第七章 想いの呼応
〜2・選択〜
「人が…全然いないな」
シェーナが単独で入城してから、既に早いとは言えない時間が経過してしまった。
アズロは自分の気配しか感じない入り組んだ通路をさ迷いながら、シェーナの居場所を探り続ける。
なんとなくではあるが、無事はわかっていた。
勘なのか、それ以外の何かしらの理由なのか、定かではない。
「ラナンキュラスと匹敵するな、これは…」
外観と異なり、幾つもの通路が交差するヴァルド城内には、さらに幾つもの幻影が施されていた。
内部の者ですら容易に通れないと思われる堅牢な要塞は、少しずつアズロの体力を削ってしまう。
額の汗を拭い、ふと立ち止まり窓越しに空を見上げて、息を飲んだ。
「……あの雲…」
空には、徐々に暗雲が広がっていた。
中央の分厚い層から、刃のような破片が地上に降り注いでゆくのが見える。
「……」
遥か、エントランスの方角を振り返った。
外には――…
そう思った瞬間。
テレパシーのように、頭に響き渡ったのは、女性の声。
“躊躇しないで、選べ!!”
凛としつつも明るいその声は、先ほどまで背中合わせで奮戦していた人物のもので。
アズロは誰にともなく首肯すると、次の通路を目指して床を蹴った。
「シェーナさん、今行く…!」
迷いなく、心のままに選択する。
間違っているかもしれない。
間違っているのだと思う。
凛とした声の中に微かに響いた切なさが意図するものに、気付いてしまった気がしたから。
気付いてなお、前に進む自分の行動は、ラナンキュラスの長としても観察者としても失格だろう。
けれど、もう振り返ることは出来なかった。
きっとこの先に、シェーナさんは居る――
僕は、このまま彼女のもとへ駆けつけるだろう。
(アラマンダ…僕は…でも……)
痛む胸に気づかないふりをして、前へ前へと、疾走した。




