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師匠の思い出

獣人の国 アムウ



3人目の妻 メムリーサ


エルフの里では、師匠はなんとか里以外の外の世界も知ってもらおうと

外の世界を気にしている者や興味がある者達を呼んで

長であるミアナの家のリビングで、今までの魔物退治や

あちこちの街の話や、人族や獣人の国の話等、

知る限りの情報を話した。


勇者としての力を見せる為に、技を見せたり。

戦術や戦い方、剣を教えてもらいたい男達が

あれこれ指導をして欲しいと訪ねてきたり。


1週間の滞在は、少しづつ他の種族を受け入れ始めたエルフ達との交流に

力を注いだ。

師匠としては、エルフ達がいろいろな体験をして、

狭い世界から外へ眼を向けて欲しいと考えてのことだ。


長であるミアナは、彼の気持ちが分かるので

黙って彼の行動を見守っていた。

反対する者が時折ミアナに進言してくるのだが、エルフの里の未来の為だと

逆にまだ人族や他の種族を嫌悪している者達を説得に回った。


ニーナとリイナは、人族のラグに付き纏ってあれこれモーションをかけているので

他の女の子のエルフ達も興味を持ち、その輪に入って、大騒ぎになっていた。

ニーナとリイナにしてみれば、2人で争っているのに

他の女の子達も勇者の弟子であるラグに興味を持つのは自然なこと。

「ねえ、外の世界の話、教えて」

「私達も~」

と、寄ってくる。


可愛らしいエルフ達に興味みを持たれることは、男としては嬉しいことだが

大勢では、ラグには恐怖だ。


そして、さらに問題は

女の子達の輪に入っているラグに不満を持っているエルフの男の子達が入ってきて

さらにめちゃくちゃなことになるのを

長のミアナが「仲良くしなさい」と怒鳴っているという今まで見ない光景になった。


穏やかな長がこの1週間は、過去勇者と共にあちこち旅をしていた頃の性格に戻っていて

師匠は笑っていた。


ラグにはエルフの女の子達のパワーにトラウマになりそうな感じで終わり

出発の日には、両腕にニーナとリイナに捕まれて

中々ドラゴンに乗れなくて。

「お前達、いい加減にしなさい。ラグがもう2度とここへ来てくれなくなるぞ」

「ええ~」

「いや~」

ミアナの一喝で、やっと空へ旅立てた程だ。





「あなた、あちらで待っていて下さる?私も後数年で行くと思います」

ドラゴンの背に乗ろうとしている師匠に、その背後でミアナは

今生の別れを感じながら声を掛けた。

師匠は微笑んで

「ああ、皆で待っている。十分 せいを堪能してから、来い」

渋い低くて響く声。

ミアナは頷き、両手で顔を覆い大粒の涙を零しながら、ドラゴンの背に乗り

大空へと旅立つ夫をいつまでも見送った。


彼は、後7か月の命。

もう今の世では、彼がこの里へ来るか、会ってくれない限り、会うことはないだろう。

「頭の固い人達がいなかったら、人族を嫌う者がいなかったら

ずっと貴方と離れることもなかったのに」

ミアナは、家族や村の者達が勇者の姿を見送る中、自分が反対した里の者達から

夫を守れなかったことを

今でも後悔している。

「ミアナ様」

「父に頼まれ、長になんて就かなければ、私はあの人と自由に空を飛べたのに」

彼女は今でも後悔している。

長になることを拒否して、彼と共に旅をしていたら

若き頃、ギルドで出会い旅した5年の月日

厳しい状況だったり、辛いこともあったが、いつも彼は自分の隣にいた。


「どうして私は、彼を選ばなかったんだろう」


父に泣かれ、母に説得され、長になったものの

人族に対する偏見が大きく、彼との婚姻もなかったことと受け止められ

子供達はエルフの容姿だったから里に受け入れられたが

夫は人族で勇者だということで恐怖の対象。

数年仕事をしながら里にいてくれたが、結局嫌がらせが強く

彼はミアナと子供達の為に、里を去った。


「本当は、一緒に行きたかった」


叶わぬ夢を思いながら、いつまでも空を見ながら泣き続け

しばらく家族に慰められていた。







師匠は、エルフの里の上空を数度旋回し、しばらく感慨深げに黙っていた。

エルフの里での出来事を思い出しているのだろうと、契約者達も僕も思っていた。


何か吹っ切れることが出来たのか、大きく深呼吸した師匠は別の方向へ視線を向け、

「獣人の国へ」と。


ドラゴンが主の声に頷き

『御意』

まだエルフの里が見える位置から上昇し離れ、方向転換をし、

自分の周囲で待機している他の契約者へ指示をすると

大きく羽を動かし、遥か先の国へ向かった。







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