葵6
遅くなりました。
「そげん警戒しぇんで。」
香月課長は、優しく笑う。
「今日は、好意ば持っとーことば知って欲しゅうて、誘うただけばい。」
今度は、艶やかな色香を漂わせて・・・。
「それとも、もっと・・・?」
あおいは、ブンブンと、かぶりを横に振った。
うう!
何なの?!
あおいは、自分のキャパを超えてしまい、焦っていた。
しかし、一つだけ、訂正しておかなくてはと、香月課長に、向き直した。
「私は、直人と付き合っているので、お断りします。」
「うーん。中大路しゃんって、チャンスもくれんの?」
「え?」
「仮に、付き合うとーとする。ばってん、好きになった相手に、彼氏がおるけんって、好かんごとはなれん。うちんことば知ってから、断らるーなら納得しきる。(仮に、付き合っているとする。でも、好きになった相手に、彼氏がいるからって、嫌いにはなれない。私のことを知ってから、断られるなら納得できる。)」
「はあ。」
「やけん、チャンスばくれんか?」
ああ・・・。
どうしたらいいの!
あおいは、香月課長の食い下がらない態度に困惑していた。
「あんまり好まん方法だばってん、既成事実ば作るってんも・・・」
そういいながら、香月課長は、あおいの頬をなでる。
危険を察知して、即座に、答える。
「わかりました。チャンスだけです。」
香月課長の指は、離れ、「ありがとう。」と、優しい声をかける。
少し意地悪な笑みと、一緒に。
◇◇◇◇
あおいは、柿花直人の部屋の前で、立ちすくんでいた。
自然と、足が向いて来てしまったのだ。
約束の日以外で、柿花直人の部屋に来たことは、ほとんどない。
どうしたいのか、何を言いたいのか、とにかくわからないまま、来てしまった。
私・・・。
何しているんだろう。
仮にも、別れようとしているのに・・・。
あおいは、ため息をついた。
踵を返し、自分の家に帰ろうとする。
「え・・・。」
目の前に、柿花直人が、居た。
コンビニ袋を片手に、部屋に、戻ってくるところだ。
柿花直人も、あおいを確認して、小走りで近づいてくる。
「あおい、どうし・・・。」
柿花直人は、驚いて、その後の言葉を飲みこんでしまった。
あおいが、自分に抱きついてきたからだ。
私・・・。
何しているんだろう。
仮にも、別れようとしているのに・・・。
そう思いながらも、柿花直人に、まわした手の力を、強めた。
髪をすくように、二度、頭をなでた手は、優しくあおいの背中にまわされた。
普段だったら、恥ずかしくて嫌がるあおいだが、今日は、凄く心地よく感じてそのまま抱きついていた。
柿花直人の手が、腰に移動したこともきづかないほど、夢中で、抱きついていた。
少しして、あおいの耳を、甘い吐息と声がくすぐる。
「あおい、俺の部屋に、行かへん?」
「・・・んっ・・・。」
あおいは、自分でも驚くほどの甘い声をだしてしまい、慌てて、顔を上げる。
「!」
柿花直人と、至近距離で、視線が絡む。
返事を聞かず、柿花直人は、あおいから、離れ、指を絡めて、自分の部屋に招く。
玄関で、向かい合うあおいと柿花直人。
絡めた指を離し、あおいの髪を、二度すき、優しく、自分の腕の中に引き寄せる。
あおいも、彼に、自分の体重を預ける。
嫌じゃない・・・。
むしろ・・・。
温かい感情が、心に浮かぶ。
私は・・・直人のこと・・・。
自分の気持ちを、言葉にしてしまったら、ダメな様な気がして、あおいは、思い直す。
ううん。
ちょっと。酔っただけ。
偽彼に・・・。友人に、甘えているだけ・・・。
念じる様に、あおいは、心の中で、何度もつぶやいた。
読んで下さって、ありがとうございます。




