第八章 至高の守護よ青になれ
ユーディアルの最前線に並んだ機体に注がれ満たされた火の能力は空気を伝導し、中央に配備された大型の器へと注がれる。
場の動揺、恐怖、不安、悲鳴を喰らいながら、思念を操る大型力導器機は唸った。
開発者にして指揮官、イシティリオ・レグランダイトの号令により、目の前のユーディアルの東側陣営は業火に――
――…包まれは、しなかった。
(な! まさかこれは…)
(指揮官!! 貴方はまさか!)
代わりに出現したのは、東西を分断する、天高い塔のような、強固な壁――。
先の見えないその壁は、世界の果てにも似た、ただただ綺麗な空の色をしていた。
(逆噴射の記述!? 解除は、解除はできないのか!? くそっ、こいつ――!)
既に事切れて機体の横に倒れ、動かないリオの身体には、いくつもの刃が突き立てられる。
処刑のごときその刃は、亡骸を剣の山に変えていった。
巨大な機体に力を注いだ各器機は、ぴくりとも動かない。
否、主となる機体からの信号による、内部破壊コードによって、全てが、壊されていたのだ。
赤よりも、剣の鋭利な色に覆われた死体。
それだけが壁の前に置き去りにされ、動かない器機を手放した兵たちは拠点へと退避しようとして――
リン、リリン。
リリ、リン、リリン――
響いた鈴の音を耳にし、一人、また一人、地に倒れていく。
――東側陣営の氷の牙は、放たれていた。
しかし、放たれた牙たちが襲ったのは、東側陣営の兵器庫。
そして、兵士たちが手にした「機械」の武器の一つ一つだった。
砕かれ飛び散った破片に愕然とした軍部の将は、巫女アデュラリアの心臓を背中から何度も貫いたが、彼女は「死ななかった」。
鮮やかな赤い血を滴らせたまま、皆に恐れ避けられながら、まっすぐに壁の付近の――かつてのユーディアルの祈りの祭壇だった場所にたどり着いたアデュラリアは、深く頭を垂れ、世界そのものへと、渾身の祷りを捧げる。
(あなたの声が聴こえない。リオ、逝ったのね)
しゃら、しゃら。
足にくくりつけた鳴子が、軽く音を立てた。
(あと一回刺されたら、死んでいたわ。ユーディアルの巫女は、代替わりのぶんだけ生きる……あなたは、知っていたかしら。ユーディアルの巫女を継ぐことは、命を七度断たれぬ限り、皆を見送り続けねばならないこと…。…ねえ、私は争いが大嫌いだったけど…ひとつだけ感謝するとしたら、それは――)
リン、リリン。
最期の祷りは、巫女の秘技。
ひとつになった命のときだけ、捧げることができる、願いの秘技。
(私は――)
しゃら、しゃら…
――シャラン。
一度だけ、前に大きく降られた鈴の杖。
(世界よ、皆から能力の記憶と力を、取り去って)
――白い、白い、願い。
リオが集落を出てから伸ばし続けた長い薄紫の髪が、ふわりと大地に沈んでいった。
ゆっくりと、ゆっくりと、空の色が変わる。
鮮やかな空は、白を含み、灰に悲しみを隠した優しい蒼に塗り替えられた。
ドーム状に星を覆う霧のようなその蒼は、ごく一部の者だけに歴史を委ね、雲を形作った後、大地を雪色に染め上げる。
眠りにつくように、数多の命が昇っていった。
(ごめんなさい、古の力は、世界の力…。みんなみんな、奪ってごめんね――)
一部の人間だけが息をしている大地に、小さな芽が顔を出す。
(いつか――)
以来は雪を知らぬ大地に、いつしか能力を持たぬ人々の世界が構築されゆき、芽もまた、少しずつ成長していった。
いつか、時が来た時に、咲くために――




