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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(22)

「あ、あの……二人とも落ち着こうよ。ね?」


 仲裁に入ってくるこの少女からは知性を感じる。それと、どことなく誰かに似た、良い人っぽい口調なのが少し気になった。……相変わらず格好は怪しいけど。


「ところで、貴方達はここで何をしている……?」


「ふっふっふ……何をしているか? 良いだろうこのオレ様が教えてや」


「コクジョウ君は黙っててね」


「……はい」


「残念ながら秘密だよ。それにそれを言うならあなたこそ、こんな雪山で何をしているの?」


「私は……ここの土地の所有者に頼まれて見回りをしている……」


 私がそう言うと、少女の様子に変化はないが少年の方は見るからに動揺しているのか挙動がおかしい。


「そうなの? ごめんね、勝手に入っちゃって……まさか私有地だとは思わなかったんだ……」


「嘘……」


「酷いなぁ……嘘じゃないよ?」


「何故なら見るからに怪しい格好をしている……」


「これは防寒着だよ。あなたの着ているそれと一緒だよ」


「……それに……そのチビッ子の反応も怪しい……」


 少女は私の言葉に促されて少年の方へと目を向けると……。


「一体どこが…… 」


 ……固まった……。さっきまで普通に会話を交わしていた少女が固まった……。言葉一言さえも溢さない。


 それもそうか……だって少年の方は動揺のせいか小刻みに震えているし水筒みたいなの出して飲もうとしているけど水筒を開けた時点でやたら溢しているし……中は暖かいのか……いや、熱いのか……手に溢して凄く叫んでるし…………あと、何故か少年を中心にして回りの雪が物凄い勢いで溶けていっているし……何故……?


 ……あっ、少女が動き出した……。


「気のせいじゃないかな? コクジョウ君はいつもあんな感じだよ?」


 白を切った……この期に及んで白を切った……。私が見ても白々しい上に酷く痛々しいと感じるのだから相当痛々しいのだろう。


「……どうでもいい……貴方達は拘束されるのと自分の意思で私に着いてくるなら……どちらが良い?」


 とりあえずさっさと片付けて試合を見に行かないと……。


いずれにしても連行されるんだね」


「てめぇ、あんま嘗めてると痛い目見るぞ!」


「そう……話はそれから……貴方達の選択権はそこだけ……。チビは静かにして……時間の無駄だから」


「嫌、だと言ったら?」


「チビってオレ様の事か!?」


 少女の纏う空気がわった気がする……少し刺々しい感じ……相変わらず少年は煩いだけで変わらないけど。


 何はともあれ、彼女達はおいそれと捕まってはくれない様だ。


「なら……力ずくでも連れていく……」


「力ずく……? はっ! 余裕ぶりやがって、オレ様達が負けるとでも思ってんのか?」


「煩いチビッ子」


「誰がチビッ子だゴラァ! さっきから馬鹿にしやがって! それにオレ様は年齢の割には大人なんだよ!」


 自分で言うのか。


 ……はぁ……子供を傷付けるのは正直なところ気は向かないけれど……不審者には変わりない…………少々良心は痛むが“大人”ならば我慢してもらおう。


「ひ、ヒィッ!?」


「どうしたのコクジョウ君?」


「い、今何だか寒気が……」


「さ、寒気? どうしたの?! 風邪ひいたの?!」


「き、キョウカさんがオレ様の心配を……!」


 何だろ……この人達面倒臭い。


「ん? どうしたのコクジョウ君、何か言った?」


「い、いえ! 何も!」


「いい加減にして……私は早く帰りたいから手加減はしない……。無駄な抵抗はしない方が良い……」


「そっか……急いでいたんだ。ごめんね? けど私達も捕まる訳にはいかないの」


 そう言い、キョウカと呼ばれている少女は臨戦態勢をとる。


 武器は使わないのだろうか?


「キョウカさんは見ていて下さい。ここはオレ様がアイツの相手をしますよ」


 しかしコクジョウと呼ばれている少年がキョウカの前に立ち、私を指差し、そう宣言した。


「順番なんてどっちでも良い……さっさとして……」


「チッ! 嘗めやがって! 痛い目見て泣いたって知らねぇからなぁ!!」


 コクジョウはそう言ながら腕をこちら側へ伸ばす素振りを見せる。


「っ!?」


 するといきなり何かが飛んできたので後ろへ下がり回避し、飛んできたものがぶつかった地面を確認する。


「雪が溶けている……。……何をした……?」


「何を? オレ様は普通に攻撃しただけだぜ?」


「攻撃……? 今貴方に魔法を使った素振りは見られなかった……」


 魔法を使えば普通、魔法陣が浮かび上がる。それが見えないなんてことは有り得ない。


「は? 魔法? そんなもの使ってねぇよ。これはオレ様の“力”だ」


「貴方の……“力”?」


「ああ。何だっけな……あの人は『人によって違えど誰しもが秘めている力』とか言っていたな……よくわかんねぇけど。だけど、それのことを“セクレト”って呼んでいたのはわかる」


「セクレト……」


「どうだ? ビビったか?」


 コクジョウはそう言い、両手に黒い色をした炎を灯らせた。


「つまりその黒炎が貴方のセクレト……?」


「どうだ! かっこいいだろ!」


「…………子供……」


「うるせぇ! だから子供じゃねぇよ! くそぅ……灰にしてやる……!」


「そうムキになるあたりが子供だとさっきから言っている……」


「ムキになんてなってねぇ!!」


 けれど……何も知らずにあの炎に触れるのは得策ではないだろう。ならどうするか、そんなの簡単だ。触れなければ良い。只それだけなのだから。


「我求めしは契約の象……〝サピーナ〟……」


「チッ! 無視かよ……けど、漸くやる気になったか。オレ様を馬鹿にしたこと後悔させてやるよ」


「……来い、《断罪のアーレ=リウス》」


 七芒星が描かれている《ヘプタグラムの魔法陣》から現れる長い白銀の柄を掴む。……嗚呼、駄目だ……自然と口角が上がるのがわかる。この高揚感に酔いしれそうになる……。落ち着け、自制しろ。こんなことに快感を覚えそうになるこの血が少し憎い。


 そんな不快な快感を無視して私は全貌の表れた《断罪のアーレ=リウス》を構え、敵を見据える。


「でけぇ鎌だな……」


 そう、私の契約武器はコクジョウの言った通り大鎌。見た目は司法を司る武器特有の白銀色をしている。しかし、《断罪のアーレ=リウス》は現在確認されている司法を司る武器に見られる様な装飾はなく、刃が只美しく、妖しく、太陽の光を反射し、回りの景色を映している。


 とりあえず早いところ終わらせよう。距離は八メートル位……少し遠いけれど……。


「話は後で聞く」


「ちくしょう……嘗めてんじゃね――」


 ……まぁ、問題は無いか……。


「〝転移トランスファー〟」


 私がそう呟くと、文字通りコクジョウの後ろに“転移”した。


 そうして《断罪のアーレ=リウス》を斜めに振り下ろし、手応えを感じながら私は大鎌を振り抜いた。

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