Flag4―血と汗と涙の魔術学院―(6)
「寝てる……」
「寝てるね……」
あろう事かネアン先生は演習場の出入口の近くにある木で出来た長椅子で横になって寝ていた。
この人さっき学園長に説教してなかったか?
「おい、起きろ……」
そう言って俺はネアン先生を蹴り落としてみる。
しかし長椅子から落ちたのにも関わらず起きそうな気配が全く無い……。
「むにゃむにゃ……へへっ……ルイス……」
あろうことか寝言まで……って今この人ルイスって言わなかったか? ……ははーん、なるほど。
「ぶはっ!」
「えっ!?」
「ツカサ君……中々にサディスティックな笑みを浮かべていたね……まさか、教師と生徒がこんなに凄まじいなんて……ボク……知らな……かった……よ」
「頼むからやめてくれ……顔色悪いし……」
俺は急いで倒れたレディに駆け寄って受け止める。……原因は恐れなくても貧血。この人の将来が心配である。
それから俺は迷子になりかけながらもレディを背負って保健室にたどり着き、その後、制服を洗ったりしているといつの間にか授業が終わってしまっていた。
ちなみに制服は何らかの魔法のおかげなのか何故か水洗いだけで綺麗になった。流石は魔法の世界。
そして俺とルーナとコーチは本日の授業が終了したので教室で駄弁っていた。
「そう言えばツカサは転校生なのに質問責めに会わなかったな」
「そう言えばそうだな」
「皆ツカサに興味ないんじゃね?」
「くたばれ」
「酷っ!」
「本日は昼までだったので皆さんも早く帰りたかったんじゃないでしょうか?」
「そうかもな、でもそれで良かったよ」
実際質問責めとか気疲れしてしまいそうだし。
「もしかしたら明日質問責めになるかも知れませんね」
「面倒臭そう……」
「まあまあ、その時は助けてやるよ」
「ああ、助か――」
「キャー!」
そんな奇声がいきなり教室の扉の方から聞こえてきた。まあ、ここまでこれば誰かわかるけど。
「レディ、体はもう大丈夫なのか?」
「うん、もうバッチリだよ! ところでさっきの話しの中の責めって何!? あと今のって告白!?」
「レディ落ち着けって、また倒れるぞ」
キラキラした目でこっちを見てくるレディに俺は呆れながらも、また倒れられたら困るのでとりあえず落ち着かせる。
「そ、それもそうだね……大丈夫、落ち着いた」
「レディちゃんはこの後どうするんですか?」
「そうだねー……特に予定は無いね」
「それだったら私達と一緒に学食まで行きませんか?」
ちなみに俺とルーナとコーチで学食へ行くと言うのは質問責めの話の前に決めていた。
また、この学院内の学食はこの高等部の校舎と同じ位の大きさがある中等部の校舎との丁度中程にある学食だと思えないほど巨大な建物で、そこまでの道は整備されているそうだ。
その上、高等部の校舎から学食までの道の途中で中等部から学食までの道と交わっていて人も多いらしいので入学したての人も迷う事無く行けるらしい。
「うん! 喜んで!」
「なら早速行きましょう!」
学食へ行くテンションでは無い様な気もするがとにかくルーナは嬉しそうだった。やはり自分以外にも女の子が居た方が嬉しいのだろう。
そんなこんなで話をしながら学食へ向かっていると丁度高等部と中等部からの道が交わる所で、その道の先が少し騒がしい事に気がついた。
普段ならまだしも今日の授業は昼までなので学食へ向かう人も少ない筈だ。
その上、騒がしいと言っても楽しそうに騒いでいるのではなく、少し物騒な騒がしさ。
それに気付いていたのは俺だけだったが気になったので少し目を凝らすと男三人が誰かに絡んでいる様だった。
男達の風貌はガタイのデカイ男とほっそりとした男と世紀末の雑魚みたいな男……失礼かもしれないが見るからに拳だけって感じで頭の弱そうな三人だ。
何処の世界にもあんなのが居るんだな……。
そして段々と近付いて行くに連れて少しずつ会話の内容が聞こえてきた。
「おい、いいじゃねえかちょっと位」
「一人だったら俺達と一緒に遊ぼうよー」
「ゲへッ……ゲへッ……ゲヘヘッ!」
何と言うか面倒そうな三人だな……。
そう呆れながら関わっても良い事が無さそうだと判断した俺は特に気にしない事にした。
「えっ……?」
しかしそんな時目に入った光景を俺は無視する事が出来無かった。
三人の内のガタイのデカイ男が怒りだした。しかしそんな事はどうでもいい。重要なのはその男が怒り、少し動いた時に今まで見えなかった相手が見えた事だった。
絡まれていたのは無表情の女の子、銀色の瞳と髪で髪型はその綺麗で長い髪を耳の上でツインテールにしており、制服のスカートはチェックが無い中等部のもので、ネクタイの色は青だった。
しかしそれもそんなに重要ではない、本当に重要だったのはその時見えた女の子の容姿や体系が……瞳と髪の色と髪型を除いて全てが來依菜と瓜二つだった事だ。
そう気付いた時、俺はいつの間にか走り出していた。
「司さん!?」
「おい、ツカサ!?」
「急にどうしたの!?」
俺は後ろから聞こえてくる声も振り切って走り、女の子を庇う様に男三人の前に何の考えも無しに立っていた。
「何だお前?」
「知り合いかぁ?」
「ゲへへ……」
男は口々に喋り出す。
ネクタイの色を見ると青……三年か。
しかし見た感じ魔法は得意そうでは無いので何かあっても大丈夫な気がする。見た目で決めるのは早計かもしれないけど、こっちにはコーチ達も居る。それこそ何かあった時はきっと何とかしてくれる。
「おい、何か喋れよ!」
「それとも何だぁ? ビビってんのかぁ?」
「グヒヒッ……」
正直男達の声が騒がしくて耳がキンキンしてくる……。
「……恥ずかしく無いんですか? 高等部の三年のクセに中等部の子に絡んで」




