第4話(3)闘争からの逃走
「はっ、はっ、はっ……」
強めのパーマをかけて、白いマスクで顔の半分を覆った全身ジャージ姿の女性が道路を原付バイクで走る。
「……!」
「ひっ、ひっ、ひっ……」
「……て!」
原付バイクの斜め後方から別の声がする。
「ふっ、ふっ、ふっ……」
「待て!」
原付バイクの斜め後方から大きな声が上がる。
「へっ、へっ、へっ……」
「待てというのに!」
さらに大きな声が上がる。
「ほっ、ほっ、ほっ……」
「聞いているのか⁉」
大声を通り過ぎ、もはや怒声と化す。
「……」
強めのパーマをかけた女性が斜め後方に視線を向ける。
「聞こえているではないか! 待たないか!」
「待たないわ……!」
強めのパーマをかけた女性は拒絶する。
「何故だ⁉」
「な、何故だって……」
「理由を聞かせてもらおう!」
「そ、それは……」
「何だ⁉」
「いや、言うまでもないと言うか……」
「いいから言え!」
「……こ、こんな所で、そんな重々しい恰好で、白馬に跨っている女にいきなり追いかけられたら、誰だってこうなるわよ!」
強めのパーマをかけた女性は、自らの斜め後方を指差す。その先には、栗毛のロングヘアをなびかせて、西洋の甲冑を身に纏い、白馬に颯爽と跨る女性がいた。
「なに……⁉」
栗毛のロングヘアの女性は強めのパーマをかけた女性の声に驚く。
「なに……⁉じゃないわよ! それはこっちがしたいリアクションよ!」
強めのパーマをかけた女性はやや声を上げる。
「むう……」
栗毛のロングヘアの女性が顔を若干俯かせる。
「じゃ、じゃあ、そういうことだから……」
強めのパーマをかけた女性はその隙を見て逃げ出そうとする。栗毛のロングヘアの女性が慌てて顔を上げ、声をかける。
「ま、待て!」
「だから待たないって!」
「貴様!」
「き、貴様って⁉」
自らが思いもよらない二人称が飛び出したことに強めのパーマをかけた女性が驚く。
「貴様だ、貴様!」
「そ、それは分かっているわよ!」
「貴様……」
「何よ……!」
「この島で行われる闘いの参加者ではないのか⁉」
栗毛のロングヘアの女性が大げさに手を振りながら尋ねる。
「!」
「まさか、違うと言うのか⁉」
「い、いや、違わないけれど……」
「なんだと⁉」
「そ、そうよ! ウチもこの闘いの参加者よ!」
強めのパーマをかけた女性がうんざりしながら頷く。
「そうであろう!」
「ええ!」
「ならば、何故に逃げる⁉」
「逃げる理由はさっき言ったでしょ! 驚いたからよ!」
「驚いた? 理由になっていないぞ!」
「そんなのは人の勝手でしょう!」
「貴様には……」
「え?」
「自らの地元を代表しているという矜持、誇りはないのか⁉」
栗毛のロングヘアの女性が自らの胸の辺りを叩く。甲冑の音がカンカンと響く。
「あ、暑苦しいな~」
「あ、暑苦しい⁉」
「っていうかアンタ……」
「ア、アンタ⁉」
「いわゆるお客さんってやつでしょう?」
「む……」
「なに、違うの?」
「ま、まあ、そうなるな……」
「欧州あたりの……」
「ああ、そうだ。それが何か?」
「それなのに、よくそんなモチベーションで臨めるわよね……」
「命令を授かったからな」
「誰に?」
「それはどうでも良いだろう。とにかく、我にとって命令というものは絶対なのだ」
「わ、我って……」
思いもよらない一人称が飛び出したことに強めのパーマをかけた女性が困惑する。
「というわけで……闘おうではないか!」
「ええっ⁉」
「いや、そこは驚くところではないだろう!」
「よく知らない人とは闘っちゃダメってママに言われているのよね……」
「ど、どんな言いつけだ……」
栗毛のロングヘアの女性が戸惑う。強めのパーマをかけた女性が片手を挙げる。
「じゃあ、そういうことだから……」
「……知っている人なら良いんだな?」
「へ?」
「我はエリカ=ウォルフだ!」
栗毛のロングヘアの女性が右手を掲げ、左手を胸に添えて名乗りを上げる。
「は、はあ……」
「名乗ったぞ! さあ、闘おう!」
「い、いや、名前を聞いたくらいで知り合いとは言えないから……!」
エリカの強引な話の進め方に強めのパーマをかけた女性はさらに戸惑う。
「そうなのか?」
「そうなのよ!」
「……我は『騎士』だ」
「き、騎士⁉ 初めて見た……」
「闘うぞ!」
「い、いや、ちょっと……」
「ええい、いい加減はっきりせんか、貴様!」
「キャッ⁉」
エリカが腰から引き抜いた剣を振るうと、原付バイクが破壊される。




