Flag6―心と約束と小さな樹氷―(23)
多分もうすぐわかる。俺の想像が正しかったらシーザー……いや、シゲルは……。
『そしてシゲルは皆に声をかけて行くと最後に僕の所へと来て僕にも声をかけ終えると笑顔で皆に笑いかけ、「今までありがとな! お前らの事大好きだったぜ!」と言い、ゲートを潜ると直ぐにゲートとシゲルの背中は見えなくなってしまった』
俺は仄かな、されど確信めいた期待を込めてページを捲る。
『僕は最後の彼の言葉を決して忘れない様にここへ記そうと思う。「俺がシーザーとして居れたのはお前が居たからだ。俺が俺自身の気持ちに気付いたのもお前が居たからだ。俺はお前に会えて良かったよレイン……いや、雨宮 孝規……じゃあな…………親友」……僕も出会えて良かったよ親友……道玄坂 繁』
本を閉じ、暫しの間嬉しさも少し混じった感傷に浸る。
「……嘘じゃなかったんだ……」
「嘘じゃなかったってどう言う事だい司君?」
「シーザー……シゲルは俺のおじいちゃんなんですよ。俺はあんまり信じてなかったですけど昔、ここに載ってる様な事があったって言っていました。シーザーが繁じいちゃんだって事はここに書かれている道玄坂って珍しい名字が何よりの証拠です」
俺はそう言いながらナイトさんに日記を返す。
「司君がシーザーの孫……これは凄い……。今更ながらだけども司君がここにいるのもなんだか運命に思えてくるよ」
「運命か……」
正直、そんな風には考えたく無い。俺がここに来た事が運命なら來依菜が居なくなったのもまた運命になる。來依菜が見つからなかったとしても俺は……これは運命だ、なんて言葉で片付けたくは無い。
「……ところでナイトさん、何で俺をここまで連れて来たんですか?」
するとナイトさん、は少し苦笑いを溢した。
「司君……ここに来た目的は覚えているかい?」
「あっ……」
繁じいちゃんの事に気を取られていて当初の目的をすっかり忘れていた。
「帰る方法でしたね……確か魔力を圧縮したら良いみたいに書いてましたけど、これって可能なんですか?」
確か魔力を手元に集める事は出来ても圧縮は出来なかった筈だ。例え手元に集める魔力の量を増やしても、増やした量の魔力は圧縮はされず、只魔力を外に垂れ流しにしているのと同様になる。
「私達だけじゃ不可能かもしれないけど魔導具を作れば別だ」
「魔導具を作れば……? 使えばじゃなくてですか?」
「うん、残念ながら今、ここら辺の国では魔力を圧縮する魔導具は無いどころか研究さえされて無いんだよ。戦時中ならまだしも今は使う目的がほとんど無いからね」
「“戦時中なら”……?」
「司君、他人の魔力は毒だという事は知ってるかい?」
確かこっちの世界に来たばかりの頃に身を持って体感したな…………明日、魔闘祭が始まる前にコーチを一発殴ろう、うん。
「どうしたんだい司君? 握り拳なんか作って」
「あ、いえ、気にしないでください。続きお願いします」
「そうかい? それなら良いけど……。それで、何故他人の魔力が害なのかは知っている?」
「確か存在魔力と比べて他人の体内魔力は自分の形の魔力に変換出来ないからですよね?」
「そう、じゃあ存在魔力を一度に大量に自分の体内魔力に変換する事は出来ると思うかい?」
「それは不可能だと思います」
「理由は?」
「一度に大量の存在魔力を体内魔力に変えられるのなら魔力切れは起こさないからですね」
そもそもそれならば魔力切れという概念自体が存在しない様にも思える。
「正解だよ。じゃあ体に大量の存在魔力が流れてきたとして変換しきれなかった魔力はどうなると思う?」
「変換されるまで体に残る……?」
「うーん、半分正解かな。変換しきれなかった存在魔力は体に残るけど、残った時点で体には毒になるんだよ。他人の体内魔力を流されるのと同様にね」
「……なるほど、だから“戦時中なら”だったのか」
「もう理解したのかい?」
「はい、一応」
何故“戦時中なら”魔力を圧縮する魔導具の研究がされたのか。
それは今ナイトさんに説明を受けた通り、有り余る量の存在魔力を体に流されると他人の体内魔力を流されるのと同じく毒になるということは、魔力を圧縮して相手に流す魔導具は有用な武器になるということだ。それこそ、魔力を圧縮して相手に流すという作業を一瞬出来る魔道具が出来れば人なんて簡単に殺せてしまうのだ。
ここでふと、あることを思い出す。
「あの、ナイトさん、魔力の圧縮って繁じいちゃんには出来たのに俺達には出来ないんですか?」
そう、レイン=シュラインの日記には魔導具を使ったとは書かれず、さも繁じいちゃん自身が魔力の圧縮を行なったかの様に書かれていた。
「それは私も聞いた話なんだけれども、シーザーは魔法ではない力を使っていたらしいんだ」
「魔法ではない不思議な力……」
不思議な力と聞くと先程の襲撃者を思い出す。
「どうかしたのかい?」
「あ、はい。繁じいちゃんみたいな不思議な力かどうかはわからないんですけど……」
俺はナイトさんに先程の襲撃者の事について説明をした。
「魔法の発動中に発動している魔法が凍っていった、か……契約武器や魔導具を使った素振りはあったかい?」
「いえ、少し遠目でしたけどそんな風には見えませんでした」
ナイトさんは目を瞑り、何かを考えているのか少し唸る。そして少しすると閉じていた目を開いた。
「……とりあえずそれについても調べておくよ。もしかしたら私の研究テーマにも関係があるかもしれないからね」
「はい、お願いします」
ナイトさんにいつもお世話になってるな……。ほんと申し訳ない……。
「それじゃあそろそろ帰ろうか」
ナイトさんにそう言われ、俺達は書斎を後にし、そしてそのまま宮殿からも出ようとした時、後ろからレイが息を切らしながら走って来た。
「ツカサ君!」
「どうしたんだレイ?」
「はぁはぁ……やっぱりナイトさんはツカサ君の保護者だったんですね……」
「えっ? うん、そうだけどどうしたんだ?」
レイは一度深呼吸をして息を整えると真剣な表情をした。
「ツカサ君……僕は必ず来年度の夏季魔闘祭でネクト魔導学院の代表として出場します! ですからツカサ君! その舞台で僕は君と戦いたい!」
レイはそう言い、俺の返事を待たずに走り去ってしまった。……なんだったんだろう。
「これは司君も負けてられないね」
そう言って何やら楽しげなナイトさん。こレイの様子が嬉しいのだろう。何か
「さあ、行こうか! ルーナが待ってる!」
ああ……この人はルーナに会いたいからこんなにウキウキしていただけか。




