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第七章 想いの呼応

「――う…あ……う、っうぁあぁぁぁあああ!!」


絶叫、なのだろうか。


もはや自らが発している声すら、わからない。


喉が、痛い。

痛みを感じたのは、いつぶりだろう…?


頭が、気が、おかしくなりそうだ。


そう…そうだ。

僕は。


「悲しく、ない。苦しくも、ない。僕がシェーナさんだったら、この状況でただ笑ってる」


呻くように吐き出すと、ふいに、あたたかなものが頬に触れた。


「シェーナ……さん?」


先ほどまで虚ろな表情だった彼女の表情は、元の冷静さを取り戻している。

むしろ、冷静というよりは――


「バカズロ!」


「へ? アホじゃなくて今度はバカズロ?」


「そうだよアホバカズロっ! ばか! ばか! 気付かないの!?」


「え?」


シェーナの瞳からは、彼女らしからぬ、大粒の涙が止めどなく溢れていた。

感情をむき出しにしたシェーナの眼差しは、まっすぐにアズロを射抜く。


「泣いてるのは、アズロだよ」


「な…に?」


「だから、あんたはその両目から涙が流れてるのに気付かないわけ? 笑ってる場合? 私が泣いてどうするのよ! 私はね、確かにすっっっごく痛いし悲しいわ。だけど、虚ろになったとき、そばに誰か来てくれたのはわかったの。徐々に意識が鮮明になってくさなか、あの絶叫よ? 助けに来てくれたのはじわっとしたし有り難いけど、そこであんたが悲鳴上げてどうすんの!! 私の虚無なんて吹っ飛んだじゃない!! もう、いーかげん気付きなさい。どれだけ自分が辛いのか、ね」


シェーナは自らの涙はそのままに、ただ静かに流れ続けていたアズロの涙を拭った。

先の戦闘で傷だらけの両手で、そっと。


「……僕が、つらい?」


呟いたアズロの両肩を、シェーナはぎゅっと抱き締める。

きつくきつく、離さぬように。


「私のことは、守らなくていいの。だって、私は、その逆だから」


「へ? なに…なんれすか?」


もはやぐずぐずでうまく発音できていないアズロの頭を、ポンポンと手のひらで軽く叩く。


「私はね、アズロが見せてくれた空が好き。アズロと過ごす、他愛ない時間が好き。すっごい力を持ってる師団長のアズロにはびっくりしたけど怖くないし……それにね。私は、アズロが弱々しくても、嫌いじゃないよ。嫌いだったら、今そばにいないもの」


「――ん、と?」


「弱っちくてもいいのよ、自分を誇りなさい! それだけいろんな気持ちを感じられるようになったのよ、アズロは。…ってこれ、昔私がシエラ姉さんから聞いたのの受け売りだけど。つまり、弱さは強さなの。だからね、信じなさい!」


「何を?」


「バカズロ。それはあんたが見つけるのよ。…私はね、さっきあんたがかけつけてくれた時、見つけたわ」


きょとんとしたままのアズロに、

シェーナは深いため息をついた。


「……気付きなさいよ」


「え? な、何? あ! そうか、そうだよね。助けに来たのに助けられちゃったし、もっと鍛練して、より強くあれるように、ってことか!」


「――どう考察したらそんな珍回答になるの…」


「はい?」


「……なんでもないわ。そう、私を守りたいなら、強くなることね。でもそれは、力じゃなくて、芯のほう。…あなたが私にくれたもの、それを、信じて」


微笑んで照れたように涙を拭い、立ち上がったシェーナにつられて、アズロもゆっくりと立ち上がった。

足元はまだぐらつくけれど、何か、何かが、変わった気がする。

荒野のような、しかし風ひとつ無い、ただ静かな凪のような心に、何かが、投じられた気がした。


アラマンダを喪ったときに感じたものと似て非なる、何か。

何か、灯るものだ。


「わかったの?」


「――なんとなく。それから、ごめん。あと、ありがとう」


「アズロって、アズロと向き合うと片言になるのね」


「う…」


「――ねえ、守らなくていいけど、守ってくれる?」


いたずらっ子のように問いかけたシェーナに、アズロはゆっくりと頷いた。


「はい。――必ず」



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