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反撃開始

「死ンダカ?呆気ナイナ……」


脳裏に響く誰かの声。

男とも女ともつかない声だった。

どこかで聞いたような…。


「コンナ程度デ…ヤハリ、ヒトハ脆イ」

「勝手に殺すな…」

「!…聞コエテイタノカ?」

「そんな大声で話されたら嫌でも聞こえるわ。アンタ誰よ?」


人様の脳裏で、喋り倒す何者かに私は文句を垂れる。


「ドウデモイイコトダ。ソレヨリモイイノカ?コンナトコロデ寝テイテ?」

「…どういう意味よ?」

「アノ魔術師……コノママデハ殺サレルゾ」

「ニルが?」


あの魔術師が殺される?

想像できない。


「イイノカ?ヤツガ死ネバ…契約ハ果タセナイ。ソウナレバ、オ前モ悪魔ニ魂ヲ奪ワレル」

「え?アンタがその悪魔じゃないの?」

「チガウ。ダガ、今オ前ニ死ナレテハ困ル…ダカラコウシテ起コシニ来テヤッタ…」

「上から目線ね、アンタ」

「サッサト起キロ…」

「ちょっと!?」


突然、体が浮き上がるような感覚が全身を襲った。

いや、肉体は眠っているから浮遊しているのは魂か?

取り敢えず、普段感じないような感覚に戸惑う。

結局、この声の主は誰なのか?

ニルはどうしたのか?

とか、聞きたいことは沢山あった。

でも、聞く時間はなさそうだ。

何故なら、視界が真っ白に塗りつぶされて何も感じなくなったから。

意識が浮上する。



「うわああ!!?」

「ワン!?」

「何事!?」


自分の悲鳴で跳ね起きた。

こんな間抜けな経験はなかなか無いだろう。

何やら、不思議な夢を見ていた気がするが内容は思い出せない。

ただ、目覚める直前凄い速度で上方に投げ出されるという奇妙な感覚に襲われた気が知るだけだ。


おかげで、近くに居た者も驚かせてしまったようだ。


「ここは…?」

「派手な起床ですね…お嬢さん」


驚いたよ様子の金髪の女の魔法使いと、フンと、鼻を鳴らす真っ黒い狼。

どうやら、なんでも屋の不思議な家だ。

あれ?私って死んだんじゃ?

自分の身体を確認すると腹に包帯が巻かれていた。

重症だったはずだが生きてるということは、目の前の魔法使いが助けてくれたということか。


「ありがとう」

「どういたしまして。千里眼で一部始終は見てたけど、何があったか詳しく教えてくれない?」




取り敢えず、私は意識を失うまでの出来事を全て、カスミに伝えた。

私は魔法薬なる物で、命を助けられたらしい。

この分はキッチリ支払ってもらうと言われた。

この国を出る時は素寒貧かもしれない。

「宿屋でカナちゃんを治した時の魔法の残滓を突き止められたってとこかな?」

「残滓?」

「魔法使いだけが感じられる魔法を使った痕跡みたいなものだよ。焚き火のあとは黒くなるのと同じ」

「それをあの宮廷魔術師が感じて、兵を動かしたってことか…」


改めて、考えると宮廷魔術師って何だ?

魔法使いは教会の理念に基づけば世界にとっての害悪、つまり敵だ。

国は大なり小なり教会の庇護下にある。

つまり、教会に倣って魔女を敵視している。

国の中枢たる王城に仕える魔法使いが居るというのは通常ではあり得ない。

そんな私の考えに気づいたのかカスミが説明してくれる。

魔法使いってのは思考を読むのが好きなようだ。


「前も言った通り、魔法使いと言っても生物としては人間と同じだからね。普通の人間に紛れて生きてる魔法使いも居るんだよ」

「つまり、王城に仕えてる人間の中に魔法使いが、いることもあり得るの?」

「バレたときの危険を考えれば、まずやらないけど…勝算があるならやるのかな?」

「勝算?」

「バレない自信か、バレてもどうにか出来る自信があればってこと…。そのアブソルって奴は多分、お坊ちゃんが即位してから仕えるようになった新入りだね。前王様までの代に宮廷魔術師なんて役職はなかった」

「政治に詳しくないけど、王の一任で魔法使いを起用できるものなの?」

「まさか、そんな事したら教会が黙っちゃいない……つまり、そういうことなの?」

「?」

「ああ、でもそうすれば全ての話に辻褄が合う。やっぱり彼の予想通りだ………」


唐突に、自分の世界に没入するカスミ。

状況を見かねたレンが、一つ吠えてカスミを現実に引き戻した。


「おっと失礼。恐らくだけど、捕まった彼は王城の地下牢に居るだろう。彼としては侵入の手間が省けてよかったじゃないか」

「そう簡単な話じゃないでしょ…」

「いや、侵入経路が地下牢だからそこで回収しちゃえば問題なしよ」

「じゃあ、その地下牢への行き方を教えて」

「それだけどレンを案内役に貸すよ。大丈夫!千里眼で、周りの状況は全部把握できるから!」

「え?」

「ワゥ?」


私の声と、レンの声が重なった。




「ねぇ…。本当にここから入るの?」


私は地面をカリカリと、引っ掻くレンに聞いた。

レンは一心不乱に地面を引っ掻く続ける。

まるで、考えるのをやめたかのように。

石畳の地面にある金属製の蓋。

道が整備された国ならばどこでも見かけるソレ…。

下水道の入り口だった。


狭くて暗くてジメジメしていて汚くてオマケに臭い。

そんな場所、誰が進んで入りたがるだろうか。

確かに、これなら地上で睨みを効かせている衛兵の目もかい潜れる。


「だからって、私らの鼻が死ぬわ!!」


獣人というのは人間に比べて、身体能力に優れている。

それは、感覚についても例外ではない。

宿す獣の種類に左右されることはあるが大抵は優れている。

私も鼻は効くし、狼のレンなど言わずもがな。


「クゥン…」

「アンタ、そんな情けない声出たのね…。ハァ、文句言っても仕方ないわ。腹括りましょ」


重たい蓋を開けてレンを小脇に抱え、穴に身を滑り込ませる。

蓋を閉じて、地上の光を遮る。


「ウッ!酷い匂い。ここに長居したら病気になりそう」


想像以上にくらい上に、匂いも強い。

流れる水は汚いし、羽虫が群れる様はまさに行き地獄だ。

そんな中、レンが迷いのない足取りで進み出す。


使い魔であるレンには、遠く離れた場所からでも主人であるカスミの声が聞こえるらしい。

この迷路のような下水道も、千里眼で周囲を見ているカスミの情報を貰うレンが居れば、迷わず通れるわけだ。




「どうだ!!どうだ!!その傲慢で矮小な性根はまだ折れぬのか!!?」


王城の地下牢にある拷問部屋。

ボロボロの椅子に縛り上げられ、自称天才宮廷魔術師による拷問が行われていた。

骨と皮しかない拳で何度も執拗に殴られたせいで自慢の美顔が台無しだ。

まあ、外傷なんて後で治せるのだから些末なことだ。


「次は貴様を心から殺してやる!!"惑わせ"!!」


アブソルの握る杖が怪しい光を放ち、拷問部屋を飲み込んだ。

直後、全身を蝕む激しい痛みが生じた。

肉体はなんともないのに、痛みだけが全身を駆け巡る。

オマケに、視界いっぱいに広がるのはこの世のものとは思えない凄惨な風景。

こんなものに怯むようでは魔術師は名乗れない。


「ケケケ…!こんな幻覚がなんだ。狂人が見る夢の方がこの何倍もおぞましいぞ?」

「キーッ!!!減らず口を!!魔力も封じられ何もできぬ"ただの人間"の癖に!!」

「貴様のような小物魔道士に何を恐れることがある?」

「っ!!天才宮廷魔術師だ!!二度と間違えるな!!無力な人間の分際で!!私を苛立たせる!!」


その人間一人満足に拷問出来ないで、何が魔術師か。

幻覚が解けて、景色が拷問部屋に戻る。

なんだ?もう終わりか?


「充分身も心も引き裂いたはずだ!!次はその頸を跳ねるとしようか!!衛兵!!この者を玉座の間へ!!」


そばに控えていた衛兵が俺を椅子から開放して、腕に絡みつく鎖を引っ張った。

広場で見たときもそうだが、衛兵はアブソルの命令を忠実に守る。

宿屋で会った者たちを見れば、魔法使いを快く思っていないのは明確だ。

なのに、王城でやりたい放題のコイツに誰も逆らわない。


(全員、コイツの支配下か)


そう言えば、ステラはどうなっただろうか?

先見の魔女が治療してさえいれば、助かる命だ。

無事でいて欲しい。




長い下水道迷路を乗り越えて、王城の地下牢に辿り着いた。

さっきまでに比べればマシだが、空気が淀んでいてカビ臭い。

怪我人が長居するような場所ではない。

罪人をぶち込む場所だ。

これくらい普通なのかもしれないが、不衛生すぎて見回りをする衛兵たちが哀れだ。


「レン。アイツがどこに居るか分かる?」


私が聞けば、レンは迷いのない足取りで歩き出す。

地下牢には何人もの囚人が詰め込まれていてうめき声を上げていた。

中には、今にも死にそうな老人も紛れている。

ここにいたら下水道とは別の意味で狂いそうだ。

国王の政策に異議申し立てた者たちは全員連行された。

本屋の店主の言葉が脳裏をよぎった。


「ワン」

「ここ?誰もいないけど?」

レンが止まった檻には誰もいない。

まさか入れ違いになった?


「ここにいた者なら、先程、宮廷魔術師が連れて行ったぞ…」


背後の檻から声がした。

若い男の声だった。

振り返れば、薄汚れた若い男が座り込んでいた。

長いこと収容されているのか、体中が汚れていて無精ひげが伸び放題でとても小汚い乞食のような姿だ。


「どこに言ったか分かる!?」

「恐らく、玉座の間だ…そこで処刑される」

「っ!」

「待て!」


私が駆け出そうとするのを男が止めた。

私は思わず足を止める。


「急いでるの!!邪魔しないで!!」

「落ち着け。その怪我でなにが出来る?奴はこの城の衛兵を全て支配下に置いている。一人では直ぐに追い詰められる…」


男の指摘に私は、言葉が詰まる。

腹の傷が鈍く疼いた。


「だからって、大人しく帰れないわ」

「私達をここから出せ!君が目的を果たすまでの間、時間を稼いでやる」

「信用出来ないわ。それに、なんでそこまで?」


男の顔に嘘をついている様子はない。

だが、自分の命を犠牲にしてまで危険を犯す理由が分からない。


「奴は王を追放しこの国を支配している!」


この国は新たな王が即位して、戦争状態になった。

そう聞いていたが…。


「奴は即位したばかりの王を排除し、自身が王に成り代わり他国を侵略しようとしている…」

「やけに、詳しいわね」

「私はそれが許せない!奴を除けばこの国は、平和を取り戻す!私にはこの国を愛するものとしての責がある!そのために死ぬのならば本望だ!」


男の声が、地下牢に響き渡る。

鬼気迫るその迫力に気圧されなかったと言われれば嘘になる。

大した愛国心じゃないか。

だからこそ利用価値があると踏んだ。


「その心意義、利用させてもらうわ」

「恩に着る!地下牢の入口にいる看守が鍵を…」

「そんなまだるっこしい事してる暇はないわ」

「なにを…?」


私は男の入れられている檻の鉄格子を掴む。

腕に力を込めて、外側に思い切り引く。

グニャリ、と丈夫な鉄格子が粘土のように変形した。

腕に包帯を巻いて、フードを目深に被った女が、思いもよらぬ怪力で牢を破った。

その衝撃に男は一瞬面食らった。


「君は一体…」

「旅人よ…ただの」

「ハハッ…!人は見かけによらないようだね」


男は顔を引き攣らせて笑った。



某日深夜。

中央大国カリメアにて、罪人の大量脱獄が発生した。

看守達の気が緩む瞬間を狙った、計画的犯行だと、後に研究者は語った。

未曾有の事件であったが、これはカリメア史に語り継がれる大事件の序章に過ぎない。

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