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君と私と竜と白と黒  作者: 雨月 そら
アンの追憶
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夢予眼とスルトと真実2

 時間が解決する訳でもなく、アンはただぼーっとアウラーが眠る場所を眺めて夜になってしまった。

 今日は曇り空、雲の隙間から月が覗く程度で時折月明かりがアンを照らす。

 瞼の腫れが引いても、顔は疲労感が増している。

 冷たい風がすっと流れて、アンは腕を抱えて小さく身震いする。まだ春と言っても夏には遠く、昼間の暖かな陽気から陽が沈めばまだこうして寒さを感じる。川が近く、そこから冷気が漂う性もあるかもしれないが、まだ完全に暖かな春真っ盛りには遠いようだ。

 アンは自身が冷えているのに、温まる家が直ぐそこにあるのに、森の方へとゆっくりと散歩でもするみたいに歩っていく。行き先は決まってるらしく、迷いがない。

 辿り着いた先は、川辺に咲くアンの髪飾りのモチーフになった白い花が群生している場所。

 春の訪れと共に咲き出すその白い花は、ルッカと呼ばれる。この世界で早朝の朝露に濡れると透明に透け、その状態で陽の光を浴びればキラキラと星の様に輝く。朝の短い時間だけ輝く為、見た者は幸運に恵まれると伝えられている皆から愛される花である。

 アンは群生しているルッカの前でしゃがみ、一番その中で美しく咲き誇る二輪を摘み取ると元来た道を戻っていく。


 アウラーの墓の前で、一輪のルッカをそっと置く。アウラーが好きだった、花である。


 このルッカの白は星の雫(エンハンブレ)の髪と似ていて、星の雫(エンハンブレ)が白い髪を大事にするのは、星の雫(エンハンブレ)である象徴である誇りと、何よりルッカと同じ幸運を運ぶとされていたから。

 だからアンが真っ赤に染めたのを周囲はよく思わなかったのはそういう理由で、折角の幸運を自分で手放すようものだ、親からもらったものを勝手に汚すのは産んでもらった人への冒涜とまで言う者がいた。

 そういう凝り固まった考え方がアンは嫌いで、ここで生きて守るという決意だけではなく、周囲の目を気にせず自分の信じた道を貫く為に燃え上がる自分の心と一緒の色、赤にしたのだ。

 ただ周囲の目が変わったのはアウラーがうまく説得してくれたのが大きく、今は周囲とも打ち解けられている。それだけ、アンにとってもだが、エルフ達にとっても信頼できる者であった。

 だからこそ、前例のない異種間の子供でも皆が大事にしてくれている。

 ぐるぐる、ぐるぐる、何度考えてみても答えは出ない。早く答えを出さないとと焦る気持ちで、出るのは溜息くらいだ。

 此処にいても身体が冷えて風邪を引いてしまっては元もこうもないと、アンは目が冴えて全く眠くないが家に戻ることにした。

 自分の子供の顔をこんなにも見ていないのは初めてで寂しさもあるが、でもずっと見ていたら手放すなんて絶対に出来ないという葛藤を抱きながら、目の届く窓の近くに一輪のルッカを置くと双子と同じベットへと入り込んだ。


 ベットの中で眠れなかったのは確かだが、朝方にはうとうとしだして少なからず眠れたアン。ただ朦朧としていて、気怠い。

 それでも双子の食事は自分で用意しているので、少し重怠い身体を無理矢理起こして台所に立った。

 いつものベーコンと目玉焼きと食パンを焼いて、双子が野菜を食べたがらないので林檎(ポム)で作ったドレッシングを即席で作って掛けて後は紅茶を淹れるだけと、釜戸の上でヤカンに火を掛けて沸くのを待っていた。


 その、時だ。


 血相を変えて父親が、珍しく家のドアを開けっぱなしで足音をダンダン鳴らして入ってきた。いつも冷静の父親が何をそんなに慌ているのか検討も付かずに、アンは自分の両肩を掴んだ父親にただ驚きで言葉が出てこず、じっと父親を見ることしかできなかった。


 「アン、お婆婆様から神託だ!ゼフィールを、ゼフィールを...フリークへ旅立たせろと言われた...夢で見たと...」


 アンは、状況を飲み込めず、いや、理解したくなく、ただぼんやり横目に見えるヤカンから出る湯気を見ていた。

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