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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
174/179

Flag12―還御―(10)

「ルーナ、何時も助けてくれてあり――いや、何でもない。また会おうな」


「はい、また会いましょう」


 とても短いし、何気無い、ありふれた言葉ばかりだけれど、これで良い。もう会えない訳じゃなのだから、今生の別れなんかじゃないのだから問題なんて無い筈だ。それに、“ありがとう”は今じゃあない。


 それだけ言葉を交わすと、ルーナ、レディ、ユーリは俺から背を向けて来た道を戻り、俺とコーチも三人から背を向けて、逆方向へと歩いて行って路地裏を抜けた。


 路地裏を抜けた先にあった道は、中々に広い道ではあったのだが、魔飽祭の会場ではないのか、露天は一切見当たらず、人気も全く無い。


「ここを左に真っ直ぐ行けばリアトラの中心部から西に出られる。ツカサはエレーナで良いんだよな? 途中までだが、道案内してやるよ」


「良いのか? もし王宮で既に抜け出していた事に気付かれてて、見付かったりでもしたら、コーチも牢屋行きかもしれないんだぞ?」


「そん時は笑って一緒に入ってやるよ」


 快活に笑いながら、コーチは足を進める。この世界に迷い混んで、ここまで来たのは只の偶然なのに、本当に俺は運が良い。


「ところでさ、メイドさんどうだった? ミニスカメイド居た? 縞パンメイド居た?」


「ミニスカは居たな。パンツは見てない」


「パンツ見ろよ! そして教えろよ!」


「見えねえし、見ず知らずの人のパンツ教えられてもどうしようもねぇだろ」


「俺の想像力嘗めんなよ?!」


 何時も通りの会話をする。いや、別に年がら年中女とパンツの話をしているわけじゃないけれど、大体こんな感じなのも否めない。


 コーチの想像力が豊かだから馬鹿でも魔法が強い説が出たところで、リアトラ中心部の建物が途切れた。


「もうここまでで良いよ。流石にこれ以上は万が一見付かっちゃった時とか隠れられないだろうし」


「ホントに良いのか? ツカサは時々どっか抜けてる事あるから迷子にならねぇか?」


「流石に一本道で迷子にはならないって――」


 そんな時だった、大きな音が空ごと震わせたのは。同時に、空へと走って行っているようにも見える光の柱が幾つもの現れた。


 一本は遥か遠くに薄っすらと。一本は北に見える山の丁度向こう側にはっきりと。他にも幾つもここから見ることが出来る。恐らくここから見えないものも含めて全てを言い並べるのは少し面倒になる位はあるように思える。


 そして一番近くでは。


「あれ……アトラスの森の辺りか? なあツカサ……ツカサ?」


「いや、聞こえてる。ごめん、ちょっと黙っててくれ」


「ここまで来てそんな扱い……泣いちゃう。今夜枕濡らしちゃう」


 真っ白な、光の柱。アトラスの森。……俺はあの光を、知っている。見た事がある。既視感がある。それは俺がここへ来た時、来る前。あの光に包まれたと思ったら、この世界に居たんだ。


 でも、何故あんなものが幾つも、それもあんな規模で? 魔飽の日だから? けど、毎年そんな事が起きていたらあっちの世界にももっと影響があっても可笑しくはない筈だ。


 今年が六十年に一度の魔飽の日だったのだろうか? けど、レイン=シュラインの書いた本には、ゲートと呼ばれる此方と彼方の世界を繋ぐ門は大量の魔力が必要と書かれていたから、こんな風に自然発生するものじゃないように思える。


 そもそもここまで大規模だとまるでゲートを固定させようとしているように……いや、ようにじゃなくて、固定させようとしているのか?


 誰が……? レイン=シュライン? それとも二十七代前にあの本を持ってきたと言われる生徒会長?


 いや、そうじゃない、そんな事を考えるんじゃなくって。何を俺は建前を作ろうとしているのか。


「ごめん、コーチ。皆が折角ここまでしてくれたけど、俺行かなくちゃ」


 あんなことが起こっているのだ、国は確実に調査のために騎士団を派遣するに違いない。俺があそこへ向かおうとすれば鉢合わせする可能性だってかなり高くなってしまう。


「後悔、しねぇんだな?」


 問い掛けられて、頷く。


 確か繁じいちゃんやレイン=シュラインの話を含めると、あそこ――アトラス森から彼方の世界に渡った先にあるのは青見原町だ。あれだけ大きなゲートとなると、あの森に住む魔獣も巻き込まれて彼方の世界に迷い込む可能性だって高い。


 比較的ランクの低い魔獣であっても、魔法が使えない人々からすれば十分な脅威だ。……それでもし、つむじやおばさん達が魔獣に遭遇してしまったりしたら……考えただけで怖くなる。


「んじゃ、行ってこい。絶対捕まったり死んだりすんじゃねぇぞ、親友」


「ああ、またな」


 呆れたように笑う親友に押された背中の勢いを上乗せして、俺は只々人が呆けている街中を駆ける。ゆったりと馬車で走って半日掛かる位置なんて、魔力付加を使っても直ぐに着くなんて到底無理だ。属性強化ならわからないけど、俺じゃ確実に魔力が持たない。


「チャーリー! チャーリー居るか!?」


 だから、俺が向かった先は馬用の宿。だけど、あいつ曰く「ぷりてぃ」で、俺からすれば枯れ草みたいな鬣は見当たらない。人と同じく呆けている馬の間を縫うように歩きながら、一匹一匹確認するけどやっぱり居ない。


 馬の宿から出て街中を駆ける。騎士団への警戒なんて全く出来やしない。屋形を率いたチャーリーが歩ける道は限られているが、ちらほら見かける馬と同じく、ひょっとしたらチャーリーも何も引かずに歩いている可能性もあることから、人も多い所を通っては見てみるものの如何せん人が多いため中々に捗りそうにない。


「……〝雷鎧〟」


 ならばと、路地に入って瞬発力を上げて壁を蹴り、少し申し訳無いけれど、建物の屋根の上に登って、慣れない身体で転びそうになったりと、肝を冷やしつつも通りを見渡しながら移動する。


 見付からない。


 何事かと騒ぎだしている人々の群れの中に、探している馬の姿が見えなくて、焦りが思考を支配してくる。頭を冷やせ。そんな頭だと見落としてしまうだろうが。


『俺をご所望かいツカサ? 何切迫したような顔してんだ?』


 冷静になろうと努力したお陰という訳ではないけれど、少し足を止めた時にそんな言葉を後ろから掛けられた。


 ……通りで、見付からなかった訳だ。


「誰のせいだと思ってるんだ……。何でお前がこんな所に居るんだよ、チャーリー」


『俺もツカサを探してたからな』


 振り向くと、ずっと探していた陽気な、俺は見慣れてきたけど、俺の世界から見れば不思議な見た目の馬が屋形も引かずに立っていた。


「ここ、屋根の上だぞ?」


『重てえ屋形が無けりゃお手のものよ』


「……この世界の馬って凄いんだな」


 俺の呟きにチャーリーは『おうよ!』と返事をすると共に『背中に乗れよ』と言われたので言葉に甘える。

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