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第51話 デート3.5連発①陽花里 5月15日

5月15日(土)新都駅ホーム


「や、誉。待ったー?」

「割とな」


 即答すると陽花里は空気を読めとばかりに胸を小突いてくる。


「俺は15分前に来て陽花里は15分遅れて来たんだから待ったに決まってるだろーが……っと!」


 俺はその手を掴まえ、冷たいジュース缶を陽花里の首筋に押し当ててやる。


「あひぃ!?」


 陽花里は珍妙な悲鳴をあげながらビクンと仰け反る。


「「……」」


 驚かせて笑うつもりが予想外にエロい声が出たので少し気まずくなってしまった。


「今の声で下の方がムラっときたけど大丈夫、気にするな」

「なんにも大丈夫じゃねー!」

 

 再び肩を小突かれながら俺達は並んで歩き出す。


 到着したのは新都のアミューズメントパークだ。

入口で一定額を払えばスポーツを中心に色々な施設が利用し放題となっている。

ビル一棟丸ごと全て使っているのでフットサルやテニスなど広いスペースが必要なスポーツもできるのが売りらしい。


 入場した俺は案内板を眺めるが多すぎて決めきれない。

というか本当になんでもできるな。

ゴルフ練習場からスポーツジムまであるのか。


「陽花里はどこいきたい?」


 こういう時は女の子の行きたいところに連れて行くのが正解だろうと聞いて見る。 


「あーなんでもいいよ。適当に選んで」


 なんだそりゃと力が抜ける。

陽花里の方から誘ったのに。


「だって別にガッツリスポーツしたい訳じゃないし誉と遊ぶのがメインじゃん? んで誉はあたしに薄着させて汗かかすのがメインじゃん?」


 まあ陽花里は特に運動好きじゃないしこんなもんか。

俺としても適当に施設を見て楽しむぐらいの気持ちだったしな。


「だから誉が好きなやつ選んでよ。――あと後半部分を否定しないの逆にビビるわ」


 陽花里は俺の腕をとって笑う。


 近くに居た男子中学生5人のグループがちらちらとこちらを見ている。

カップルがイチャついているように見えているのだろう。


「こんなの彼氏に見つかったらすごい修羅場になるだろうなぁ」


「萎えること言わないでよー。タカ君運動好きアピってるからマジで来る可能性あるんだってば」


 陽花里は言いながらも俺の腕をより深く抱く。

この体勢で胸が当たらないのは逆に新鮮……いや紬はそうだったな、うん。

 



 まず俺が選んだのはテニスだ。


 運動用のTシャツと短パンに着替えて陽花里を待つ。


「おまたー。あたしが中学の時テニス部だって良く知ってたねー。てか誉テニスウェア普通に似合う……何その顔?」


 俺の落胆した顔に気付いた陽花里が首を傾げる。


「俺と同じ格好なんだな、と」


 その一言で陽花里は全て察したのか、ぷっと噴き出す。


「ミニスカ見たくてテニス選んだのかよ! 誉のスケベは直球過ぎて笑えてくるし!」


 そしてラケットで俺の腹をつっつきながら続ける。


「今日は普通のパンツで来てるのにスカート選ぶ訳ないでしょ」


「そこをあえて選んでくれて打つたびに見れるかと思った……」


 こらラケットで頭を叩くのはやめろ。

スタッフが注意に来てるから。



 陽花里は経験者ということなので最初から試合形式で遊ぶ。


「いくよー。それっ」

「ほーい」


 陽花里のサーブを素人丸出しの山なりボールで返す。


「おー返せたじゃん」

「おー」


 更に打ち込まれてくるボールを同じ軌道の山なりボールで返す。


「これも返せるんだ、すごいじゃん」

「おーう」


 陽花里の打つボールが次第に勢いを増して来るが、俺は全て山なりボールで返し続ける。


「……普通に返してきてなんか腹立つ」


 陽花里はニヤッと笑ったかと思うと両手を開いて構え、今までとは段違いの勢いで打って来た。


 構えで強調された長い足と大きく張った尻、そして僅かに見えたヘソに気を取られてしまい動きが遅れた。ボールはネットギリギリを飛び越えて利き手とは反対側に飛び込んでくる。


「ちょっと速いぞー」

 

 俺は文句を言いながら即座にラケットを左手に持ち替えて山なりで返す。


 ちゃんとコート内に返したはずだが陽花里は打ち返してこなかった。


「……マジ? 誉テニスやってたでしょ始めて15分で今の返せるはずないって!」


「部活とかサークルは本当にやってないよ。ただ弟が中学の部活でテニスやってて、たまに練習付き合ってるからラケット握ったことはあるぐらい」

 

 だから相手の正面に山なりのボールで返す癖がついている。


「弟さんいるんだ。上手いの? 大会とかいけそう?」

「あー、んー、むぅ」

  

 俺は言葉を濁らせる。


 春休みの家族旅行が思い出される。

旅行先にテニス場があったので家族5人で遊んだのだが、新の『今日は本気でやろうよ』にしっかり応えたのが悪かった。


 俺は危うくストレート勝ちしそうになってしまい、慌てて一点取らせてやったのだが露骨過ぎたのか、かえって怒ってしまった。


 そして新が鬱憤を晴らすべく挑んだまったり系サークル所属の紬にも……。

せめて母親には勝てたのが救いだ。

 

「……なんかもう分かったわ。あたしも適当にやって辞めてるしね」


「いや新はちゃんと真面目にやってるんだ。部活も毎日行ってるし練習もしっかりやってる」


 そこはしっかりと否定しておく。

体格とセンスに恵まれていないだけだ。


 その後、俺と陽花里はラリーを続けて楽しんだ。  


 たまにミスショットの振りをしてわざと陽花里が不自然な体勢になるように打ち、丸くて大きな尻が強調されるポーズを楽しんだのは秘密だ。



 テニスに一段落ついたので次は陽花里が選んだ場所に向かう。


「ボルダリング?」

「そ、最近流行っててダイエットに良いんだって」


 スタッフから色々を説明を受けるうちになんとも言えない気分になってきたぞ。


「では実際にやってみてください~」


 スタッフに促されるまま俺と陽花里は壁によじ登り――同時に落下してマットに埋まる。

 

「こんなん無理。髪痛むしもうやめる」


「それでいいと思う」


 しっかり教えてくれたスタッフのお姉さんには悪いが嫌な思い出が蘇るのだから仕方ない。


 俺は口から泡を噴きながら垂直に近い壁を鬼の形相で登る……コンクリートの僅かな凹みに指を入れて体重を支え、爪が剥がれ飛べば別の指を突っ込む。

錆びた配管に足を引っかけ、突き出ているパイプにも噛みついて少しでも体を上に持ち上げる……。


「こんなこと必要なければやらない方が――」


「あたしは見とくから誉やってよ」


 ベンチに腰を下ろして鑑賞モードになった陽花里が俺を促す。


「あのなぁ……」


「誉の恰好いいとこみたいなー。見せてくれたらご褒美あるかもなー」


 仕方ないなと再びスタート位置に立つ。

スタッフの視線は冷たいが気にしないことにする。



 一つ深呼吸して眼前の壁を観察する。


 最短ルートはアレか……しかし俺の筋力ではやや手こずるかもしれないし、小さく跳ぶ必要があるから手が滑るリスクもあるな。


 なら次善は向こうのルートだ。

一か所滑りそうな場所もあるが、最悪滑り落ちてもアソコの出っ張りを掴めそうだ。


「いきます」


 宣言と同時に壁に取り付き、予定通りに登っていく。

ひょいひょいと登り、最後の石を両手で掴む。


「これでクリアですか?」


 終わりがわからないので呆然としていたスタッフに尋ねてみる。

あんぐり開いた半開きの口がとてもエロい。

筋肉質な体ながら同年代にも見えるぐらいの童顔がたまらない。


「は、はいクリアです! 最高難易度の一個手前です! 凄いですね!」


 やはり断念したコースが最高難易度だったか。


「とても初心者とは……」


「お姉さんがレクチャーしてくれたおかげです」


 握手で体温を感じようと手を差し出すも何故か陽花里に握手された。

それを見て女性スタッフが笑う。


「ダメですよデート中に浮気なんて」


「いやいや、むしろこの子が浮――むぐ」


 頬を引っ張られたのでここまでにしておこう。  


 スタッフの女性は微笑ましい目で俺達を見てから咳払いする。


「ただ気になるのは頻繁に下を見ていた所ですね。初心者の方にありがちなのですが落下してもマットがありますので思い切って――」


 下を見ずに思い切る勇気はないからなぁ。


「あとはすぐに上へ登るよりも斜め方向に登った方が良いコースもありますから――」


 そうは言っても低い場所でぶら下がっていたら掴まれてしまう。

なによりもまず手の届かない高さまで登るのが最優先だ。


「自分のタイミングで始められるのでゆっくり落ち着いて――」


 素手で壁登らないといけない時点でまずもって非常事態なんだよな。

深呼吸する余裕もあるかどうか。


 そんなこと言えないし、『表』で言っても仕方ないとスタッフのアドバイスに頷きながら目を逸らす。

逸らした先で陽花里と目があってしまい、慌てて普段の目に戻した。



 

 その後、陽花里も軽くボルダリングを楽しみ、運動はここまでとなった。


「疲れたしお腹も空いたから外でご飯にしようよ」


「おう。んじゃその前にトイレ行ってくる」


 俺はトイレに向かおうとしたのだが、間違えてスタッフ用の休憩室の前に来てしまった。

引き返そうとしたところで女性スタッフ同士の会話が耳に入ってくる。


「タイゾーがさぁ」


 聞き覚えのある名前につい足を止めてしまう。

まさかここにタイゾウいるのか。

確かにすぐ傍にスポーツジムがあるが。


「あのセクハラ野郎『〇〇ちゃんオッパイ大きいから肩凝ってるでしょー揉んだげよっかー。ぐふふ♪』とかぬかしやがってさ。マジ鳥肌立ったわ」


 あれ?


「あー私もされたわ。『最近、股ズレがひどくてさー。〇〇ちゃんの可愛い手で掻いてよー♪』だとさ。ガチガチマッチョの体で軟体動物みたいな声マジでキモ過ぎる」


 んん?


「今日から入った高校生のバイトちゃん胸おっきかったじゃん。タイゾーのやつマジで乳しか見てなかったわ。しかも突然、自分も乳首デカいとか意味不明な話を始めてバイトちゃん怖がっちゃってさ」


「女子高生までセクハラかますとかガチの変態じゃん。あのクソマッチョキモスギ……早く通報されてクビになんねーかなぁ」




「タイゾウ違いだな」


 さして珍しい名前でもない。

『裏』で知っているタイゾウとはあまりに違い過ぎる。

知らない秘密が一つ二つ出てくるぐらいともかく、ここまで酷いはずがない。


「そもそも本人だったらなんだって話だけど」


 会ったところで向こうにすれば初対面だ。

再会を喜ぶこともできない。


「急ごう。陽花里を待たせたら怒られる」


 俺は溜息をついてその場を後にした。


主人公 双見誉 市立両河高校一年生

人間関係

家族 父母 紬「まったりスポサー」新「テニス部」

友人 高野 陽花里「浮気デート」那瀬川 晴香#16「女友達」三藤 奈津美「庇護対象」風里 苺子「友人」江崎陽助「友人」

中立 元村ヨシオ「ボッチ」上月 秋那「不明」

敵対 仲瀬ヒロシ「クラスメイト」キョウコ ユウカ「復帰間近」

経験値51



ちょっと更新乱れました。

次回更新は明日19時予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 裏と表で繋がってるってことは、この前死なせてしまった子との再会とかあったらちょっと辛いですね。。
[気になる点] タイゾーはノンケではないと信じたい
[一言] そ、それは……。 き、きっと別人ですよ!(目を泳がせつつ)
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