第六章 明日の明日のまた明日
藍色の瞳は、真っ直ぐにアズロの緑の瞳を見据える。
アズロは小さく首を横に振った後、少し唸って、諦めたように苦笑した。
「頼むから、無理無茶だけはしないように」
「はい、了解しました」
満面の笑みを見せたレストと不安げなアズロを見比べて、エイシアは感慨深げに口を開いた。
「ほんっとできた子なんだね。アズロ君に育てられたなんて想像もつかないよ。あれだね、これは子供のほうが苦労する典型的パターンだねえ」
「エイシアさん……ふと思ったんですが、僕をやたらつつくのは、何かの悪趣味ですか?」
相変わらずのエイシアの調子にげんなりしたアズロが恐る恐る訊くと、エイシアはふと真顔になって。
淡い紫の瞳は、ほんの少しだけ揺らいでから、明後日の方向に固定される。
「エイシアさん?」
「……さあ、ね。教えてあげない。でも……そうだね、君がこの事態を無事に乗り切ったなら、その時は教えてあげなくもない」
「今ではいけませんか?」
「うん、頑張ってね!」
答えにならない答えを放り投げたまま、エイシアはエナに向き直る。
先ほどから一人、時折窓の外を眺めては、苦しげな表情を浮かべていた。
「…エナさん?」
「あ、ああ、すまん。柄にもなく考え事をしていた」
「エナ殿は、ヴァルド進軍の囮部隊を率いるとのことだが、貴殿にとって、ヴァルドの司令官は…」
「その事なら全く問題ない。シグルズ王はセレス王城の盾となられるのだろう?私はヴァルドの地理に明るい。陽動部隊を率いて囮となりヴァルド本部隊を引き付け、シェーナ君やアズロ殿、エイシア殿や少数精鋭特務部隊をヴァルド城内へ潜入させる隙を作る役には最適だろう。……大丈夫さ、リゲルのことなら区切りをつけた。あいつと面と向かっても揺らぎはしない。ただ少し、痛むだけだ」




