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第53話 デート3.5連発③晴香 5月16日

5月16日(日)新都ホーム


「お待たせ! 待った!?」


 俺は苦笑しながら晴香を見る。


「……俺が15分早く来て、お前が15分遅く来たからな」


 晴香はウンウンと大きく頷く。


 昨日と同じような待ち合わせは事前に予定していたわけではない。


「ここから見てたのかよ」

「見てたのだ!」


 陽花里と待ち合わせているところを晴香に見られたらしい。

話を聞いた時は陽助が漏らしたと確信してトークにおっさんのスタンプを連打したが、どうやら見つかったのは偶然だったらしいので罪滅ぼしに綺麗な花のスタンプを連打しておいた。


「それじゃあ行こっか!」


 晴香が俺の手を引いて進む。


 今日の晴香は体にぴったりとした長袖にパンツスタイルだ。

露出はほぼ無い……無いのだが。


「お尻でっかいなぁ」

「デート初っ端でセクハラするな!」


 勢いよく振り返る晴香の胸が服越しにわかるほど揺れる。

こっちも負けずにでかい。

 

 奈津美は胸、陽花里はお尻がそれぞれ大きくて魅力的だ。


 だがサイズ的には実は晴香の方がどっちも大きい。

2人はどちらも体が小さかったり華奢だったりするので強調されてすごく見えるのに対して、逆に全部大きい晴香は長所が並び立ち、大きいままにバランスが取れてしまうのだ。


「お尻ばっか見てないで早く行くよー」


 俺の手を引いて駆けだす晴香に周囲の男の視線全てが集中する。

小学生から同年代の若者、中年のサラリーマンから柄の悪そうな兄ちゃんまで全員が見ている。  


 そんな男共を差しおいて俺が晴香の隣にいる。


「ふっふっふ。私の方が楽しくしてやるからね!」


 そして俺を楽しませようとしてくれるのだ。

ここは胸を張って男共の間をウイニングランといこう。



 俺達は陽花里と行ったスポーツ施設に入り、偶然にも同じテニスで遊ぶ。


「いくよ!」


 とんでもなく高い打点から打ち下ろされる晴香のジャンプサーブ――。


「えいっ!」


 残像を残すような勢いでネットギリギリを通過してくる晴香のレシーブ。


「チャンス!」

 

 俺が構えた瞬間にネットまでチャージした晴香のボレー。


「まだまだ!」


 前に出たところで後ろに打っても、ものすごい速度で追い付いて返して来る。


「おらぁ!」


 なんとか一点取ろうと打ったスマッシュをスマッシュで返される。


 動きの予測とか相手が打ちにくい場所に返すとかそういう問題じゃない。

単純に身体能力で圧倒されてしまってどうしようもない。


「むっふー」


 完敗した俺が仰向けに倒れると晴香は腰に手を当てドヤ顔で見下ろしてくる。 


「俺を楽しませるのでは……?」


 と言いつつ、とても楽しかった。

ばるんばるん、ゆっさゆっさ揺れていた光景もだが、命の危険さえなければ全力で運動するのはとても楽しいものだ。特に晴香相手には遠慮なく全力でいけるから。


「次に行こうか!」



 次もこれまた偶然か昨日と同じボルダリングだ。


「ふむふむ……なるほど……」

 

 初体験らしい晴香はスタッフの説明に集中する。

俺は怪訝そうな表情から軽蔑に変わる童顔筋肉質お姉さんの視線から逃げるように顔を伏せる。


「それじゃいってみるね」


 晴香は壁に手をかけ、昨日俺が避けた最難関ルートに飛び込んでいく。


「……すごいな。おい」


 晴香は昨日の俺など比べ物にならない速度で軽々と登っていく。


 良く見ると晴香は片手だけで自分の体重を支えているのがわかる。

そりゃ楽々行けるわけだ。


「綺麗でバランスの良い筋肉……やっぱり男より女性の体の方が……ぶつぶつ」


 スタッフの女性が怪しいことを言い出した。

一瞬お姉さんと晴香がベッドインしている光景が脳裏に浮かんでニヤついてしまう。


「はわっ!」


 突然晴香が妙な声を出す。

どうやら昨日俺が懸念した場所で手を滑らせたようだ。


 片手で体重を支えられていたからもう片方の手は遊んでしまっている。

つまりそのまま落下してくる。


 力に任せてごり押すとこういうことがあるから注意しないといけない。

まあ落下の姿勢も良いし、マットに落ちたところを笑ってやろうと思いながら――――俺の体は脳の制御を離れ、落下する晴香の下に駆け込んでしまう。


「お客さん危ないです!」  

 

 そう危ない。

軟らかいマットがあるのにゴツゴツした俺が割り込んだら逆に怪我をさせてしまうかもしれない。

わかっているのに体が止まらない。


『もう絶対に誰も失えない』


 いやいや、こっちでは誰一人失っていないのに。

 

 脳が意味不明なことを考え体は勝手に動く。


 そして晴香は空中で姿勢を立て直し、両手で石――ホールドと言うらしい――を掴んで止まった。


 俺は特に意味もなく晴香が落ちる予定だった場所に滑り込む。


「誉、なにしてんの?」

「なんでもない」



 スタッフに割とがっつり怒られた俺達はバッティングコーナーへ向かう。


 昨日はここで陽花里の体力が切れたが、晴香に限ってそれはない。


「目指せ三冠王!!」


 ヘルメットとバット姿の晴香が気合いを入れて構える。

乳、尻、顔で三冠王と思い浮かぶも、凶器を持っている晴香に言うほど愚かではない。


「野球やったことあるのか?」

「バット持ったのも初めて……そりゃ!」


 晴香の体を豪快に反らせるフォームからの強烈なスイングは見事に空を切り、晴香は漫画のように一回転した。


「すんごいスイングだな」


 風を切る音が隣のコースまで聞こえたぞ。

だが当たらなければ意味はない。


「まだまだ!」


 次の球もまた空振る。


「まず球にあてていこうぜ。こんな風に……」


 俺はオーソドックスなフォームで球を弾き返す。

打球はピッチングマシンの少し上へ飛んでいった。

実際の野球ならセンター前ヒットかな。


「こう?」


 コキンと鈍い音が鳴りボテボテのゴロが一塁線に転がっていく。

一塁手がヘタクソならヒットになりそうな当たりだ。


「その調子で少しずつバットの芯で捉えるように」

「そりゃあ!」


 だからフルスイングすんなっての!


「鬼のようなアッパースイングもやめろ。もっと言うなら球速設定MAXにすんな。てかバット握ったの初めてで140km当てたのかよ。すごいな!」


 俺は苦笑しながらめげない晴香の空振りを眺め続ける。


 スイングの度に揺れる胸は置いても汗を散らしながら必死に構える姿が美しい。 


「ま、楽しむのが一番だよな。ブツブツ細かいこと言ってバットに当てるだけじゃ面白くない」


「どりゃあ!」


 俺が独り言を言い終えた時、晴香のバットが遂に140kmの速球を捉えた。

一瞬バットに張り付いて見えたボールがピンポン玉のような勢いで飛んでいく。

角度は斜め45度、俺がピッチャーなら後ろを見ずに膝をつくようなあたりだ。


『ホームラァァァァン!!』


 場内にアナウンスが流れて皆が拍手をしてくれる。

晴香は汗を拭いながら応え、嬉しそうにこちらに来る。


「三冠王だ!」

「2割4分40本の助っ人外人だよなぁ」


 晴香は不満げに頬を膨らませながら俺の腕を取る。


「次は――」


 

 この後、ボウリング、バスケ、アーチェリーを楽しんだ俺達はやはり食事のために施設を出る。


 場所的に昨日と同じところで食べる流れになったのだが。


「どんだけ食うんだよ……」


 俺は牛丼とハンバーガーとカレーを食べてからクレープの列に並ぶ晴香の頬を引っ張る。


「いっぱい動いたからお腹減ったんだって! あ、イチゴクリームとオレンジ&メロンを下さい。誉は何にする?」


 つまりその二つはお前一人の分なんだな。


「俺は晴香のを少し貰うよ」


 晴香はふむと頷く。


「イチゴクリームもう一つ下さい」

 

 そういうことじゃねえよ。


 陽花里とのクレープからのイチャつきを思い出すが、これだけ物量があると色っぽい雰囲気にはなりそうにないな。 

 



「ねえ誉……」

 

 食事を終えた晴香が照れて目を泳がせながら言う。


「その細い腹に全部収まるなんてすごいよな。人体の神秘だ」


 ポコリと殴られる。


「すまん、何の話だっけ」


「あの店入らない?」


 まだ食うのかと見ると昨日も行った喫茶店だ。

まさか昨日のデートをずっと見てたわけじゃないよな。


「いらっしゃいませー。当店ではカップルフェア……」


 しかも昨日と同じ店員だった。

可愛らしい店員さんは俺を見てまず脅えの視線を、次いで腕を組む晴香を見て軽蔑の視線を向けてくる。

考えていることも言いたいこともわかるし、誤解でもないけれど晴香が困っているから穏便に頼む。


「キスだって。どうする?」


 晴香がモジモジしながら言う。

入る前から知ってただろう、とは言わない。


「いつもしてるのに恥ずかしい?」

「そりゃそうだよ。人前ではやっぱり……さ」


 俺は晴香の肩を抱き、唇を近づける。

晴香も目を閉じ、唇を突き出してキスを待つ。

このままただキスをしても面白くないな。


 俺はあえて唇を押し当てず、息がかかるぐらいまで接近しながらまた離した。


「まだひっついてません! まだ駄目です!」


 店員の判定も厳しい。


 俺は再び唇を近づけ、鼻から頬に息を吹きかけるもキスはしない。


「うー」


 恥ずかしさと焦れで真っ赤になって寄って来る晴香の肩を押しとどめながら、触れるか触れないかの距離を保ち続ける。


 すると晴香の突き出していた唇が開いて舌が覗き、なんとか俺とキスがしたいと伸びてくる。


「もう少し」


 意地悪な口調で言うと更に舌が伸びる。

隣で見る店員さんにも晴香が伸ばす舌がはっきり見えているだろう。 

肌はまったく出ておらず、どこもに触れていないのに相当にいやらしい光景のはずだ。


「まだよ……まだまだ……まだ触れてない……私なに真面目に判定してるんだろ」


 店員さんの厳しいチェックは、みなしキスを許してくれない。


 そうこうしているうちに晴香はもう伸ばせる限界まで舌を出してしまっていた。


「エッチな舌」

「むぐー!」


 抗議の声と共に晴香が目を開くのを見計らい、晴香の舌をペロリと舐める。


「ハイ認定! 認定です! 店長――!!」


 店員の声を聞きながら、俺達はダメ押しとばかりに抱き合い舌を絡め合った。




「少し話たいことがあってね」

 

 カップルフェアのコーヒーと特に関係ないパフェを並べて晴香が言う。


「おう」


 俺も何故か半分ぐらいしか入っていなかったコーヒーを前に頷く。


「誉、水曜からおかしいよね」


 正面から切り込まれて一瞬硬直してしまう。


「どうして?」


「なんとなく。雰囲気で」


 そう言われてしまうと言い逃れもできない。

だが同時に隠し切れなかったことが嬉しい。


「それでみんなで話し合ってさ。元気づけようとしたんだけど……かなり戻ってるね」


 晴香は少し……いやかなり不機嫌そうに言う。


「高野さんのおかげ?」

「違うな」


 沼に沈みかけた俺が這い上がれたのは秋那さんをなんとかできたこと。

そして何よりアオイが助かってくれたからだ。

陽花里と遊んで浮上したのではなく、浮上したからこそ陽花里と遊べた。


 そういえば陽花里と不良とのトラブルもあったかな。

あんなものは準備運動みたいだから数に入れないが。


「なら良し!」


 晴香は安堵を息を漏らしてパフェを切り崩し始める。


「しかし動き出した企画は止まりません。よって近くみんなで誉をアゲるパーティをします」


「アゲ……?」


 晴香はパフェを豪快に掬って俺の口元に持ってくる。


 俺が拒否するとニマーっと笑った。

照れてるんじゃなくてもう腹に入らないんだよ。

 

 みんなと言えばいつものメンバーか。


「いいな……嬉しいよ」

 

 俺は笑って答えたが晴香はじっと俺の目を見てくる。


「やっぱりまだ何か変だよね。言ってくれたら楽になるのに」


「さてなぁ」


『裏』のことは言うつもりはない。

晴香であっても。 



 俺達はパフェを食べ終え――訂正だ、デカいパフェを食べ終えた晴香とコーヒーを飲んだ俺は店長に睨まれつつ店から出る。


「あっ、お前!?」


 そこに敵意の籠った驚きの声


 またこの流れかよ。

今度はどんなチンピラムーブで脅してやろうかと不良4人組に向き直る。


「違ったわ」

「は?」


 そこに居たのは陽花里だった。

正確には陽花里と彼氏の本名を知らないタカ君だった。


「A組の……二野だっけ双見だっけ? あーわかんねえや。お前陽花里と仲良いんだっけ?」


「まあボチボチな」


 タカ君、わざとらしく名前を間違えてくるなんて敵意剥き出しじゃないか。

昨日の俺みたいなチンピラムーブで威嚇してきても君のチキンは知っているから効かないぞ。


 陽花里を見ると小さくごめんと謝っている。

大方、昨日のデートが彼氏にバレ埋め合わせに急遽デートしてるって感じかな。

それなら俺を見て怒っているのも無理はない。


「んじゃ俺達はいくところあるから……」


 ここは威圧された感じで逃げておくのが賢い。

タカ君の情けなさがまず原因ではあるが、人の彼女とデートした上にディープキスからお尻に触ったり色々やったのだからこちらに非がなくもない。


 自分の女を守ろうと俺を威嚇するタカ君、気まずそうにモジモジする陽花里、ジトーっと無言で俺を見る晴香――なんだよこの組み合わせ。


「そうだね。お互い楽しくデートの続きしよっか」


 晴香が俺の腕を抱いてグイと引く。

もちろん視線は陽花里に固定だ。


「……ちっ」


 陽花里は舌を鳴らすも隣に彼氏が居ては俺になにか言うこともできない。

と思いきや、陽花里が動いた。


「あっつ。今日結構暑いね」


 手で仰ぎながら薄い胸元のボタンを一つ外す。 


「お、おい陽花里。あんま胸元あけんなよ、人に見られるだろ」


「えー。んなスケベな男いないって。いないよねぇ」


 意味ありげに俺に視線を向ける陽花里。

もちろん俺の視線は彼女の胸元だが、ボタン一つ外すぐらいで際どい所までは見えず、せいぜいシルバーのネックレスが見えたぐらいだ。


「――――!?」


 だが晴香は電気ショックでも受けたように跳ねる。


 それを見て笑った陽花里は彼氏の手を引き、人混みに消えていった。


「……誉」

「おう。どうした?」


 晴香はかなりの力で強引に俺の腕を引く。


「もっと仲良くしようよ」


 晴香の視線はホテルにロックされていた。

どうして突然晴香がその気になったのかわからないが、もちろん断るなんてあり得ない。


「時間もあるし長めにしようか。ジュースとお菓子とかも買って」


「うん! 買って来るから待ってて」


 瞬時に機嫌の直った晴香が近くのコンビニに走る。


「アレも無いから頼む。すぐ使うから袋いらないぞー」

「おっけー!」


 晴香は親指立てて機嫌よくコンビニに入っていった。


 そして二分後、色々引っ掴んで鬼の形相で出てきた。


「誉が乗せるから本当に言っちゃったじゃない! 店員にも客にもすっごい見られたぁ!!」


 晴香は堪えきれずに笑いだした俺を蹴飛ばしながらも手だけは離さない。

そのまま俺達は仲良くする場所に入っていくのだった。



――5時間後。

 

 仲良しが終わって余韻の残る中、晴香が俺に囁く。


「私と高野さんどっちが好き?」


「晴香だよ」


 俺は即答する。

というかこう聞かれて決められないなんて言えるはずがない。


「ふふ、私も大好きだよ誉」


 晴香は俺にキスをしてから何故かネックレスにむけて不敵に微笑む。

仲良しの最中も外させなかったがそんなに気になるのかな。



 そんな甘い雰囲気の中、俺の耳へ雑音が届く。


「こいつ変態なんです! 変な下着を穿いた下半身見せてきて」


「誤解さ。僕はただ水着を見せただけじゃないか。ほらもっと見るかい?」


「いい加減にせんか! 女の子が怖がっているだろう。それ以上やると逮捕するぞ!」


「もうやめて兄さん! どうしてこんなになっちゃったの!?」


「ははは、どうだ逞しいだろう?」


 本当に雑音だ。


主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「姉」新「弟」

友人 那瀬川 晴香#21「ほっこり」三藤 奈津美「直感」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」高野 陽花里「デート」

中立 元村ヨシオ「クラスメイト」上月 秋那「不明」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「復帰間近」

経験値59

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ホマ君サイズのを常備してるコンビニってなかなかニッチな商売してますよね
[一言] もしやタイゾウも表と裏行き来して抑圧をこちらで解消してる?
[気になる点] タイゾウお前・・・
感想一覧
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