第32話 帰還 と サプライズ
洞に着くと辺りは一変していた。
家々が建ち並びキルク村の住人も次々とこっちに移ってきているようだった。
田畑も川から水を引き苗をキルク村から持ってきたのかすでに育て始めている様子が伺えた。
グラニが洞の前に降り立つとカツとブッチーが出迎える。
「おかえり、あんちゃん!」
「おかえりなさいセンさん。」
「あぁ、ただいま。」
コウを降ろしながら返事をする。
やっぱり家族が居るのは良い物だな。しみじみそう思う。
「姉ちゃんもおかえり!」
「ただいま。カツ君」
カツがコウにそういうとコウも笑顔で答える。
コウも戻ってきてホッとしているようだ。
ムズ、シラタマ、ルー、ネロルは警備兵や建築を手伝ってくれている人半分を率いて壁を建設に行っているらしく居なかったがアイの念話により「おかえり」と言われている。
ニルルは女の人達に織物教室だそうだ。こっちも念話で「もっと早く帰ってきなさいよ!」と言われた。
カツとブッチーは洞周辺の建築を監督していたらしく駆けつけてくれたのだ。
「ブッチー、カツをちょっと借りるぞ?」
「はい、後は建てて行くだけなので大丈夫ですよ」
「え?俺?いいぜ」
ブッチーに断りを入れてカツと共に洞へ。
「どうしたの?あんちゃん」
「うむ、武器だがもう作り始めてるか?」
「んや?家のほうが一段落してからと思ってまだアレには手をつけてないよ」
アレとはカツに渡した黒曜石の事だ。
刻印や陣を習得した(俺じゃないけど)事で武器や防具の強化に生かそうと思いカツを呼んだのである。
「あんちゃん、強化刻印とか出来るようになったの?」
「うむ、アイが全部教えてくれるだろうから早速取り掛かってくれ。
そうそう、刻印は3種類ほど併用したいのと強化魔法とかだから型は好きに造ってくれていいよ。」
「まじで!どんな型でもいいの?」
「あまりに扱い難そうなのは止めてくれよ?」
「わかったぜ!燃えてきたー!」
カツは待ってましたとばかりに洞の外に置いてある黒曜石を見つめ妄想の世界へと旅立った。
どんな武器にするかという妄想が止まらないのだろう。
「グヘヘッ」とか「フヒヒッ」とかの笑いが聞こえるが聞かなかったことにしよう。
カツを放置してブッチーの所に行き2m四方の木の板を貰った。
(どんな顔するだろうか?)と自分が仕掛けたサプライズの結果を楽しみにしながらアイに教えてもらった魔法陣を彫って行く。
「コウ、ちょっと行って来るから。」
「はい、気をつけてくださいね?」
コウは言わなくても判った様だ。
まぁ、エルフ国で仕掛けをする時に横で見てたし判ったのだろう。
魔法陣の上に立ち魔力を流す。
体というより精神が持ってかれる気配を感じる。
次の瞬間そこは今朝まで居たエルフ国の魔法陣開発施設だった。
「よ!元気にしてたか?」
そういうと大きなテーブルで文字を書いていたアンダが目を剥いてこっちを見て固まっている。
今朝帰ったのを見送ったばかりなのにこの場に居るのが相当不思議なのだろう。
「け、賢者様!?」
隣から声が聞こえ振り向くと俺の事を最初に賢者と呼んだ研究員だった。
「うん、実験成功って事か。」
サプライズも成功した事だし満足満足。
俺はそう思いもう一度魔法陣を起動させようとする。
「ちょ、ちょ、ちょちょっと待ってください!」
アンダが俺を呼び止める。
「ん?どうかしたか?今から帰ろうと思うのだが。」
「帰る!?えっと、セン様は何処からいらっしゃったのですか?」
「何処って自分の家からだけど?」
「「「は~~~!?」」」
アンダだけではなく研究員からも驚きの声が上がる。
「どれだけの距離があると思っているんですか!?」
「え?グラニで6時間程度だから・・・」
「そうじゃなくて!」
「理論は教えただろ?」
そう、アイによりエルフ達には理論は教えてあるはずなのでそこまで驚くとは思っていなかった。
だからワザと机の裏に書いたんだし。
「た、確かにそうですけど最初は物とか動物で試したりするものでしょ!?」
「そんな事してたらいつまで経っても出来るものが出来ないぞ?俺が出来ると言ったら出来る!」
けして自分の功績ではないがちょっと得意げにそう言いきると周りからため息が漏れた。
今までのエルフ達の転移魔法陣は距離に対して消費魔力が増大するという術式を使っていたので数十kmが限界だったらしいが、
今俺が使ったのは一定量の魔力を消費する変わりに距離は関係なくなるというものだった。
「せ、セン様?どうせですしお茶でも飲んでいかれては?」
「え?淹れてくれるの?すまないね。」
そう言って席に着いて待っているとメイド達が入ってきてそのまま城まで連れて行かれ前とは違う応接室に座らされた。
目の前ではアンダがミーリエに事情を説明している。無論、机も一緒に持ってこられた。
俺の対面には第一王子のアムロドと1,2回程しか話をした事のない第二王子のクルンまで居る。
(またやっちまった系だな)と自分に呆れつつ紅茶を啜る。
そんな俺の心中を察したのかアムロドが苦笑いで話しかけてくる。
「また無茶をしましたね・・・」
「無茶ってほどでもないんだがな」
「私達が魔法の最先端を持っているという自負はあったんですが、打ちのめされた気分ですよ」
「これからも精進を続けたまえ。」
冗談で上から目線で言って見る。
(何で上から目線やねん!)と返ってくると思っていたら
「そうですね、精進させていただきます。」
と返ってきたので(冗談は通じないのか。)と思った。
まぁ、期待はしていなかったけどさ。
一通り話を聞いたミーリエが神妙な顔で話しかけてくる。
「話はわかりました。それで始祖様は?」
「ん~家で飯の支度でもしてくれてるんじゃないだろうか?」
俺もすぐ戻るつもりだったし~と付け加える。
ミーリエとその子供達は口を開けたまま固まっている。
正気を取り戻したミーリエが咳払いと共に
「あの机は城で保管させていただきますね。」
「え?なんで?」
なんて言い出すものだから俺は思わず聞き返してしまった。
「あんな高度な魔法を発動する物を研究施設とはいえ誰が使うか判らない所において置けませんから。」
認識の違いがあるようだ。
俺的には潰せばいいじゃん、と思っているのだが
ミーリエ達には貴重品になるみたいだ。
認識を正す為に俺は1つ提案をする。
「アンダ、消えない染料を用意してくれ。女王様は要らない部屋1つ教えて欲しいんだが。」
俺が何をやりたいかを察したアンダが頷きミーリエも了承する。
ミーリエに先導され歩いていく。
いくつか部屋を通り過ぎた一室に案内された。
「ここは私の寝室の隣の部屋になり私かそれに近しいものしか入ることが許されない部屋です。」
あ~隣の部屋でベッドがあったのはそう言う事か。てかいいのだろうか?
寝室の隣とか危なくないか?と思い聞いてみる。
「いいのか?」
「勿論普段は魔法で幾重にも施錠しておきます。」
「わかった。」
そう言う事なら、と床に魔法陣を書いていく。
10分ほどかけて大きく魔法陣を書きアンダが風魔法で染料を乾かす。
その間に俺はクルンから紅茶やクッキーなどを土産として渡された。
あんまり話した事ないが結構いい奴なのかもしれない。
「そんじゃ、帰るわ。ありがとな!」
手を上げ魔力を込める。
「始祖様によろしくお願いします。」
礼をするミーリエ達に「おう、判った!」と言って俺が掻き消える。
気づくとそこはいつもの洞の横だった。
「センさん、お帰りなさい。」
後ろからコウに声をかけられ振り向き「ただいま。女王達がよろしくってさ。」と土産を渡す。
コウは余り表情を変えずに「そうですか。」と言った後「ご飯が出来てますよ。」と土産を受け取った。




