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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
176/179

Flag12―還御―(12)

「此方の世界に住む人々は昔から魔法というものが使えたから、魔法の限界を知っていて、それで何かをしたいという願望が少ないんだよ。故にセクレトに目覚めにくい。一方彼方の世界に住む人々は魔法のような力は万能なものだと思っている。だからこそ、セクレトに目覚めやすい」


「“見守る”というのは、そのセクレトの中から運命を変えられるものを見付け出す、ということですか」


「粗方その通りだよ司君。しかしセクレトには魔力が不可欠だ。時々起こる神隠しの際に洩れる程度の魔力では到底足りない。だから僕は魔力を彼方の世界にも流すために世界を繋いでいるという訳だ」


「……そうですか。では、質問を変えます。時間を跳躍出来るあなたが、世界を繋いででも変えたいその運命は、俺の両親やその同僚を犠牲にして、罪を擦り付けてでも変えたいものなんですか?」


 俺がそう問い掛けると、少し悲し気に目を伏せて「そうだよ」と答えるけれど、丁度それと同じ瞬間に否定された。


 六芒星の描かれた魔法陣は、悲し気な表情を浮かべている昔馴染みの隣に現れ、人の形を顕現させる。知らない女だった。だけど何故か、俺は知っていた。


『犠牲にしたのは紛うことなき事実、しかし罪を擦り付けた訳ではない』


 青く淡い紫色の長い髪に、均衡の取れたはっきりした顔立ちと赤紫色をした切れ長の目。声だって多分初めて聞いた気がする。


 それでも、佇まいというのか、その人が纏う雰囲気には心当たりがあった。


「片桐宏樹さん……だった人ですよね」


『久し振りだ。大きくなったな』


 女は口角を上げる。見た目も性別も、口調だって全然違う。けど、所作の何処かに、昔俺達に言葉を掛けてくれていた時のような柔和さが垣間見えた。


「改めて紹介しよう。彼女はウィステリア、僕の使い魔だ」


 雨宮孝規とウィステリア。昔、俺と談笑したことだってある二人。その時の名前なんてものに意味なんて無くて、その癖、どうしてあの時のような顔を俺に向けるのか。


『司君、君とももう少し話をしたい所だが、私がここへ来た時点でもう時間がない』


 けれども、俺に考える時間も与えないまま、ウィステリアは雨宮孝規の手を取って、俺へと背を向け、光の柱へと歩き出す。


「待て!」


 未々聞きたい事があるのに、何もわからないのに、その前に何処かに行かれてたまるものか。


 でも、そんな事を言ったって止まってくれる筈もない。今ゲートを潜られてあっちの世界に行かれると、俺が追ってゲートを潜ってもきっと二人とは同じ先には辿り着けない。


「また会おう司君」


 その言葉が何時になるのかもわからないのに。バランスの取りにくい身体で、属性強化を纏って雪に下手くそな足跡を作りながら距離を詰めようとするけど、再会の願いを口にした人に全然手が届かない。


『來依菜ちゃんの事は、本人に聞けば良い』


 辺りを眩しく照らす光に姿を消してしまう直前、ウィステリアは無様に膝を突く俺に指で指し示して、そう言った。


 そんな事を言われたら、追い続けられる筈もない。


 彼女が示した方向、雪に白く染めた緑の下、ゲートが作り出した不格好な影に、空色の髪をした妹が本当に居た。


 幼い顔に似合わない憂いの表情を浮かべる彼女はゆっくりと、俺へと歩み寄る。


 俺も立ち上がって、上手く距離を測れない手を伸ばして、迎えようとするけれど、その瞬間、來依菜の血相が変わった。


 何と言ったのかはわからない。大きく口を開けて何かを叫んでいた。兎に角、漸く言葉を交わせる状態であったのにも拘わらず、手は届かなかったのだ。


 気が付くと世界が滅茶苦茶に回転して、冷たい物が頬に触れていた。真っ白だった景色が赤ばかりになって、その中で妹はへたり込んで虚ろな目から涙を流して、過呼吸のような声を洩らしていた。


 近くに見えた影の主からは聞いたことのある声が聞こえる。友人の命を、沢山の命を奪ったソイツはつまらなそうに「テメェ、しぶてェヤツだな」と呟いて何処かへ行ってしまった。


「私はっ……こんなつもりじゃ……こうならないために……」


 切れ切れの言葉を呟き続ける來依菜は酷い顔をしている。なんて顔をしているんだよと、声をかけようとしてみるけど、下手くそな息遣いだけしか出来ない。


 昔のように涙を拭ってやろうとしても、手が動いてくれなかった。……いや、そもそも動きようがなかった。遠くに広がる斑点状の赤に混じって、銀色の刃だったものも散っている。


 來依菜の元に行こうとしても、そこにあったのは赤く染まった雪と俺の一部だったと思われる欠片だけで、それさえも出来なかった。


 正しく手も足も出ないという状況らしい。呑気に構えて落ち着こうとしてみるけど、自覚してみると中々に痛いものである。もっとも、痛すぎて痛覚でも遮断してしまっているのか、右腕を失った時や、幻痛と呼ばれるそれがあったところに疼くように広がる痛みよりかはマシに感じてしまっているが。


 それでも何とか身体を動かして、遂には倒れてしまった妹の元に寄って、大丈夫だって伝えようとするけど、流石にこの状態は不味い……というか、酷いと言うべきなのか、よろしくない状態らしく、意識が薄れて来た。


 そんな中で俺が見たのは、瞳と髪の色以外は妹と瓜二つの外見をした年下の少女。


「良かった……生きてる……」


 嬉しそうにそう口にした銀髪の少女は、自分の手が汚れる事も厭わずに俺の顔を両手で包み込んだ。温かい。


 彼女は何かを呟く。


 すると、彼女と俺を中心にして五芒星の描かれた魔法陣が展開した。しかし直ぐに一度中心部に回転しながら収束し、一気に広がったかと思うと、魔法陣は黄金に輝き、均整の取れた複雑なものへと変化していた。


 痛みが和らいで、呼吸がしやすくなる。


「ノスリ……?」


 声も出るようになった。


 俺の呼び掛けにノスリは首肯する。どうしてこんな所に居るのか問い掛けると、まだ入院していたものの、動けるようになっていたノスリは俺が運ばれたと聞いて俺の病室にやって来た際に皆の事を聞いてしまったらしい。


 それから、俺が牢屋に連れて行かれ、ルーナ達が助けに行くことも知り、脱出した後で手助けをしようとしていたが、俺がチャーリーに乗っていった後、まだ調子が戻っていないようで長距離の〝転移〟を行えなかった為、追い付くのに時間が掛かってしまったそうだ。


 ノスリはばつの悪そうな表情を浮かべて、盗み聞きをしてしまった事を申し訳ないと言うが、皆もノスリ相手に隠すつもりは無かったと思う。


 それに。


「ノスリはどうして俺を助けてくれるんだ?」


 ノスリがそんな顔をする必要なんて無い。


「じゃあ……最初に私を助けてくれたのはどうして……?」


「……俺はノスリが思っているような人間じゃない。俺の妹……もう、知ってるだろ?」


「うん……気付いていたよ」


 初めて会った時よりもはっきり――それは俺が彼女の表情を見抜けるようになったのか、それとも表情が豊かになったのか、もしくはその両方――笑った。

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