1 転生
山本香織18歳、筋ジストロフィーで身体が動かず入院中だ。母親に手伝って貰って夢の話しを書いている。
1 転生
私は山本香織18歳、筋ジストロフィーの末期で病院で寝たきりだ。成人までもたないようだ。もって1年と少しか。残り少ない人生でする事は叶わなかった願いを綴った夢の話しをただ書くだけ。腕も手もまとも動かなくなった今、母親に話して書いて貰っている。口もまともに動かない。かすれかすれ話している。この記述も後どれだけ続けられるのだろう。精神だけがまともなのが不思議だ。学校には行った事がないが、教師だった母親が懸命に私の教育をしてくれた。お陰で本好きになった。書くのも好きだ。まだ手がまともに動く頃は自分で書いていた。本も自分で読んでいた。15歳でそれもままならなくなった。死が近いたのだと思った。17歳でそれもままならなくなって入院する事になった。本日に至る。母親が夕方まで付き添ってくれて本を読んでくれたり、夢の話しを書いて貰った。今は点滴の食事だ。味も何もない。生命維持装置で命を繋いでいるだけだ。電気が切れたら死ぬ命だと判っていた。
それが突然やって来た。大きな揺れを感じた。良くベットから落ちなかったものだと思った。その時はただそう思っただけだ。生命維持装置が動いていない事が判った。助けを呼ぶすでがない。今意識があるだけ奇跡だ。間もなく死出の旅に出る。気が遠くなってきた。緩慢な死だ。せめての救いか。意識が遠ざかる。
死んだはずだったのにまた目が覚める。病院ではない。夢の世界だろうか。感触がある。手が動く。足も動く。だけどベットの中だ。突然人の声が響く。何を言っているのか判らない。突然他人の記憶が蘇ってきた。この身体はマリエールという5歳の少女のものだ。声の主は、大きな身体の女性だ。
「お嬢様、いきなり駆け出して崖から落ちるなんて命が惜しくないのですか。さっきお医者さんがきて。傷口を消毒して間もなく気がつかれますよと言って帰っていかれましたが、本当に大丈夫ですか。」
私はマリエールに転生したのだ。幸か不幸かマリエールは死んで私が転生したのだ。私つまりマリエールは、大女に、
「テレサ、紙と書くもの、持ってきて頂戴。私、夢の話しを書きたいの。」
テレサと言う大女は哀れなものを見るように、
「紙って羊皮紙の事ですか。ご主人様しか持っていませんがお嬢様が気楽に使えるものではありませんよ。一枚が私の一年分のお給金と同じです。」
この世界は植物紙のない世界だ。前世では2000年前に中国で紙が作られて以来様々な方法で紙が作られてきた。紙のない前は木簡か。
「判ったわ。自分で何とかするわ。」
所詮自己満足だ。紙だろうが木簡だろうが構わない。別に本にしたいわけではない。
マリエールは工具置き場でナイフとヤスリと釘を持って森に入った。マリエールは木簡作りに励んだ。一応満足のいく木簡が20枚出来上がって、袋に入れて持ち帰った。
工具を戻して、マリエールは夢の話しを釘を使って木簡に書き出した。木簡が表面が荒く。釘で刻んでも良く判らない。でも問題はない。読者は私一人だ。読み辛くても記憶があるから読むことが出来る。
大きな地震で生命維持装置が止まってしまった。次第に意識が薄れていく。意識がなくなって次に気がついたらマリエールに転生していた。




