Flag3―試験と試練―(10)
一先ず俺は、青い短髪の男を刺激しないよう、言葉を選んで問い掛ける。
「……どうして、こんな事をするんだ? 目的は?」
「 そうだな。大まかに言ってしまえば理想を創る為だ。とは言え、先ずは資金が必要でな、君達はその為の人質になってもらう」
「理想の割には現実的だな。それに資金集めをする必要があるのなら、この手枷も貴重じゃ無いのか?」
「理想論だけでは何も出来ない、それ位わかっているのさ。それに残念ながら手枷は大量生産できるものでな。その癖、中級法程度なら余裕で耐えられてしまう優れ物だ」
「そうか……」
「質問は終わりか?」
青い短髪の男はそう言うと、俺が現状を理解して諦めたと取ったのか、軽く笑うと俺から離れていった。
汗が砂の地面に模様を作る。極度の緊張のせいで、焦るどころか逆に落ち着いてはいたが、指先は震えを抑えられない。
……落ち着け。現状を分析しろ。
先ず、この手枷。地面や壁にぶつけて壊れるほど柔には出来ていなさそうだ。けれど、何かが引っ掛かる。青い短髪の男は“中級魔法程度”と言った。
もし、ここに居る人達が上級魔法を使えたらどうするのだろうか? 上級魔法が吸収出来たとしても、最上級魔法が使えるなら?
それに、さっき殺された男性は中級魔法しか使用していなかった。
つまり、この国で一般的に使える魔法は中級魔法まで、良くて上級魔法なのだろう。ナイトさんが王都魔術学院はこの国唯一の魔法を扱う学校みたいなことも言っていたし、そう考えても問題なさそうだ。
それに、気のせいか武装している集団は青い短髪の男以外声を発してはおらず、何処か動きが鈍いように思える。そこまで手枷に信頼を置いているのだろうか?
……わざわざ手枷の存在を強調していたのも少し妙だし。男性を殺しはしたけど、それなら何故最初から動けないように痛め付けたりしなかったのか。
武装している集団がかなり重たそうな鎧を着ているのにも違和感を覚える。そもそもここは魔法の世界だ。普通、魔法を使って戦うんじゃないのか。これでは格好の的だ。
となると、コイツらは魔法を使えないのかもしれない。枷を付ける前に下手にこちら側を刺激しないようにしたり、枷を強調していたのもその為だろうか。
それなら、この手枷を破壊さえすれば、この状況をなん出来るかもしれない。
だがやはりそれが問題だ。破壊するならば上級魔法が以上が必要だろうし。それにはハードルが高過ぎる……俺は未だに〝スペリア・フレイ〟を成功させた事が無い。その上魔法を使ったら確実に気付かれてしまうだろうし、壊すのに失敗すれば、最悪さっきの男性と同じ様に殺されてしまうかもしれない。
チャンスは一回きり。ベットは自分の命。確率は最悪。……駄目だ、こんな賭けは分が悪過ぎる。
なら他の方法は? 何かある筈だ。
相手が言ったことを思い出せ……。青い短髪の男は『中級魔法程度なら余裕で耐えられてしまう』と言ったけど、果たして本当にこの手枷の強度は本当に高いのだろうか?
確かに中級魔法には耐えていた。しかし実際は壊れる寸前で、だから男性を殺してしまったという可能性も有り得るのではないか?
とは言え、殺された男性は中級魔法を連発していた事から、魔法を連発して壊せるものでも無いだろう。そもそも、もしそうやって壊せるものであったとしても、連発している間に殺されてしまうだろうけど。
兎に角、他の方法を。相手に悟られないように静かに魔法を行使する方法を考えろ。
いや、この際魔法じゃなくても、手枷さえ壊せれば何でも良い。
壊せそうなもの……奴らが持っている剣。それでこの手枷を破壊出来るだろうか……? いや、そもそもこんな状態じゃ奪えない。却下だ。
なら他に何か無いのか? 何でも良い。思い出せ、青い短髪の男の言葉を。その中にある糸口を
『いいか、君達が今嵌めている手枷は魔法を吸収するものだ。故に逃げようなんて考えは早々に捨てる事を推奨する。それに君達があまりにもしつこい様であれば、我々も然るべき手段を取らせて貰うことになる事も覚えていて欲しい』
……魔法を、吸収?
何か変だ。確かに男性が〝ビロウ・フレイ〟を使った時、炎は段々小さくなっていったけど、手枷が炎を吸収している様には見えなかった。
つまり手枷は魔法を吸収していない……? では手枷は何を吸収した?
魔法自体を吸収したりはしなかったものの、魔法の規模は小さくなった。
魔法の規模を小さく出来る方法を俺は知らないけれど、俺が知っている知識の中で、魔法の規模を左右出来得る可能性を挙げるのならば、それは魔力。
俺が最初に魔法を使った時、無駄が多いと言われたけれど、魔力を多く込めていたせいでルーナが見せてくれたものよりも大きなものになっていた。
それに、魔法というものは必要な魔力に達していなければ、魔力だけが消費されて発動しない。
手枷は“魔法”ではなく“魔力”を吸収していた。そう仮定するなら、さっき炎が吸収されずに、大きさが小さくなっていった事にも納得出来る。
つまり、上級魔法以上の魔法に使う魔力を、一度に手枷にぶつければ吸収しきれずに壊す事が出来るかもしれない。これなら魔法の様に目立つ事もない。
なら、あとはタイミングだ。奴らがこちらを向いていない隙に手枷を壊して不意打ちをしかける。
幸い、一番厄介そうな青い短髪の男は出入り口の方を向いており此方の動向を伺う気配ない。
男性を殺した男は俺達人質の回りをゆっくりと歩きながら見張っている。そしてその男は今、俺の後ろを通り過ぎた。
よし、まずは先にこの手枷をバレないように破壊しよう。ミスは許されない……目を閉じて魔力を体の内から集める。どう転がろうが冷静に対処しろ。
焦らず、一度深呼吸をして俺はかき集めた魔力を思いきり手枷へと流しぶつけた。
上手くいってくれと願いながら手首と指の関節を曲げて手首にある手枷に触れる。
数ヶ所、亀裂が入っていた。これならあとは腕力だけで壊せそうだ。
しかし今すぐ手枷を壊すのは不味いだろう。
まず見張りをしている男から片付けるべきだが、まだそのタイミングではない。もう一度俺の後ろを通り過ぎた時を狙う。勿論、その間も青い短髪の男への警戒を怠らない。
一定のリズムで鳴る足音が半時計回りに動いていく。真後ろ、そして二回音が鳴った瞬間。
俺は両腕に力を込めて先程入れた亀裂を広げる。
――軽い乾いた音が響いた。
手枷が壊れ、落ちたと同時に俺は見張りの男に手を向け、発す。
一秒。
「〝ランド〟!」
すると見張りの男の足下に魔方陣が現れ、一昨日岩の間下に壁を造り出した時と同様に下から突き上げる。
二秒。
勢いよく宙へと舞った男は、鎧の重量も相俟って、地面に勢い良くぶつかり動かなくなった。
三秒。
俺は続け様にリーダーらしき男の元へと走りながら手を向ける。
「〝ビロウ・フレイ〟!」
魔法陣から炎が放たれ、音に反応して振り向いたばかりの青い短髪の男を包み込んだ。




