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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
171/179

Flag12―還御―(7)

「カモフラージュって……そういうこと?」


「ええ、今着ている服の上からも着れるように、スカートが長くて、大きくても違和感の無いものを選んできました。腕や目の事もあったので、そういう物っぽくも見えるダークな感じの物にしたのですが如何でしょうか? 丁度古びた本もあることですし、抱えるときっと様になりますよ?」


 黒い。ヒラヒラ。ふわふわ。どっからどう見ても男が着るものではございません。


「……着なきゃだめ?」


「勿論」


 嬉々とした様子で服を渡してくるルーナさん。やるからには楽しむつもりらしい。……というか、そうでもしないとやってられないのだと思う。「何だか悪いことをしている気分です」と口にしているが、悪いことをしている現在進行形である。


 嵌められていた枷やその鍵を置いていくとルーナ達が疑われてしまう可能性があった為、ポケットに突っ込んで渡された服を着る。ヘッドドレスを俺に付け終えたルーナに「とてもよく似合っています」と言われたがどんな顔をしたら良いかわからない。


 ルーナを先頭に外の様子を伺いながら牢屋から出て少し歩くと、魔飽祭の宴による灯りのせいで目が少し痛くなった。


 その中心部ではどうやら殺陣か何かをやっているようで、人の隙間から金属音と共に、銀色の鎧が見える。


「あそこでは今ロイド様とお父さんが戦っているんですよ」


 そう言って笑うルーナは中々に策士らしい。


『お父さんの格好いい所が見たいな』


 それだけで騎士団の長ごと、俺が脱出する際に懸念すべき材料を封じ込めてしまったのである。


 けれども、戦う騎士団長と元副長を遠目に見ながら、王宮の端の方を堂々と歩き始めて早々、声が掛けられた。


「へぇー、ばっちり似合っているね!」


 突然だった事に見付かったと思って取り乱しそうになってしまったが、どうやらそう声を掛けてきた人も知り合いだったらしい。


 金色の綺麗なウェーブを伴う長髪に、青玉のような瞳。ルーナとはまた違って、ヒラヒラが多く、少し黒い生地の多いメイド服を着ている彼女は黙ってさえいれば素敵なメイドさんに違いない。


「持って帰っても良い?」


「家が牢獄になっても良いのなら」


 お互いに冗談を酌み交わして、口を動かしながらも足は止めない。


「どうしてレディまで? 入れないんじゃなかったのか?」


「ふっふーん! 甘いよツカサ君、ルーナの服よりも甘々だよ。このミッションメイドっ服を思い付いたのは誰だと思っているのさ」


「コーチさんですよね」


「だろうな」


「じ、実践段階に持っていったのはボクだよぉ!」


 何でも、最初にコーチが『そういや、あそこいっつもこの時期になるとメイドさん増えるよな』と呟いた事から始まったらしい。


 そこへレディが潜入しようと言い出して、懸念される騎士団の人達はルーナが自分から何とかすると言って実行に移したそうだ。


 一見、穴だらけに見える作戦だが意外とちゃんとしているようで、先ずルーナが一人で、ナイトさんと一緒に潜入して、盛り上がって来る時間帯になると、ナイトさんをロイドさんに嗾けて色々な人の目を引いている内に、自由に使える王様の趣味の服をこっそりと二着借り、買い出しに行く振りをして門を出たらしい。


 門番さんは勿論ルーナと顔見知りであるが、そこは良く出来た娘さんアピールで難なく躱せる。


 そこから、外に居たレディと落ち合って、レディが着替え、知り合いのお手伝いさんと途中で合流したと門番さんに説明する事で、無事レディも潜入に成功する。勿論頻繁に出入りしている人は門番さんも知っているが、今日は魔飽祭なので、問題無い。レディ一人だと怪しまれる可能性はあっても、ルーナと一緒ならば疑われもしないだろう。


 二人ともが王宮に潜入すると、先ず俺の着る服を選びに行き――きっときゃっきゃっしながら選んだに違いない――その後、ルーナは服を鞄に入れて俺の元へやって来て、レディは牢屋近くを怪しまれないように気を付けながら、人が来ないように見張っていたらしい。


 脱出するだけなら、わざわざ牢屋に用がある人も少ないので、ルーナだけでも大丈夫な気もしたが、それを言うとレディ曰く「ツカサ君に来る視線を出来るだけ減らすためだよ」とのこと。


 正直そこまでする必要があるのかどうか、その時はわからなかったが、歩いていると意外にも色々な人に話し掛けられる。ルーナの知り合いは勿論、見ず知らずの人も話し掛けてくるので、ひやひやとしたが、レディの計算通り二人よりも三人の方が心強かった。


「まあ、コーチ君はメイド服似合わないし、外に出てからサポートする役目だよ。最後に見た時は崩れ落ちていたけど」


 どうやらあいつはメイド服を着る事になってでもメイドさん達が見たいらしい。……まあ、確かに着る価値は無いわけじゃ無いと思ったけど。


「酷いよねー。ボクらもメイドさんなんだけどなぁ」


 そんな風に話をして、すれ違うおじ様やおば様方に「ルーナちゃんお手伝いかい? 本当に良い娘さんだよ。可愛いねぇ。一緒にいるお友達? も良く似合っているよー」と声を掛けられている内に、広い王宮を外へ繋ぐ門が近付いてきた。


 しかしそこで障害が。前方から歩いて来るのは一人のメイドさん。それ事態はよくある事なのだが、そのメイドさんが問題だった。


 明るく長い茶髪のゆるふわパーマ。菫色の瞳で均一の取れた顔。白と黒のコントラストの素晴らしいミニスカメイド。ルーナが来る以前に食事を届けてくれた同年のヘタレ少女、マーガレット=リタ=アルダートン本人である。


「げっ……」


 これは駄目だ。知り合いでも遠目から見てレディとルーナが隣に居るから俺を俺だと思う人は居ないだろうけど、正面からは幾らなんでも無理がある。それもさっき知り合ったばかりの人が相手、確実にバレてしまう。


 近付いて来るとメイド同士お互いに軽くスカートを持って、マーガレットは持つような仕草ではあるが、お辞儀をする。


「……ん? ……あれ?」


 お辞儀を交わした後、怪訝な表情を浮かべたマーガレットが俺達に近付いて来た。


「なんでしょう?」


 俺の様子から何となく雰囲気を感じ取ってくれたのか、レディが上品な笑顔を浮かべてマーガレットに問い掛ける。その姿は俺の知るレディではなかったが、この際そんな事は気にしちゃいられない。


「いやー……? 真ん中の子……何処かで見たことがあるような気がしてねー……?」


「気のせいじゃないか……ではないでしょうか?」


「あっ、別に無理して敬語使わなくっても良いよー。私はマーガレット=リタ=アルダートン。気軽にマーガレットって呼んでくれて構わないから」


「どうもどうもー。エヘヘ、ボクはレディ=ロッテンって言うんだ。レディって呼んでね!」


「うん、よろしくね。レディ」


 早々に仮面が剥がれて仲良くなり始めるメイドが二人。仲良くなるのは良い事だと思うけど、俺にとってはあまり良くない状況である。

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