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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(23)

「…………まさか、失敗するとは思わなかった……」


「私も驚いたよ? まさかあの厚さの氷を簡単に切っちゃうなんてさ。まあ、それでもあなたの攻撃を少し遅らせられたお陰でコクジョウ君は無事に避けることが出来たから良いんだけどね」


 結論から述べると、私は奇襲に失敗した。正確に、無駄の無い動きで刈り取りに行ったのにも関わらず反応された。


「……けど、今の動きは殆ど見えなかったよ」


 キョウカは言葉とは裏腹に掴み所の無い、危機感を感じていないかの様な口調で言う。……この少女は危険だ……私とどこか似たものを感じる……。そう、私の血が告げている。


 それに、私の今の攻撃は見えないのが当たり前で、反応するなんて事が異常なのだ。……しかも彼女はそれを初見にも関わらず行った……。この少女は一体何者なのだろうか。


「〝風鎧〟……〝覆えデッケン〟……〝変化せよエンダーン〟」


 私がそう呟くと、青白く光る六芒星の描かれた《ヘキサグラムの魔法陣》が現れ、《断罪のアーレ=リウス》の手元から刃先にかけて通ることで大鎌を魔力で包む。次いで更にもう一つ同じ様《ヘキサグラムの魔法陣》が現れ、これまた同じ様に大鎌を通り抜けると、大鎌を包んでいた魔力は風鎧と同じ様な風属性の魔力に変化した。


 これで大体の物は今以上に簡単に斬れるだろう。それにしても風の属性強化というものは少し可哀想な気がする。効果は切れ味の上昇だが、素手等に纏わせなければならないのでは少し使いにくい。まぁ、私は武器に纏わせる事が出来るので問題ないが。


 そんな私にとってはどうでも良いことはともかく準備は整った。あとは落ち着いて、衝動に流されるな。


「貴女達はどうして二人で行動している?」


 しかし私も、誰のせいだとは言わないがお喋りになったものだ。早く終わらせたいことに変わりは無いが、気を抜いて適当に素早く倒せる様な相手でもない、この程度の会話など有ってない様なものだろう。


「何を言いたいの?」


「その氷は貴女のセクレト……」


「うん、そうだよ」


「一方コクジョウは黒い炎のセクレト……組むには相性が悪いのにどうして二人で行動している……?」


 私がそう言うと、キョウカは少し困った様な素振りで、コクジョウは狼狽えている様子。


「うーん、と……コクジョウ君が着いて来てくれるって言ったからかな……?」


「おおおおお、オレ様はたっ、只! シェオルの言っていた魔充石ってのがどんなのか気になっただけだ!!」


「こ、コクジョウ君何言っちゃってるの!?」


 やっぱりこのチビッ子……馬鹿だ。まあ、相手が馬鹿ならそれに越したことは無いが。


「それにしても……成る程、狙いは魔充石……それならここに泥棒をしに来た理由もわかる……」


「ど、泥棒じゃないよ!」


 コクジョウもコクジョウだが、キョウカもまだすっとぼけようとするのか……。


「せめて怪盗って呼んでよ!」


 良いのかそれで。


「……はぁ……」


「ど、どうして溜め息をつくの?」


 今のは別にキョウカに向けたものでは無かったのだが……今更気にする必要は無いか……。


 しかし困った事には変わりない。よくよく彼女達を見ると学園長の話に出てきた《リアトラの影》等と言う、王宮を襲撃してきた胡散臭い組織の出で立ちとそっくりではないか。


 ……まぁ、私の現在の格好も彼らと似たような感じではあるが、キョウカと呼ばれる方のセクレトは、話に聞いていた魔法ではないものと似ている。そして先程コクジョウの溢した『人によって違えど誰しもが秘めている力』と言う言葉と、コクジョウのセクレトがキョウカのものと違うということを考慮すると、セクレトと言う力の複製は出来ないと考えられ、また、同じセクレトを持つものは少ないと予想出来る。


 となると、彼女達は《リアトラの影》である可能性が高い。


「……はぁ……」


 もう一度溜め息をつく。


 これは困った。本当に。


 私は私自身の評価を、無口で、無愛想で、無関心で、不躾で、不誠実な冷たい人間だと思っていたが、意外と、案外、予想外にもそうでも無いらしい。


 その証拠に体の、もしくは心の何処からか生み出される溜め息。


 誰に似たのか、幸か不幸か影響を受けたせいなのか元々こんなだったのかはわからないが、困ったものだ。


 正直、戦うのを躊躇している自分がいる。


 普通、《リアトラの影》等と言う、ふざけた名前の組織の人間であれば、半殺しにしてでも連れて行かなければならないのだろう。


 しかしこれまた幸か不幸か、その組織の人間が……欲望があるのだから、人間らしいからそんなことをするのだろうが、そう言う意味とはまた少し別の意味で、人間らしい。


 出来るものならこんな出逢い方はしたくなかった位に人間らしい。


 普通に笑って、怒って、恋をして……そんな、私と年も違わないであろう人間を、誰がそんな組織の人間と考えるだろうか。


 しかし、そんなもの……関係ないのだ……私は力がある、この“血”がある、栄誉がある、義務がある。


 相手は私の纏う空気を感じたのか、構える。察知する能力……戦いにおける勘と言うべきか、それも中々。恐らく同年代もしくは下にしては強い、いや、大人相手でも二人は強いのだろう。


 ……けれども、だからこそ、どんな相手であろうとも、私は――


 私はおもむろにフードに手をかけ、脱ぎ捨てる。


「どうしていきなりフードを……っ……」


 コクジョウは言葉を呑み込み、キョウカは言葉に詰まる。


「私はノスリ=アビエス。七英雄メイサ=アビエス唯一の、最後の栄誉ある呪われた血を引く者にして、この国の闇を、影を担う特殊部隊《牢獄の住人》ただ一人の……人間。貴女達を拘束させてもらう……」


 これがせめてもの償い。これが貴女達を傷付ける者の顔だ。


「好きなだけ……恨めば良い……〝転移トランスファー〟」


 私は二人の後ろに移動し、《断罪のアーレ=リウス》を振るう。


 しかし相手の勘も伊達ではなく、反応し、前に跳び、避けられる。……でも甘い。


「〝転移トランスファー〟」


 今度はコクジョウの横に移動する。


 コクジョウも慌てて黒炎をこちらに放とうとするが……遅い。私は《断罪のアーレ=リウス》を素早く持ち変え、大鎌の長い柄の部分を突き出した。


「あ゛っ……!?」


 コクジョウは吹き飛び、樹氷にぶつかり、落ちる。


 その拍子にコクジョウのフードが外れ顔が露になった。コクジョウの顔は想像以上に若く、彼が言っていた様に精神は少し大人っぽいのかもしれない。


 そして瞳は黒く、癖毛気味なのか少しウェーブがかかっている髪で、全体的に黒いが、頭のてっぺんから前髪の左側にかけての一部分が真っ赤な髪をしており目立っている。


 ……予想以上に子供……少し躊躇しそうになる。しかし同時に、矛盾しているが少し気分が高揚している……我ながら反吐がでる。

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