夢予眼とスルトと真実6
ゼフィールが旅立つ日、アンは自分のしていた赤雪石のネックレスをゼフィールの首に掛けた。
まだ小さい身体にはチェーンが長すぎるが服の中に入れてしまえば無くす事もないだろうと、服の中にいつも入れておく様に話した。
これで遠く離れても繋がっていると思えるし、またお婆婆から教わった精霊の加護の呪いを施した。それは、側で何もしてあげられない母心からで、だからこそ少し安心できた。
この赤雪石は青雪石とくっ付いて、鉱山に埋まっている。ミニエーラとフリークの境目の鉱山でしか取れない数少ない特別な魔法石。
不思議な石で主人を選び、二つ揃った状態で二者がいなければ本来の石の力は発揮されない。もちろん、主人でなくても血縁者であれば雪の輝きを発動させられるが、唯一無二の結婚の証としての装飾品としか価値はない。ちなみに、雪の結晶の様な輝きは、主人によって全て異なる。
そのままでは価値がないが、魔法石であるから外部から力を掛ける事はできる。それが、呪い。
特に満月の夜は月から注がれる光でマナ量が濃くなり、マナを糧とする精霊達は喜んで姿を表してその身に浴びさせ取り込む。一定量を浴びると酒に酔う様な状態になってしまうのだ。
その時が、精霊を宿す呪いには打ってつけである。多くの精霊の力を宿し力を借りたければ力が満ちている月にせよ、がお婆婆の教えだった。
それに魔宝具 の魔法石は元々マナを貯め込むのに最適で月明かりに照らしマナを蓄積させれば、蜂が花の蜜に誘われる様に精霊が自然に寄って交渉し易いのだ。
呪いと魔法の違いは、魔法は強制的に自分のマナを利用して使役するが、呪いはマナを定期的に与える事で精霊が協力する。ただし、強制的には行えず精霊に嫌われれば成立しないし、マナが切れれば効果もあっさり消える。
魔法よりは効果が低いが、赤雪石月明かりに照らせば継続的にある程度はゼフィールをアンの代わり守ると信じお守りとして持たせた。それもスルトと別れてすぐに呪いを掛けた為、眠る時間もなかった程だ。
泣かないとアウラーの時も決めていたから、今回も泣かないと誓って一滴も涙せずに笑顔で見送った。それは残されたアウラが必死に涙目で堪えつつも、駄々を捏ねずに見送ったから。妹としてまだ兄に甘えたかっただろうし、双子なのだから半身が切り離された寂しさもあるだろうにだ。
だから母としてしっかり支えていかないと思うだけでなく、きっと次にゼフィールと会うその時は沢山涙を溢すだろうから取っておこうと思ったのだ。
それから母子で助け合って、時には喧嘩もしたが、アウラはアンに似て美しく気が強い所もあったが、アンの母親を見習ってか慎ましく女性らし育ち、恋をする年齢まで健やかに成長した。
アウラー会った事もないがはずが、アウラーをふと思わせる心遣いで、エルフの仲間も沢山出来たし、切磋琢磨する友の一者と恋人同士になって、今日は成人式も無事に終えた夜だった。
「お母さん、話があるの」
アンはアウラを立派に独り立ちさせられたと、年老いてきた父親から族長を引き受ける話を居間でしている最中だった。
急にアウラは、同じ星の雫でもある恋人のアパルを連れてきたのだ。
二者を見て、アンと父親は何かあると察したのか話を中断して父親は席を立とうとする。
「おじいちゃんも、一緒に聞いてくれる?おばあちゃんにも聞いてほしいから、此処に来る前に声掛けたの。すぐ来ると思うわ」
只事ではないと察して、父親は椅子に小さく頷いて座り直す。ただ、アンが過去散々色んな事をしてきた手前、さほど驚きはない。それは、アン自身も感じていた事であった。
暫くして紅茶の湯気が立っているカップを人数分、お盆に乗せて母親がやってきた。
ただ何故か一つだけ、温かな月華茶である。ルッカを月明かりにたっぷり照らした後、お湯を注いで蜂蜜と混ぜて飲むものだ。ルッカはハーブとしての効能もあって、身体を温める作用があるので薬草としても使われる時がある。
ただこの飲み方は、祝いのある女性に年上の女性が出す事が多い。
「貴方達、いつまでもそこに突っ立てないで座りなさい。全く、アンもお父さんもやっぱり似たもの同士ね。客人をずっと立たせておくなんて、失礼よ。それにアウラは大事な時期なんだから、今後は気をつけてあげなさい」
そうきっぱりと強く言い切った母親に、やはりアウラが妊娠したのかとアンと父親は納得した。ただアンの件がある為、父親が孫の件ででしゃばるのはどうかとふと思い見守ることにして、母親にそうだなと返事しただけだった。
その心中としては急で驚きがない訳でもないが、アンに全て引き継ぐと決めた以上はアンがトップに立って引っ張って行かなければいけないのだからと、心を鬼にして何も言わない事に徹した。
アンは父親の意思をきちんと把握できるまで、成長をしていた。それだから、父親も納得して引き継いでいた。
ただどうすべきか、ここは単純に新たな生命の誕生に喜ぶべきか、結婚前にと形式的には問い詰めた方がいいのかを迷ったからこそ、紅茶を配る母親の手伝いをして話す時間を伸ばした。
何も言わないアンに不安を持ったのかアウラはアパルと座ったはいいものの所在なげで、手が微かに震えている。それをアパルがそっと上から手を重ねて力強く握り、大丈夫とでも言う様にアウラを優しい目で見て、小さく頷く。
それを見たアンはアウラーとの事を思い出して、何を今更堅苦しく事を進めようとしているのかと小さく苦笑する。いくら族長になるからと言っても、私は私ではないかと。
最後の月華茶を、アウラの前のテーブルにそっと置く。
「おめでとう、アウラ、アパル」
アンはアパルが握っている手の上から自分の手を重ね、優しく微笑んでそう言った。
二者はアンを信じていたし、覚悟の上だったから堂々としていたがやはり不安があったのか、一気に気が緩んで目には大粒の涙が溢れていた。




