第3話(3)望まぬ鬼ごっこ
「……!」
大型バイクと思われる乗り物に跨った、小柄でツインテールの髪型をした、つなぎの作業着を着た女子が、木々の中を猛スピードで駆け抜けていく。
(振り切ったでござるか⁉)
ツインテールの女子が振り返る。
「……」
後ろにはなにも見当たらない。ツインテールの女子がほっとため息をつく。
「ふう……」
「……!」
「はあっ⁉」
ツインテールの女子が進んでいた先の地面が突如爆発したように弾け、土塊や小石などが周囲に向かって、派手に飛び交う。ツインテールの女子は面食らって、跨っていた乗り物を横転させてしまう。
「…………」
「ぐっ……」
ツインテールの女子は咄嗟に受け身を取ったため、大怪我はなんとか回避が出来た。
「……………」
「……はっ⁉」
ツインテールの女子が視線を上げて目を疑う。そこには、黒のロングドレスに付いた、砂埃を細い手の甲の部分を使って払う、銀髪のロングヘアーの女性が立っていたからである。
「汚れてしまいました……」
銀髪のロングヘアの女性がボソッと呟く。
「お、おぬし!」
ツインテールの女子が転倒した痛みを忘れて、即座に起き上がる。
「どうも……」
「ひっ!」
銀髪のロングヘアの女性が優しく微笑みかけるが、ツインテールの女子は小さな悲鳴を上げ、距離を取ることでそれに応える。
「……その反応、寂しいですね……まるでオバケでも見たかのよう……」
銀髪のロングヘアの女性が美しく整った顔を少し悲しげにして、俯かせる。
「オ、オバケじゃないでござる! ば、化け物でござろう!」
「まあ、酷い言われよう……傷ついてしまいます」
ツインテールの女子の言葉に銀髪のロングヘアの女性が胸に手を当てる。
「し、白々しい! 地中から現われておいて!」
「ちょっと驚かせてあげようと思って」
銀髪のロングヘアの女性が顔を上げて、舌をペロっと出して微笑む。
「ちょ、ちょっとどころじゃないでござるよ!」
「それは良かったわ」
「良くないでござる!」
「あら……」
ツインテールの女子の言葉に銀髪のロングヘアの女性が小首を傾げる。
「だ、大体にして、どうして追ってくるのでござるか⁉」
「貴女が逃げるから」
「くっ……」
「この島は今、闘いの場ではないのですか?」
「そ、そうでござるよ……」
「では、何故に貴女はわたくしと遭遇したら、泡を食ったように逃げ出したの?」
「むっ……」
「教えて?」
銀髪のロングヘアの女性がさきほどとは逆の方向に小首を傾げる。
「……拙者の作戦でござる」
「作戦?」
「そう! この稀代のスーパーマシン、『トライストライカー』を使って、とにかくあちこちと逃げまわり、あらかた決着がついた頃に、弱っている相手をちょいと本気出して倒して、最終的な勝利者となる……『漁夫の利』大作戦でござる!」
ツインテールの女子が横転した乗り物を指し示しながら、無駄に胸を張る。
「……セコイわね」
「ぐっ⁉」
「作戦とも言えない稚拙なものだし……」
「ぐぐっ⁉」
「あっけなく瓦解したわね」
「ぐぐぐっ……」
銀髪のロングヘアの女性の言葉にツインテールの女子が悔しそうに唇を噛みしめる。
「それ、本当に上手くいく計算があったの?」
「お、おぬしにエンカウントさえしなければ、上手くいったでござる!」
ツインテールの女子が銀髪のロングヘアの女性をビシっと指差す。
「あら、わたくしのせい?」
「そう、おぬしのせいでござる! このトライストライカーは陸海空、どこにでも行くことが出来る、夢のスーパーマシン!」
「二回目よ、スーパーマシンって言葉……」
「大事なことだから二回言ったでござる!」
「ああ、そう……」
「それをおぬしは一体なんなのでござるか……⁉ 海上を逃げたら、海中から追いつき、空を逃げたら、空中から追いつき、オフロードの険しい道を逃げたら、地中から追いつくとは……! 反則でござるよ!」
ツインテールの女子が心底悔しそうに声を上げる。
「反則って、別にルールがあるわけではないでしょう?」
「そ、それはそうでござるが……スーパーマシンが……」
ツインテールの女子が横転して、破損してしまったトライストライカ―を見つめる。
「なかなかのマシンだったわよ」
「だった⁉ か、過去形……⁉ う、嘘の慰めなど不要でござる!」
「いいえ、本心から言っているわ……」
「信用出来ないでござる!」
「まあ、また傷付いたわ……」
「こっちは肉体的にも精神的にも痛めつけられたでござる!」
「それは散々ね」
「おぬしのせいでござろう!」
「では……降参してくれるかしら? これ以上痛めつけるのは本意ではないわ」
「え……?」
「我ながら良い提案だと思うのだけど……」
「うぐっ……」
ツインテールの女子が俯く。
「ねえ、どうかしら?」
「断る!」
ツインテールの女子が顔を上げて叫ぶ。銀髪のロングヘアの女性が目を丸くする。
「わっ、びっくりした……」
「拙者にも矜持というものがある! 闘わずして降参などありえぬ!」
「……逃げ回る作戦じゃなかったの?」
「え、ええい、揚げ足取りをするな! 闘うぞ!」
「事実を指摘したまでなのだけれど……大体、闘えるの?」
「ふん!」
「⁉」
ツインテールの女子が銀髪のロングヘアの女性を殴り飛ばす。予期せぬ一撃を食らい、銀髪のロングヘアの女性はやや驚きながら倒れ込む。
「おぬしは拙者を怒らせた……! ここからは本気を出すでござるよ!」
「東京特別区代表、島田晶……『技士』とは思えない腕力、何をやったの……?」
銀髪のロングヘアの女性が晶と呼んだツインテールの女子をじっと見つめる。
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