Flag7―牢獄の住人―(24)
それでも私は大鎌の刃をギラつかせながらコクジョウに歩み寄る。
「う゛っ……くっそ……」
コクジョウは痛みのせいなのか立てないでいる。無理もない、風鎧による加速した状態で手加減せずに突いたのだ。斬らなかったからと言って威力がない訳ではない。むしろ魔力付加していたとしても何処か骨が折れていても可笑しくはないだろう。しかし、この年齢で泣いていないのか……中々に勇ましい。
けれども……。
私は《断罪のアーレ=リウス》を振り上げる。
「大丈夫、殺しはしないから……」
「今すぐコクジョウ君から離れなさい!」
しかし降り下ろす事は叶わない。いや、降り下ろさずに済んだ、私の心情的にはそっちの方が適切だろう。
「……キョウカ、貴女は何故《リアトラの影》にいる?」
「私には……護りたい人が居る……」
「それはこの、コクジョウではない……でしょ……?」
「ねぇ、何を言いたいの……?」
少し意地悪な質問だったのだろうか。キョウカの声には少々怒気が含まれている。
「貴女は……優しい……《リアトラの影》等と言う所に所属しているにも関わらず優しすぎるから……きっといざという時、貴女は何も護れない……」
「そ、そんなことない!」
我ながら少し笑って仕舞いそうになる。
「それは自分に言い聞かせているだけ、それなら何故貴女はコクジョウを切り捨てない……?」
「そ、それは……」
「……そう、なら私は貴女に絶望を教える……」
これなら……どっちが悪なのかわからない。……まあ、間違ってはいないだろうし、もしかしたら悪なんて無いのかもしれないけど。
「……ッ?」
私は攻撃に出ようとしたが、突如寒気を感じ、後ろへ跳んで距離を取る。成る程、どうやら文字通り寒気だったらしい。
キョウカを中心にして雪山が更に寒くなり、雪までもが固く凍りついていっている。……これは近付けない。もしかしたら〝火鎧〟を纏っていてもキツいかもしれない。
ここまでの力を持っていたのか……。どうして今の今まで使わなかった……?
しかし、そんなことをゆっくり考える暇は与えてくれないようで、キョウカの手からは冷気が放たれる。
私はそれを横に走って躱し、〝火鎧〟を纏い、更に〝転移〟を発動して後ろを取り、大鎌を降り下ろす。
「なっ……!」
しかし彼女の背後に現れた氷の塊によって刃が届かなかった。
「甘いよ……」
「……風の属性強化ごと凍らしてくるなんて……〝転移〟」
通りで刃が届かないわけだ……。しかし相手のセクレトの威力が強い領域に長時間も居られないので十分に距離を取ったところに移動し、《断罪のアーレ=リウス》に付いている氷を火の属性強化で溶かす。
それに……わかってしまった。彼女の力が強くなった理由が。
「やはり、貴女は可笑しい……」
「そうかな?」
そう言うキョウカの腕の中には先程の私の攻撃を受けて弱ったコクジョウ。
「仲間の為に力を出すなんて、貴女の立場上似つかわしくない……」
あくまで、こちら側から見た、一人称の視点ではあるが。
「ねぇ、ノスリちゃん、私は優しすぎるのかな……? ……確かに私は我が儘だとは思う……元々居た護りたい人以外にもコクジョウ君だって護りたいと思ってるから。何も切り捨てられないから……」
「ええ、貴女は優しすぎる……。まるで優しい人達ばかりいる中で育った様に思える……」
「ふふっ……流石、よくわかったね。……けど、私の覚悟はあなたが言った『何も護れない』って思われる程度の覚悟じゃないの。私はあなたが思っている程弱くない! 力も! 心も!」
「…………そう」
「私、諦め悪いから。〝再出発〟」
彼女はそう言い、取り出した小瓶の中に入っていた液体を足下に垂らす。すると六芒星の描かれた魔法陣が彼女達の足下に青白く光ながら浮かび上がり、少しすると彼女達は消えてしまった。
逃げられた……いや、逃がしてしまった。
キョウカ、か……最初、私に何処か似た性質の人物に感じたが、蓋を開けてみると誰かに似た性格の、人間らしい人間……。
私は変わったのだろうか……? 弱くなったのだろうか……? ……わからない。
「うっ……」
そんな事を考えている時、私は膝を雪の地面に落とし酷く咳き込む。
手からは零れ落ちた液体は雪を赤く染める。
今は一人で良かったと少し胸を撫で下ろす。まだ……大丈夫だ。
とりあえず気は向かないがまず学園長に今回の事を話して、王宮に向かおう。
私は魔法を発動し、手や地面に落ちた液体を消し去り、立ち上がる。
どうせキョウカに似た誰かさんの試合も残念ながら終わってしまっているだろうし……別にもう急ぐ必要なんてないだろうから、ゆっくり向かおう。
今の時間は十分に有るのだから……。




