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美しい花には秘密がある  作者: 美月すず
第一章 長女 つばき編
9/38

椿8

紫陽花あじさいも、枯れ始めた。

雨も、まだまだ残っているが、暑さが厳しくなっていく梅雨の終わりのころ。

あれから、二週間以上の時間が流れた。


中大路なかおおじつばきは、いつもと変わらず、過ごしている。

相変わらずの美人ぷりであるし、産婦人科の仕事も、スマートにこなしている。

あのあとから、青西優人あおにしゆうとと、付き合うどころ、顔を合わせていない。

もちろん連絡もとっていない。

あんなことは・・・なかったこととして、つばきは、過ごしている。

なかったことにしたいのだ。

つばきは、モテる。

青西優人あおにしゆうとみたいなチャラい男性からも、アプローチされたこともある。

それでも、35年生きてきて、付き合ってもいない男性とキスしたことはない。

恋愛下手なつばきだが、男女の仲は、真面目にしてきているし、真面目でありたいのである。

だから、あんなことは、なかったことにしたいのだ。

酔っていたとはいえ、自分の行動を許せない。

付き合っているなら、問題ない。

あんなことの後も、つばきのスマホに電話が鳴って、我に返った二人。

無言のまま、駅に行って別れたのである。

百歩譲って、青西優人あおにしゆうとが、告白してきたなら、愛ある出来事にできたかもしれない。

でも、お互い何も触れない。

30後半の男女が、触れないのは・・・。

気まづい以外ないだろう・・・。

空気読め!

と、言うことだ。

つまり、酔った勢いで、ことに運んだ。

甘い蜜に、酔いしれただけ。

つまり、気の迷い。

遊び。

言い方は、いろいろだ。

青西優人あおにしゆうとの噂を、身をていして、立証したことになる。

キスだけで、良かったのだ。

あのままだと、もっと、進んでいただろう。

電話が鳴らなかったらと思うと・・・つばきは、怖いのである。

自分にそんな感情的に行動してしまう一面があるということに。

しかも、大人な自分に。

時間も、経ったのに、今だ、青西優人あおにしゆうととのキスが忘れられない。

夢にも、でてくるのだ。

認めたくないけど、欲求不満なんだろうか?

いやいや。

こんなことを、考えても、仕方ない。

金輪際こんりんざい、彼に会わなければいい。

そうすれば、大丈夫だ。

ありがたいことに、勤務時間帯が被ることがないので、難なく、避けれている。


つばきは、今日は、病院で夜勤の日。

土曜日夕方。

病院の夕焼けが好きで、屋上に来ている。

ベンチに座り、心を休めている。

こういうキレイな景色を見るのが好きである。

屋上は、あまり人が来ないので、いつも一人で、のんびりしている。

しかし、入口付近から、声がする。

男女の声だ。

何故か、隠れなくてはと思い、入口の裏側に向かう。

反対側も、景色が良い。

極力、会話を聞かないようにして、距離を取ろうとすると・・・気になる会話が飛んできた。


青西あおにし先生、私と、今晩、過ごしてください。」


壁があるので、誰かはわからない。

女性の声だけはわかる。

相手は、青西優人あおにしゆうとということも。


神崎かんざきさん。今晩って・・・。一回でいいの?」

青西優人あいにしゆうとの優しい声が聞こえる。

「はい。青西あおにし先生が、望んでくれるなら、もっとでもいいいです!」


な・・・なんて・・・会話?!


つばきは、焦った。

こういう会話のところに出くわしたことはない。

しかも、チャラい男性とたしか彼氏持ちの若い看護士だ。


「へえ。オレのこと好きなの?それとも・・・遊びたいの?」

いたって優しい声の青西優人あおにしゆうと

チャラいだけあって、余裕だ。

つばきは、何とか、立ち去りたかった。

声からして、入口からは、だいぶ離れているだろう。

そっと、でれば、バレないだろうとつばきは、思った。


「両方です!私じゃダメですか?」

甘い声で、誘う声がした。


つばきは、聞きたくなかった。

こういう会話だからではなく、青西優人あおにしゆうとがらみだから、聞きたくないのである。

でも、余裕のないつばきは、自分の気持ちには、まだ気づいていない。


そっとドアに近づいて、出ようとしたつばき。


「そんなことないよ。嬉しいよ。神崎さんみたいな、キレイな女性からの誘いは、断れ・・・。」



なんで、振り向いたんだろう!


つばきは、目撃した。

屋上から出る瞬間。

看護士の神崎が、青西優人あおにしゆうとの腕を、親し気に掴んでいて、恋人同士の距離感で見つめ合ったいるところを。


つばきは、真っ白になって、思いっきりドアを閉めて、階段を駆け下りた。

涙をこぼしながら・・・・。



読んで下さって、ありがとうございます。

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