Flag4―血と汗と涙の魔術学院―(4)
成功させるための条件は二つある。まだ試した事は無いけど、出来無い事は無い筈だ。
まずは一つ目……。
「〝ランド〟!」
俺の左右と前方に魔方陣を展開され、その三つの魔方陣から土の壁が現れた。
条件の一つ目はクリア。これは最初に〝ウィンダ〟を放った時、何か一気に攻撃できねぇかな、とか思ったら出来ていたやつだ。とはいえ、一つだけに比べると魔力が分散したせいか威力が落ちていたので、案外使い所が難しいのかもしれない。
そして今、土の壁を前方と左右に展開した理由は高速で移動して、背後を狙ってくる可能性作る為。
ここで二つ目なのだが、その条件は一言で言えば“勘”だ。
勘と言えど想定した事を踏まえた上での勘。
だから俺はその“勘”に任せて土の壁が現れたと同時に後に向き、手の平を突き出して魔法を発動する。
「〝ウォート・プリズン〟!」
魔力を多く込め、魔法の範囲を広げて展開する。
「おわぁっ!」
すると見事にコーチが捕まり、水の檻の中でもがいている。
「……さあ降参したらどうだ?」
〝ウォート・プリズン〟が成功し、コーチが水の中に居るこの状態なら武器を持っていても流石に何も出来ないだろう。
「あ゛ばばば! ……びぶぇぶぼ……」
するとコーチが良く分からない事を叫び出した……。
「……何言ってんだ?」
「う゛ぇい!」
何を言っているのか確かめようと足を一歩前に出した時、白い光の様なものが俺の横を掠めたと共に水の檻が弾け飛んだ。
「えっ……?」
弾けた水が降り注いでくる中、俺は檻があった場所を確認しようとするも視界の右下にちらついた白銀の刃と背後に感じた気配で全てを悟った。
「はぁ……降参……」
こうして俺の初めての模擬戦は終了した。一応コーチが手加減しているのはわかっていたので、ハンデとしてわざと後ろから来る事を想定したのは卑怯だったかもしれないが、あれで駄目なら仕方がない。
そして現在ネアン先生の計らいで俺とコーチは演習場の端っこにあるベンチで休憩している。
「……くっそ!」
ずっと俯いていたコーチが歯を食いしばりながら唐突に叫んだ。
「どうしたんだ?」
「なぜだ……!」
何やら憤慨しているご様子。俺は何にもしてない。
「なんで俺が勝ったにも関わらずみんな俺に冷たいんだ!?」
そういえば模擬戦が終了した時コーチに対してブーイングが飛びかっていたな。
「……そりゃ、武器使ったからじゃないのか?」
「模擬戦ってそんなもんじゃないのか!?」
「じゃあ芝居だったと言えど最初の絡み方が悪かったとか?」
ちなみに俺とコーチが元々知り合いというのは既に説明している。
「うっ……」
そしてコーチが言葉を詰まらした時、ネアン先生から声が掛かったので授業に戻る。
「来たな……よし、じゃあこれから〝ビロウ・ランド〟の練習を各自でしてもらう。ちなみにその間俺は忙しいから話しかけてくんなよ」
ネアン先生がそう言うと生徒達はバラバラに散って行く。……俺達が呼ばれた意味はあったのだろうか?
生徒が散っていく中で俺はコーチとルーナに魔法を教えて貰おうと思い二人に頼んでみると二人とも快く引き受けてくれた。
「それじゃあ早速取りかかりますか!」
俺がそう言って二人に向き直るとコーチは何か考えていた様な仕草をした後、口を開いた。
「その前にツカサ、お前が本当に初めて魔法の練習をしたのはいつだ?」
さっきからそんな事を考えていたのか?
「えっと……四日前だけど?」
「本当にか?」
「ああ、魔力自体感じる事出来無かったのはお前も知ってるだろ?」
「確かにそうだな……でも普通は四日でお前みたいに魔法は使えねぇ」
「へー……そうなの?」
「反応薄っ……」
「そりゃ実感無いからな」
「でも本当に司さんの成長の速さは凄いんですよ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどルーナ……とコーチの教え方が良かっただけじゃないのか?」
「それもあるけどお前が異常なのには変わりねぇよ。てか何で間を空けた!?」
「お前に教わった記憶はほとんど無い」
「酷い! 俺だって頑張ったのに!?」
「へー……ご苦労様です」
「うわぁぁ! 転校生が虐めに来るよおぉぉ!!」
……怖っ。どうでも良いような話を、俺とコーチがしていると、ルーナが少し苦笑いしながら話に入ってきた。
「あの、そろそろ〝ビロウ・ランド〟の練習をした方が良いかと……」
「えっ? ああ、本当だな。ルーナは出来るのか?」
そう言いながら俺はビロウ・ランドの魔法の性質を理解する為に教科書を開いた。
「出来ますよ。と言うか皆さんも既に出来ていると思いますよ?」
「えっ……じゃあ何の為に試験すんの?」
皆が出来るのなら試験の必要性がない気がする。
「完成度を見るんですよ。丁寧かつ迅速に発動出来ないと使えませんからね」
「俺……間に合うか……?」
「司さんなら大丈夫ですよ!」
「そっか、ありがとうルーナ!」
ここは素直に受け取って頑張ろう! ……不安には変わりないけど。
「…………」
「どうした?」
何故かコーチがジト目でこっちを見てくる……。
「……何だよ気持ち悪いな」
「うぐっ……」
「何故泣く!?」
すると何故かコーチは更にぐずり出し、その奇行にチラホラと他の生徒がこちらの様子を伺っている。……どうすれば。
そんな時、ルーナが俺の近くに寄って来て耳元で囁いてきた。
「コーチさんは自分にも声を掛けて欲しいんですよ」
何ソレ面倒くせぇ……。
しかしこの視線は痛い上に原因を作ったのは俺なのでしょうがない……。
「コーチ……その……アレだ……」
面と向かったら何か恥ずかしいんだけど……。
「もちろんお前も一緒に頑張るんだぞ?」




