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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
172/179

Flag12―還御―(8)

「あの、私はルーナ=カタルパと言います。よろしくお願いします」


 ……礼儀正しいのも良い事だけど。何かちょっとズレてないかな? そう思うのは俺だけなのかな?


「よろしくルーナ。さっきも言ったけど、マーガレットで良いよ」


「はい、わかりましたマーガレットちゃん」


 レディ、ルーナ其々と握手をしたマーガレットは遂に眉を潜めながら俺のところへやって来た。


「んー? やっぱり君、私と何処かで会ったことある?」


 ここで下手に喋る訳にはいかないと判断した俺は、出来る限りノスリのように無表情を保ちながら頭を振る事にした。


 マーガレットは「えー……うーん……? そうかなー……?」と口にしながら腕を組み、指を顎に添えて、色々な角度から眺めてくる。ジロジロと監察してくるのは心臓にも気分的にもあまり良くは無かったが、暫しの間表情を変えずに堪えていると、まだ少々腑に落ちない様子だったものの離れてくれた。


「ど、どうしてそんなに不機嫌そうなの……?」


 訂正、どうやら俺の無表情に恐れをなしていただけらしい。態度では毅然としたものを繕おうとしているが、よくよく見ると足が震えている。流石ヘタレ。


 しかし一度目を左右に泳がせて、俺の左右に立っているルーナとレディを見てはっとしたような顔をすると共に震えが止まった。


 それから俺を上から下まで回し見直すと、その表情は何やら悟ったような、哀愁を感じる微笑みへと変わる。


「……あなたも、そうだったのね。大丈夫、私は味方だから……同じ持たざる者同士、あなたの辛さはよくわかるよ」


 俺の両の肩を強く掴んで、マーガレットは瞳に少し涙を浮かべるけれど、この人は確実に明後日の方向のシンパシーを俺に感じているのに違いない。


「ひぐっ……えっぐ……うっぐ……」


 何にせよ助かった。目の前で泣き出した人はどうすれば良いのかわからないけど。


 しかしこのまま泣かれては、折角注目されるのを避けてきたのに、目立ってしまう。


 視線で隣の二人に助けを求めようとしてみると、ルーナはオロオロとしていて見込みがない。レディは「あー泣かしたー」とでも言いたげな悪戯っ子のような表情を浮かべている。泣かしたのは俺じゃなくあなた方二人の胸ですとは言える筈も無く、出来る限り声を出さない方法を考えた結果、涙を拭って微笑みかけてみることにした。


「……うん、わかるよ……!」


 するとどうだろう、俺としては泣き止む事を期待して、その目論みは成功したのだが、今度は俺の首に腕を回して抱き付いてきた。成る程、これが女同士の友情の表し方の一つか。悪くない。


 しかし俺は生粋の男である故、非常にこの状態は嬉し恥ずかし恐ろしなのである。


 ルーナは顔を真っ赤にして口をパクパクとしている一方、レディは新しい玩具を見付けた子供のような表情を浮かべていて、二人とも大切な事を忘れていないのかと問いたくなってくる。


 流石にこれ以上に時間を食ってしまうと、色々と支障を来してしまいそうなので、取り敢えず冷静に行動出来そうなレディに声には出さず口を「助けて」という形に動かして援護を求めた。


 するとレディはやれやれとでも言いたげな素振り。いや、こうなったのは俺だけのせいじゃないからね? ある種の格差社会のせいだからね?


「マーガレット、ゴメンね。ちょっとボクら用事があって急いでるから、そろそろ行かなくちゃいけないんだ」


 しかし何だかんだでレディはマーガレット腹部に腕を回して俺から引き剥がしてくれた。


 引き剥がされる際のマーガレットが「何この柔らかさと大きさは……」等とぶつぶつ呟きながら、空虚に笑っていたが、せめてもの手向けとして見なかった事にしておこう。


 俺から離されたマーガレットが呆けて何の反応も見せなかった事に対して、無自覚格差社会の富裕層二人は不思議そうな表情を浮かべていたが、俺は「今はそっとしておいてあげようぜ」と足を進める事を提案した。別に富裕層であろうと無かろうと、其々に良いと思うんだ。


 気のせいかコーチみたいな事を考えてしまっている事に気付き、嫌悪感を抱いている内に、遂に王宮と外部とを繋ぐ門の近くまでにやってきた。


 王宮を囲っている巨大な壁は、魔力付加や属性強化で跳んでも到底届きそうではなく、何の道具も無しに、更に見付からないように通るのは難しそうだ。


 ここから出るには門を潜る必要があるが、普通、一番盛り上がりを見せるこんな時間に外へ出る人も少ないため、お馴染みの門番さんが居る門を通って外を出ると後々ルーナ達が疑われかねない。


 そこで外部待機だったコーチの出番らしい。


「お願い! ちょっとだけ、ちょっとだけで良いから!」


「駄目駄目、さっきから言ってるでしょ? 部外者は入れられないんだって」


「メイドさんだぞ!? メイドさんが待っているんだぞ!? 門番さんも見たいだろ!? な?! な?!」


「我々はこれが仕事だから、持ち場を離れる訳にはいかないんだ」


「考えてみろよ、あの道の先に居るんだぜ? あんたらそれで良いのか?」


 ……何やってんのあの長身オールバック。ひょこひょこと門番さんを懐柔しようとして動くたびに揺れる二本の前へと跳ねている前髪は、宛らカサコソと動く黒光りする例のあれの触角のようである。


 それを遠くから見ていたレディは、俺に「顔を伏せて」と指示を出して先行して歩いて行く。


 門へと近付いて行く途中「何があっても絶対に顔を上げちゃダメだよ」とも言われて、不安はあったものの、皆を信じることにした。


「あれ? コーチ君? そんなところで何をしているの?」


 わざとらしく大きめの声で、門番さんの視線を集めながら近付いて行くレディ。


「そ、そっちこそ何でこんな所に!?」


「私がお父さん達のお手伝いとして誘ったんです。今から、頑張って盛り上げてくれているお父さんの好きな飲み物とかでも買ってこようかと思っていたところなのですけど……」


「あー……ルーナちゃんのお父さん騎士団長とかとも仲良いもんな。そうだ! じゃあさ、俺も中に入れてくれよ。良いだろ?」


 どんな大根芝居を見せられるのかと思いきや、コーチにしては意外にも自然で違和感の無い演技である。


「駄目です」


「俺もメイド服着るから!」


「誰が見たいんですかそんなの……」


 ルーナとコーチがそんなやり取りを繰り広げ始めると、置いてけ堀を食らった門番さんは少し居心地が悪そうに視線を泳がせる。それを待ってましたとばかりにレディは「いやー、すみません。このどうしようもない人はボク達が責任を持って家に届けますので」と俺を引っ張りながらルーナを連れて、二人でコーチを押すように門を潜り抜けた。

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