Flag4―血と汗と涙の魔術学院―(1)
「うしっ! 違和感は無いな」
俺は今、魔術学院内にある寮の自室の鏡の前で自身の制服姿を見ている。こんな行動を取っているのは初めて着る制服なので変な所が無いか等、諸々の確認をしていただけであって、決してナルシストとかそういった人ではない。
ちなみに制服は男女共に上は紺色を基調としたブレザーで胸ポケットに五芒星が描かれた盾の後ろで剣、槍、銃、鎌が重なった校章があり、男子は紺色のチェックのズボン、女子は赤色のチェックのスカートだ。
また、男子はネクタイ、女子はリボンであり、その色は三年間同じの様で、現在の一年が赤、二年が緑、三年が青で、俺は一年なので赤である。
一通り準備を終えたので学園長の元へ向かう。
ルイス=エバイン――つまりは学園長なのだが只の綺麗なお姉さんでは無く、かの有名……らしい七英雄の一人、召喚師『ガルシア=エバイン』の孫娘だそうだ。
英雄の孫娘と言うのは伊達では無く、発動時に七芒星の魔法陣が現れる《ヘプタグラムの魔法陣》――いわゆる何かを召喚する魔法――は一部を除いて殆ど才能が左右するものらしい。
その上、俺にはまだよくわからない事だがあの人は召喚の為の詠唱をすっ飛ばして出来てしまう化け物レベルだそうな。
そう考えるとあの若さで学園長をしているのも頷ける。
しかし性格は酷い。子供の様で俺も被害者の一人だ。
それは昨日の昼の事。一昨日の戦いの傷等を癒す為に久しぶりに宿でまったりとしていた時に突然この人はやって来た。
そして一言。
『すっかり忘れていたが学院は明日から始まるから遅刻するなよ!』
そうして慌ただし一日を過ごしてあまり疲れも取れないまま今日に至る。
「……あの人何で教師やってんだろ」
そう軽くぼやいていると、丁度学園長室に着いた。
一応礼儀作法はこっちの世界も同じ様なのでそれに見習ってまずノックをする。
「失礼します」
「失礼するなら入るな!」
……とりあえず無視して勝手に部屋に入ろう。
「失礼するなら帰れ! というか、帰れ! 私は働かんぞ! ……ってツカサか」
何言ってんのこの人。
「もうそろそろ貴様のとこの担任が来るとから少し待っとけ」
「……わかりました。そう言えば始業式で挨拶しなくても良いんですか? 学園長でしょ?」
「そんなもの勝手に教頭とか生徒会長やらがやってくれるさ」
……この人本当に学園長だよな?
ちなみに転校生の紹介は始業式の後にあるホームルームでするらしい。
そして現在の時刻は九時五十分過ぎ、担任の先生がいつ来てもおかしく無い時間だ。
「失礼するぞ」
そんな時、ドア越しからそんな声が聞こえた。その声に怒気が含まれているは気のせいだと信じたい。
そして学園長が返事をする前に扉は開き、そこからジャージの様な服を着て、適当に伸ばした様な黒髪を後ろでくくり、これまた適当な髭の剃り方をした様な男性が現れた。
男性は綺麗な深緑の瞳と端正な顔立ちをしているのだが、格好のせいか、何処か残念な感じがする。
「おいルイス! なんで始業式をサボったぁ!」
そして入って来たと共に彼は叫んだ……まあ、学園長が始業式サボれば誰だって怒るよな。
「一回位良いだろう……」
そう言って頬を膨らます学園長を無視して怒鳴る男性……見た目の割に真面目だ。
「良くねぇよ! お前毎年何回サボってると思ってんだ!?」
「えっと……三回位?」
「ざけんな! お前が出席するのは卒業式と入学式であとは面白そうと思った行事だけじゃねぇか!」
「なんだ? 私が悪いのか?」
ここに来て学園長まさかの逆ギレ……教育をする立場のトップとは思えない立ち居振舞いだ。
「当たり前だろうが!」
「じゃあ何処がどのように如何にして悪いのか出来る限りわかりやすく的確に示してくれ!」
「コイツ……」
「あのー……生徒の前で喧嘩は辞めませんか?」
これ以上放っておくとヒートアップしそうなのでひとまず止めに入る。……教師の喧嘩を生徒が仲裁してるってのはどうなんだ。
「ん? あー……お前がツカサか? 俺はお前の担任のネアン=スレイブだ」
「はい、よろしくお願いします」
そう言い、俺とネアン先生が握手をした後、ネアン先生は再び学園長に向き直った。
「……腹黒そうだな。おいルイス! 今日の所はこれぐらいにしてやるからしっかり反省しておけよ!」
「だろ? あーはいはい」
ネアン先生に対して学園長は備え付けの机に肘を立て、面倒そうに返事するだけだった。
「はぁ……覚えてろよ……」
呆れた様子のネアン先生はそう言って学園長室を後にしたので俺もネアン先生に続いて出て行く。
…………何? 一瞬入った腹黒云々のやり取り。生徒の前でするものじゃないよね?!
覚えておけよと内心思いながら、一年C組の教室のドアの前に辿り着く。どうやらホームルームに間に合ったようだ。
ネアン先生は先に中に入ってしまったので後は俺が呼ばれるだけだ。
中では定番の「男ですか女ですかー?」っといった質問が繰り広げられている。
ちなみに今の質問をしたのは声からしてコーチ。意味がわからない。
「じゃあ入って来てくれ」
そんなこんなで声が掛かったのでドアに手を掛ける。知り合いが居るとわかっていてもやはり緊張してしまう。
息を一つ吸い込み吐いて、気を引き締めた俺はドアを左へずらし、教室の中へと踏み込んだ。
新学期だった事もあってか、教室は少し騒がしかったが俺が入った事で静かになった。
「皆さん初めまして。俺はツカサ=ホーリーツリーと言います。田舎者なので皆さんに迷惑を掛けてしまう事も多いと思いますが、よろしくお願いします」
無難だがこんな感じで良いだろう。
拍手の中に、好奇の目、生暖かい目等、様々な視線を感じるが、どうやら受け入れてもらえたらしい。
「何だ……男かよ……」
「こ、コーチさん駄目ですよ……」
しかしそんな中で失礼極まり無い事をほざく茶髪オールバックで赤目の男と、それを諌める紅髪にダークレッドの瞳の少女。
コーチは少し近寄り難い見た目の為、何も知らない転校生に対してそんなことを言えば空気が凍るのは当たり前だ。そもそも俺だというのはわかっていた筈なのに、何を考えているのやら。
「つ、ツカサ君! 怖がらないで! 見た目はあんなだけどコーチ君は良い人だから」
名も知らぬクラスメイトがそんなフォローを始めると同時にクラスが騒がしくなる。
「こ、ここコーチ君!?」
「クロック君!?」
「は? 男? えっ……嘘だろ……」
騒がしくなった教室でほくそ笑むコーチと目が合うと、コーチは更に口角を吊り上げた。
「おい転校生ぇ! 俺はお前が気にいらねぇ!」
その一言で騒がしい教室が更に騒がしくなる。




