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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag7―牢獄の住人―(9)

「くそっ……こういう事だったのか……」


 悪態をつく。いや、悪態をつかないとやってられないと言った方が正しいか。


 冬季魔闘祭予選二日目は昨日開始した場所と同じ場所から開始する……筈なのだが、回りには俺達六人以外には誰も居ない。


 普通、転移魔法陣を使った転移は行き先が固定されているので転移を失敗するという事はまず無いらしい。なら、どういう事なのかと言うと……。



「俺達を除くC組の生徒全員が脱落しているなんて……」



 昨日俺が遅刻したり、夜遅くまで話をしていたせいで他の生徒とは殆ど会わなかったので、俺達はそんな事知るよしもなかった。


 そしてここに転移する前、宿舎の転移室に行くまでクラスメートにやたらと『頑張ってね』や『お前らを信じてるぜ!』等とよく声をかけられるな、とは思っていたがこれが理由か。


「多分、昨日ボク達を狙わなかったのはこの状況を作り出す為だったんだね……」


 まさか本当に三百対六の構図が出来上がるとは……。昨日狙われなかったのもその為だったのだろう。覚悟はしていたものの実際に現実となれば気分的にもキツい。


「……でもまあ、する事は昨日の夜に話した事と変わり無いか」


「そうね、アタシは別に作戦なんて必要無いと思うけど」


「流石カーミリアさん、頼もしい限りだな……流石ブラック」


「最初はアンタから消してやろうか?」


「勘弁してください」


 しかしカーミリアさんも少し丸くなったと思う。本人は気付いていないかもしれないが、さっきの発言も俺達の事信じてくれている様な言い方だし、それに文句は言うが何だかんだで最後まで付き合ってくれてもいる。最初に会った時とは大違いだ。……これがツンデレ……いや、デレは殆ど無いからツンツン……何か違う。……難しいな。


 それはともかく、今は魔闘祭に集中する事にしよう。


 俺は皆と一回ずつ目を合わせて、作戦を開始する事を伝える。


 全員が頷いたのを確認して俺は皆から離れて単独行動を開始した。


 ……しかし単独行動とは言っても今は皆から少し離れて隠れながら着いていくだけである。


 エルシー=スチュアートは自身の契約武器の能力で、俺達六人の今までの会話から既に俺がカーミリアさん側についているとは知っているだろう。しかし、俺はエルシー=スチュアートと接触した事が無い為、どこに居るかは把握出来ない筈だ。なら、俺がいくら弱くても使わない手は無い。


 例えば俺を除く五人が窮地に陥った時、相手は追い詰めたと思って油断する可能性が高い。そんな時に不意討ちを狙えば、良くて相手を倒せるし、最低でも場を掻き乱したりは出来る筈だ。


 とは言え、基本的にあの五人ならば中々窮地に追いやられる事は無いだろうからそんな事をする機会があるのか疑問ではある。


 しかし相手方の人数は三百、そう易々と勝てるものでも無いし、勝てるかどうかも危ういので、打てるだけの手を打っておいても損は無いだろう。


 それに俺が単独行動をする理由は何も五人のフォローの為だけではない。だが、とりあえず今は五人を見失わない様にしなければいけない。


 俺の視線の先に居る五人は、魔力付加を施して昨日この雪山を歩いていたスピードの何倍も早いスピードで駆けて行く。


 ……正直、五人の魔力付加は俺とは違い、練度が高い上に無駄がないので着いていくのは結構しんどい。


 五人の先頭を務めているはカーミリアさんは後ろに見向きもせずに只ひたすら進み続けている。あの人俺が大変なのを知っててスピード上げてるんじゃ……。


 そうしてある程度進んだ時、遂にカーミリアさん達は急に立ち止まった。


 カーミリアさんは真っ直ぐ前方に視線を向けている。


 その視線の先に俺も目を向けてみると、凡そ二十人位の生徒達が武器を構えて二列で横に広がる様に立っていた。


 既に陣形を調えているあたり待ち伏せをしていたのだろう。


 敵の一手目は無難と言う言葉がぴったりの動き。敵はこちらの位置を知っているのだから当たり前と言えば当たり前かもしれないが。


「よう、待っていたぜ。どうだ? 驚いたか?」


 俺の視線の先では戦闘が開始しそうになっているが相手が会話を持ちかけているあたり、狙いは時間稼ぎだろうか。


 しかし五人に話しかけている相手方の男子生徒は目立ちたがりなのか、あまり頭はよろしくない模様。


 普通、待ち伏せをして待ち伏せしていました、なんて言わない。


 これに何か別の狙いがあるとしたら話は別だが、五人に話しかけている生徒の言い方だと露骨過ぎる上に向こうは人数の関係上、一々細かい指示を出してなんかいられないだろうから只の時間稼ぎと予想。


 しかし相手の生徒の頭がよろしくないのなら、少し時間を割いて情報を聞き出すのも悪くないだろう。


 そしてカーミリアさんは直ぐに戦おうとするだろうが恐らくケトルならそう判断して話に乗るに違いない。


「別に驚きはしないわ、どうせ来るとわかっていたし。でもまあ、驚いたとしても結果は変わらなかったでしょうけど。さあ、とっととかかってきなさい」


「ラナちゃん、そんなに急がなくても良いのよ?」


「そうだもっとゆっくりしろ! 中々良いこと言うじゃねぇかオカマ!」


 ……あの男子生徒、あまりじゃなくてかなり頭がよろしくないんじゃなかろうか?


 しかし今はその方が情報を引き出すにあたって有利なので助かる。


 流石にカーミリアさんもここで勝手な行動は取らないだろうから、後は短い時間で出来るだけの情報を引き出す作業だけ。ここはケトルの腕の見せどころ。ここで情報が手に入るのと入らないのではかなり変わってくる筈だ。



「……我求めしは契約の象、〝サピーナ〟……アナタ達? 覚悟は出来ているかしら……?」



 ……あれ? あるぇ? どうして? 何でケトルが戦闘態勢をとってるの? 今さっき戦おうとするカーミリアさんを止めてたよね? ……何があったの?


 ケトルは召喚したばかりのゴツゴツとした黒色のガントレットを両手に嵌め、恐ろしく鋭い目付きで頭のよろしくない男子生徒を見据えている。


「ワタシはね……この世で嫌いなものが二つ有るの……一つは人や物を大切にしない人……」


 そこまで言うとケトルは一度空気を吸い、短く「〝スペリア・ランド〟」と呟く。


「そしてもう一つは……」


 ケトルはそう言いながら、まずい雰囲気を感じ取ったであろう生徒から放たれる魔法を全て掻い潜り、頭のよろしくない生徒の懐にまで入り込むとその勢いのまま右腕を振るった。



「ワタシの事をオカマって言う奴よ!!」



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