第八章 至高の守護よ青になれ
降り、降る雪。
数千年ぶりにセレスの大地に降った雪は、星を抱く約束の霧を、優しく払っていく。
一人、また一人、容姿が塗り替えられて――
いや、元に戻ってゆく、と言ったほうが合っているのだろう。
髪の色、瞳の色。
全てが虹色に、変化を遂げる。
柔らかな眠りが響く中、目蓋を閉じなかったものたちは、一様にぽかんと口を開いていた。
「――俺、いつ髪が蒼になったんでしょうね?」
「知りませんよ、それより僕、眠…くて…」
ぱたりぱたりと熟睡していく仲間を尻目に、イシオスは苦笑いする。
「嫌だなあ、これじゃますます今までの自分の所業を認識させられる。――ねぇ、アズロ師団長?」
おそらくは、自分が見上げる最上階にいるであろう司令官を想い、祈るように目を閉じる。
「無事ですよね…? 地上では、貴方がいないと厄介な事態が起きていますよ?」
ふと、ひとつの足音がイシオスを横切って走って――
再び開いた瞳に、衝撃が走る。
「!」
間違いない。
陽動部隊を率いていた大隊長、エナの姿が、塔の階段へと消えていった。
「…あの中に、一人で?」
凄まじい光を放つ塔の最上階に迷いなく走る後ろ姿は、イシオスにはない、何か。
「考えられませんよ。大隊長が、眠る部下を放って単独行動なんて――…いや、違うな。俺でも、そうする」
諦めたように頭を左右に振ったイシオスは、自らの立場を全て放り投げて、エナを追った。
半分が崩れた階段は、いつ崩落してもおかしくない。
しかし、向かった二つの足音は、一定のリズムを刻み、やがて――…
「――生きていたか!」
「無事で、何よりです」
駆けつけたエナとイシオスに振り返ったシェーナとアズロは、驚き微笑む。
「エナ大隊長も、ご無事で」
「イシオス、よかった!」
シェーナとアズロは、機体の両脇に立っていた。
互いの片手を機体に当てたまま、強い眼差しで語る。
「ここは、もう大丈夫です」
「あと少しの光を放てば、この機体は自動的に永眠するよ。静かに、壊れるだけ。もう、誰も害することはありません」
アズロの声音が、少しだけリゲルに似ている気がして、エナは部屋を見回した。
瞳に映る、アズロの金の髪。
部屋に散った、紅いもの。
「――これは、リゲルか?」
表情を崩さぬまま問うたエナに、アズロもまた、表情を変えずに頷く。
「はい。彼の――亡骸です」
瞬間。
すとん、と、エナの両膝から、力が抜けた。
床に正座したエナは、静かに、ただ静かに、語りかける。
「――そうか。眠ったのだな、リゲル…。お前は、眠ったんだな」
穏やかなその声は、涙に似た、ぬくもりで。
「おやすみ、リゲル」
エナの微笑みに、微かに部屋の空気が振動した。
形ない、光る何かが、蛍のように、空を目指してゆく――




