Flag8―魔導―(1)
『冬季魔闘祭一年の部優勝は……一年C組、プラナス=カーミリア。優勝おめでとう。…………続いて……』
落ちついて、されど熱の籠った学園長の声が歓声を沸かせ、尚も続けて発っせられる言葉一つ一つが生徒達の熱を冷めないものへと変えて行く。
夏季ならばこの発表の二日後、上位入賞者達による学年関係なしの、対抗戦に出場出来るメンバー七枠の内の五枠(残り二枠は教師陣による推薦)をかけた総合優勝を決める為の戦いが行われるのだが、今回は冬季の為、ここで終了である。
結果はご覧の通り、現在舞台に上がって表彰されているのはカーミリアさん。その近くにはエルとケトルが控えている。
俺の知り合いの順位は、一位プラナス=カーミリア。
二位エルシー=スチュアート。
三位ケトル=ストレングス。
四位ヴァル=アディントン。
九位ルーナ=カタルパとレディ=ロッテン。
二十五位コーチ=クロックとユーリ=カリエール。
となっており、一位から四位までが其々一人、五位が四人、九位と十七位が八人、二十五位が十六人ずついる。
ちなみに俺の順位は十七位。残念ながら二日前のユーリ=カリエールとの試合の次に行われた試合で俺は負けてしまった。
大きな敗因としては魔力切れ。《ペンタグラムの魔法陣》で存在魔力の量を増やし、体内魔力をの消費を減らす、ということは最初に比べると幾分出来てきてはいるが、それでも他の皆に比べると体内魔力の量が少なく、ユーリ=カリエールとの試合で殆ど使ってしまった為、簡単に負けてしまった。
いくら《暦巡》のお陰で、低コストで属性強化を使えるとしても、大元となる体内魔力が少ないのではどうにもならない。そんなこともあり、ひょっとすると俺とこの契約武器の相性は悪いのではないか、と考えてしまう。
話は少し逸れてしまったが、俺の敗因は中々に深刻なものである。俺の様に負けてしまった人も居るらしく、また、その中にはプログラムの組み方が悪い、と言う人もいたらしいが、学園長曰く『魔力を使うペースの配分も実力と同じ』と言うことらしい。
ならば魔力の量はどうなのだ、となるが、魔力の量は個人によって違い、魔法を使うことによっても伸びるらしいが、やはり大多数は生まれつき、才能と呼ばれるものである。
さて、そうなると気になってくるのが知り合いの魔力の量だ。魔闘祭から話し出したエルやヴァル、ユーリ=カリエールは知らないが、よく一緒にいるメンバーには少し前に気になったので訊いてみたことがある。
体内魔力の量の順に簡潔に述べると、ルーナ、ノスリ、カーミリアさん、レディ、ケトル、コーチらしい。しかしコーチが言うにはコーチは平均より少し多い位だが、それより上の人達……コーチを除いた残りのメンバーの保有する魔力の量がおかしいらしい。
また、俺を除いた、ノスリは聞いただけではあるが、俺の周囲の人達の実力は、俺の感覚は若干ながら麻痺してきているために実感はないが、この学院全体の中でも屈指の実力であり、更に俺の周囲に限らず今年の高等部一年はかなり優秀な為、来年ノスリが高等部に上がってくる事もあり、既に夏季の魔闘祭の対抗戦は優勝すると言われている程である。
では、何故こんなにも今年の高等部一年は優秀な生徒が多いのかと言うと、やはりそれも魔力の量と同じく才能が関係する。
この世界は案外シビアなもので血縁が実力に関わって来ることが多い。
例えば七英雄……剣士シーザー、騎士ロイド、魔導師メイサ=アビエス、 召喚師ガルシア=エバイン、魔術師ステラ=フォール、歌人アルテナ、僧侶でありハルバティリス王国初代王フラウ=アーク=ハルバティリス、彼らの血筋も優秀であったという噂もある。繁じいちゃんは……俺を見る限りどうだったのかはわからないが……。
そしてその血縁者であるノスリも優秀であると聞くし、エルやヴァル、ユーリ=カリエールは貴族であり、その他にも高等部一年には貴族とはいかないが優秀な名家の出身者が多い。
それが今年の高等部一年が優秀であると言われる理由であり、更にそんな中で力を高めあっているのだから尚更だろう。
しかし、そうなると再び疑問が生まれてくる。まず、カーミリアさんとケトルだ。前に少し話を聞いた……というか戦った時の感じでは名家出身ではなさそうなので努力の賜物だと思われるが、実力ないし魔力をあそこまで高めるにはどれだけの努力を重ねてきたのだろうか。まあ、考えたところで答えが出る、と言うものではないのでいつか本人に訊いてみようかとは考えている。
次にレディだ。とは言え、よくよく考えてみると、レディの個人的な話は聞いたことがない気がするのでもしかしたら名家出身、ということも有り得るのかもしれない。
「ツカサ……」
最後に、そして一番の疑問がルーナだ。確かにルーナの父親であるナイトさんは優秀であり、驚いたことにロイドさんの所属する騎士団で副団長をしていたこともあるらしく、実力者だ。
「ツーカーサー……」
しかし、いくらナイトさんが優秀だとしても、その子供であるルーナが保有する魔力の量が七英雄の血縁者であるノスリを抑えて一番というのは、中々に不思議なものだ。
「……ツカサ……!!」
「うわっ?! ……なんだノスリか。久し振りだな」
しかしそんな俺の思惟もノスリが話し掛けて来たことによって中断することとなった。
「ん、久し振り……じゃなくて、どうして無視したの……? さっきから呼んでいたのに……」
あれ? 何かご機嫌斜め? 考えていたせいか気が付かなかった……。
それに回りを見ると既に表彰式は終わっていた様で俺とノスリ以外の生徒は居なかった。
「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ」
「むぅ……。……まあ、良い。それより学園長が呼んでる……」
良い、と言う割には不満そうだが……。とはいえ、掘り返しても良いことはないだろうから触れないでおこう。
「ありがとう、それじゃあ行ってくるよ」
俺は学園長の居る部屋に行くためにノスリに背を向けようとするが、ノスリに呼び止められて再びノスリと向き合う。
「待って……送ってく……」
「ん? そうか? じゃあ行こうか」
…………迷子にならずに学園長の部屋まで行けるだろうか……等と考えていると、急に左手が温かいものに包まれる感覚を受け、その正体がわかり少しどぎまぎしてしまう。
「ど、どうして手を握るんだ?」
「……? 送ってくって言ったから……」
「それってどういう――」
「〝転移〟」
「――!?」
すると一瞬、足下に《ヘキサグラムの魔法陣》が浮かび上がったかと思うと、回りの景色が一斉に切り替わった。
気が付くと目の前には足を組み、さも偉そうに、柔らかそうな椅子にふんぞり返って座る学園長がいた。




