を添える。
「買いかぶりかもしれませんよ」
「ううん信じる。誉ちゃんは良い男だし、もっといい男になるよ」
俺の顔を引き寄せ、自分の胸に埋めさせる。
豊胸手術がどうした、最高の感触だ。
「私が教えられるのはエッチなことぐらい。だからたっぷり仕込んであげる……同級生じゃとてもできないようなこともいっぱい教えて君をとんでもなく良い男にしてあげる」
百戦錬磨の秋那さんに仕込まれたら俺はどうなってしまうのだろうか。
「とんでもなく良い男になったら……私のこと傍に置いて守って欲しいな。もう二度と辛い思いしなくて済むように」
「約束します」
そこは本心から即答できた。
俺の力の届く限り秋那さんにもう辛い思いはさせない。
「ふふ。やっぱり良い男だ」
秋那さんが俺にキスをくれようとした時、玄関のチャイムが鳴る。
「ピザ来たみたい。受け取って来るね」
ひょいとベッドから出て行く秋那さん。
俺の体もたっぷり出したのだから次は栄養を入れろと訴えて腹を鳴らす。
この空腹に脂っこいピザはさぞ美味いだろうと涎が――。
「って秋那さんそのまま行った――!?」
宅配兄ちゃんの驚く声が部屋に響いた。
「それじゃあ今日は帰りますね」
ピザを食べ終え、追加でもう一戦すると時間は既に夕刻だった。
俺は絞られすぎてふらつく体をなんとか制御して玄関まで向かう。
「うん今日はありがとうね。またいつでも来てね。なんなら学校でムラっとしたら寄ってくれていいからね。その為に君の学校と家の間のマンションにしたんだし」
やはりわかってて選んだのか。
学校帰りにエッチなお姉さんの家に寄って帰る……どんな高校生だ。
「あっそうだ忘れてた。ちょっと待ってて」
秋那さんは俺を留めて部屋に戻り、なんだか分厚い封筒を持って来る。
「はいこれ」
そして俺のポケットに封筒を押し込む。
「なんですこれ?」
確かめてみると万札がごってり入っていた。
「……」
「わざわざ家に来てくれたんだから30は要るかなと……少なかった?」
俺は笑顔で秋那さんを呼び、頬っぺたを引っ張る。
「だからヒモ飼うムーブをやめろっての!」
「痛いー! だってお金渡さないと次来てくれるか不安になるんだよぉ! 助けると思って貰ってー」
両隣の部屋から人が出てくるほど騒いだ末に俺達はキスをして別れる。
隣人達に見せつけた感じになったのはまあご愛敬だ。
秋那さんは本当に悪い男誘引機なので、しばらくは俺が近くに居た方が良いだろう。
もし本気で彼女のことを思い、受け入れ、かつ俺より頼りになる良い男が来たら見送ってあげればいい。
来なければこのまま俺の女として頂こう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
5月22日【裏】 昼
裏で目を覚ました俺は足を折ったタイコさんと並んで空気マットの上に寝かされていた。
昨日ぶっ倒れた俺をアオイが一人で運んでくれたらしい。
水浴びするつもりで全裸になっていたせいでそれはもう大変な光景だったとか。
俺は立ち上がろうとして呻きながらマットに戻る。
「酷い筋肉痛だ。尋常じゃないぞ」
痛すぎてまともに体が動かない。
「背負われてた私が言える立場じゃないけど、昨日のはちょっと尋常じゃなかったものね。もうやっちゃだめだよ」
頼まれたって二度とやりたくない。
でも命がかかればまたやるだろうと考えて返事はしない。
「しかし俺が調達に行かないと物資が」
特に水はほぼ無かったはずだ。
「大丈夫だよ。ほら外」
アオイが外を指差すと雨がシトシトと降っている。
『表』の昼は夢中になり過ぎて雨に気付かなかったのか。
小さな窓から板を突き出し、その上にいくつかの容器を乗せておく。
これで最低限の水は確保できる。
目先の心配がなくなったところで俺は隣に寝ているタイコさんに呼びかけた。
「筋肉痛が治ったらタイコさんの居た居住者に接触します。彼らについて知っていることを何でも良いので教えて頂けますか?」
まずは相手の情報を知らねばならない。
その上でこちらもカード、もしくはハッタリを用意するのだ。
『表』
主人公 双見誉 市立両河高校一年生 いい男 仮
人間関係
家族 父母 紬「姉」新「弟」
友人 那瀬川 晴香#21「勉強」三藤 奈津美#5「勉強」風里 苺子「勉強」江崎陽助「温泉旅行」高野 陽花里#1「彼氏と勉強」上月 秋那#12「エッチなお姉さん」
中立 元村ヨシオ「ゲーム」
敵対 キョウコ ユウカ「復帰間近」タカ君「陽花里彼氏」
経験値105
【裏】
主人公 双見誉 放浪者
拠点 新都雑居ビル8F 3人
環境
人間関係
同居
アオイ「お世話」タイコ「怪我人」
中立
風里2尉「観察」
備蓄
食料15日 水2日 電池バッテリー0日分 燃料1日分
経験値95+X
随分と間が空いてしまいました。
次は早めに更新したいですね。