番外編
「待って!待って!アール、キール!」
宮殿の裏山で波打つ黒髪を持つ女性がドレスの裾を持ちながら二匹の獅子の子供を追いかけている。
追われている二匹はまるで遊んでもらっているかのように、上機嫌で岩場をピョンピョンと跳ねる。
「待ってよ〜。」
女性は力なく叫ぶ。
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「さすがのリリアムも元気のよい我が子には手を焼くようだ。」
金髪に榛色の美男子。昔は天使のような顔立ちだったが年を重ねるにつれ、静観な顔立ちになったセシルは両手に我が子を抱えている。
わたしはセシルの18歳の成人の儀と共に結婚。
わたしは、翌年には双子を妊娠し、この秋めでたく男の子の双子が誕生した。セシルは獅子の姿で生まれたのと同様に双子も獅子の姿で生まれてきた。
セシル曰く、3歳くらいまでは獅子の姿らしい。
最初はチマチマと歩くくらいだったのに、一年も経つと元気一杯に走り回り大変である。
「ええ、二人とも元気が有り余ってるみたい。誰か一緒に遊ぶ子がいないかしら?」
「一人だけ心当たりがある。リリアムは前宰相を覚えてるか?」
「あのセシルが裏から手を回してアゼル叔父上を唆した人でしょ?」
「あの宰相の娘なら二人とも喜ぶと思う。宰相の処分は一家にまで及んだが、前妻に娘がいて彼女は修道院に預けられていたしまだ幼かったので処分しなかったんだ。」
「なぜ彼女だと二人とも喜ぶの?」
「会ってからのお楽しみかな?父親のこともあるし僕のお願いはことわらないはず。修道院から出すのは大変だけど、可愛い我が子と疲れて僕の相手をしてくれない妻の為に頑張るかな。」
疲れて相手をしなかったのが余程嫌だったのかセシルは大変だと言いながら翌日の夕方には一人の娘を連れてきた。
「リリアム王妃さまにおかれましては、ご機嫌麗しゅうございます。ミーシャでございます。」
美しい所作で修道女の服の裾を持ち軽く膝を折る。白に近いほどの白銀の巻き毛を短くし、アーモンド形の灰色に金の虹彩の瞳。小柄のとても可愛らしい顔立ちの女性だ。
「リリアムでいいわよ。こちらが息子で赤いリボンがアール、青いリボンがキールよ。」
わたしが紹介をしていると足元の双子がミーシャに向かって飛び付いた。
「あっダメでしょ!」
わたしが二人を止めようとすると、ミーシャ は二人を受け止め小柄な女性とは思えない力強さでポーンと遠くへ放り投げる。投げられた二人はコロコロ回る。
驚くわたしを他所にアールとキールは面白がってまたミーシャに向かって走って飛び付く。
するとミーシャは瞬く間にホワイトタイガーの姿になり、双子と一緒に裏山の方へ駆け出した。
唖然とするわたしに笑いながらセシルが話しかけてくる。
「面白いでしょ?絶対双子が喜ぶと思った。」
訳が分からないわたし。
「『獅子の王は白い色のせいで仲間外れになった心優しい、美しい白い虎に恋をした。しかし、白い虎は獅子の王に相応しくないと王の思いを受け入れなかった。それならばと獅子の王は仲間外れにされていた白い虎を人間の姿に変えて自らの庇護下で健やかに過ごした。』獅子の王の話で、シューエン国に伝わっている。彼女は先祖帰りなんだ。だから修道院で保護されていたのさ。」
「先祖帰りがあるなんて知らなかったわ。でもミーシャなら二人を任せても大丈夫みたいね。初対面であんなになつくなんて珍しいわ。」
「そうそう、ミーシャに任せて大丈夫。」
セシルはわたしの腰に手を回してがっしりと掴んでくる。嫌な予感がするわたしに美しい顔で笑いかける。
「ミーシャには明日まで二人を頼んでいる。久々の二人きりの夜だ。楽しみだな。」
腰の次は足を持ちお姫様抱っこし、夫婦の部屋へ足を運ぶ。ニコニコと上機嫌のセシル。
「明日、無事に起きれるといいね。」
不穏なことを言うセシルは、わたしの唇を甘噛みし、そのまま耳をかじる。
わたしが起きれたのは、次の日の朝ではなく、2日後の朝でした。
アール:ミー
キール:ミー
リリアム:母親よりミーシャの名前が先だわ。
ミーシャ:まだ鳴いてるだけですよね?
リリアム:甘いわ!あのセシルの子供よ!絶対執 着が強いはず。ミーシャになつくだけならいいけど、今から謝っとくわ。




