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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(12)

 それにヴァルは本当に俺の情報を持っていないのか? 転校生が来たという情報は回っているのに情報が皆無なのか? ……まあ、俺が弱いってのと転校生って噂のインパクトが強くてツカサ=ホーリーツリー自体の影が薄くなっているのかもしれないけど……。


 しかし、理由は何であれどうでもいい、今考えるべき事ではないし、警戒されているのならその状況、利用させてもらおう。


「ああ、俺は一年C組所属、ツカサ=ホーリーツリー。エルの言っている通り、俺はカーミリアさん達と一緒に行動をしている」


 弱味を見せない様に堂々と。勘違いだと気付かせない為にはっきりと、底が知れぬ強者の様に、一種の不気味さを出す為に、そう俺が言うと、エルとヴァルの面持ちは少し強張り、俺から距離を取る為か少し離れ、身構えた。


 ……それでいい、俺は別に無理して戦う必要は無い。こうして睨み合いが続けばそれだけで時間稼ぎになる。


「……ツカサ、一つ訊いていいか?」


「どうしたエル?」


「ツカサは……」


 エルはそこまで言うと、少し躊躇しているのか言葉を止め、一度深呼吸をして言葉を続けた。




「……男か?」




 ……この少女一体何を考えているんだ?


 けど、とりあえずは……。


「このガキがぁ!!」


 お仕置きする事を優先しよう。


 俺は《暦巡》を取り出してエルに切りかかるも、エルの持っていた《スカディ=コルネリウスの杖》で防がれ、軽く押し合いになる。


 エルはこの見た目だが、やはり学年二位らしく、俺と体格の差はあれど魔力付加が俺よりも巧いのか、初めは優勢に見えた俺だが、段々と押し返されてきた。


「エルはガキじゃない! そもそもツカサが可愛い顔しているのが悪いんだぁ!」


「人が気にしてる事をはっきりと言いやがって!」


 少し会話を交えていると、視界の端にこちらに向かってくる何かが見えたので地面を蹴り、後ろに下がる。


 俺が下がってすぐ、俺が居たところへは白く角の無いシャープな見た目のガントレットを付けたヴァルが拳を思い切り突き立て、その反動で拳の周りの地面が隆起していた。


「ツカサ様、貴方がエル様と戦うと言われるのなら、俺も貴方と戦わせて頂きます」


「ヴァル」


「何でしょうかエル様?」


「邪魔」


 項垂れ崩れていくヴァル。何かヴァルって繊細だよな……見た目がアレだけど。


「どうしてですかエル様ぁ……」


 エルは戦闘のせいで少し強張った顔をしていたが、ヴァルの顔を見て優しい笑みを浮かべる。


「エルが主だからって無理にヴァルが戦う必要は無い。従者を守るのも主の役目だ」


「……エル様…………ご無礼申し訳ございませんでした……。主の心持ちを汲み取るのも従者の役目であるというのに……俺はエル様の仰られた通り、エル様の勇姿をしかとこの目に焼き付けさせて頂く所存でございます!」


 ヴァルはそう言いながらガントレットを消すと、何歩か下がり、真剣な表情で俺とエルを見据えた。


 エルはヴァルに向けていた目をこちらへと向け直し、《スカディ=コルネリウスの杖》を構える。


 俺の頭も少し冷えて落ち着いてきた。


 エルとヴァル、この二人の見た目等は独特ではあるが、二人のやりとりを少し見ただけでもわかる程、信頼関係は確かなものらしい。


「さあツカサ、構えるのだ」


 ヴァルは従者として、主を守る為に動き、より良い方向へ主を導く為に主の気持ちを理解しようと勤め、友としても信じる事が出来ている。


「どうしてエルは戦おうとするんだ?」


 エルは普段ヴァルとは友達の様に接しているが、主としての顔もあり、従者に護られるだけではなく、従者を護る為に、主として戦おうとしている。


「うぅぅ……余裕そうな顔しやがってぇ!」


 お互いがお互いのことを考えていることをしっかりと理解して、そこにはしっかりとした信念がある……。


「余裕そうか……もう一度訊くが、どうしてエルは俺と戦おうとする?」


 ……これは、実力だけでなく気持ちの面でも負けてしまうかもしれない……。



「そんなのさっきガキって言われた仕返しが出来てないからに決まってるよ!」



 ……そうでもないみたい。


「えっ……じゃあヴァルを戦闘に参加させなかったのは……」


「そうだよ! 只純粋に邪魔だったからだよ! だってああでもしないとヴァル言うこと聞かないもん」


 エルは頬を少し膨らまして口を尖らし、不満そうにそう言った。


 ……これってヴァルに聞かれても良いの……? …………いや、良いんだろうな、ヴァルは軽く絶望している様で、その場に両手両膝を地面に着けて動かないし……邪魔にならないならエルはなんでも良かったみたい。


 エルは本当にヴァルが邪魔にならなければどうでも良い様で、今尚崩れ落ちているヴァルを無視して俺へ体を向ける。


 どうしようか、正直勝てる気がしない…………逃げるか? 小細工のしようも無いこの状況では、俺はほぼ確実に負けるだろう……。


「逃げようとしても無駄だぞツカサ。この雪山に居る限り、《スカディ=コルネリウスの杖》からは誰も逃げられないよ」


 ……考えはお見通しか。


「情報を与えない様に戦わないのは賢い選択かもしれないけど、それは相手から逃げたり出来る時だけだから」


 その上勘違いまでされてるし……。戦うしか無いのか……なら、勝ちの目の見えない相手にどうやって戦う?


 いや、勝つ必要は無い、負けなければ良いのか……。どうせこのまま逃げようとしようが勝とうと足掻こうが一緒だ。やれるだけやってみよう。


「そう、みたいだな……」


 俺がそう言い、《暦巡》を構え直すと、エルは満足気な笑みを浮かべ《スカディ=コルネリウスの杖》の杖先を俺へと向けた。


「エル、一つ訊いてもいいか?」


「何だツカサ?」


「どうして洞窟に居るときに攻めて来なかった?」


「狭い所じゃ数の利が働きにくいし、かといって待ち伏せするのも時間の無駄だからだよ」


「なるほどな……」


 どうやらこの学年二位の少女は力だけではない様で頭も悪くは無いらしい。聞かなければ良かった、余計弱気になってしまいそうだ。


「質問はそれだけかツカサ? もう無いのなら……始めよう」


 エルは《スカディ=コルネリウスの杖》を右手に持ち、ゆっくりと横に振るう。

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