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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag12―還御―(5)

 閉じた本を抱えるように古びた石壁に背を預けながら瞼を下ろして、わかりもしない事を考えていると、少しの間眠ってしまっていたらしい。


 次に目を開いた時、鉄の柵の向こう側には知り合いの顔が見えた。


「……あれ? どうしたんですかロイドさん」


「すまぬ、起こしてしまったか?」


「いえ、退屈過ぎて寝てしまっただけなので。それで、俺に何か用ですか?」


「ああ、主が言っていた本が見付からなくってな。それを謝ろうと思って来たのじゃが……既に持っているとはの……」


「すみません。友人が届けてくれたらしくって、それをレイが持ってきてくれたんです」


「そうか……」


「……調べますか? 学校で借りた本なんですけど」


「いや、生憎ワシはそういった事に詳しくなくっての。構わん」


 差し出した本をロイドさんは手を前に出して制止する。けれど、何だかロイドさんにしては少し歯切れの悪い口調だった上に、視線を行ったり来たりさせて落ち着きがない。


「変に気を使わなくても良いですよ? 言いたい事があるのなら言って下さい」


 ロイドさんは「そうか……」と呟くと、場所も気にせずに、牢屋の廊下に胡坐をかいた。


「主がシゲルの孫だということをナイトから聞いた。ワシが少々無理矢理に主の事を聞き出してしまったんじゃがのう」


「そりゃいきなり親戚だとか言われても不審に思いますよね」


 こうなる可能性はあるって予想もしていたし、どちらかと言えば今までよく持ったものだ。ロイドさんは申し訳なさそうにしているが、別に今更、特にこんな状況なので気にはならない。


「怒らないんじゃな、恩に着る」


「まあ、じいちゃんの知り合いですし……? じいちゃんの事が知りたいんですか?」


「いや、只単にワシが昔話をしたくなっただけなんじゃ」


 ああなるほど、だから座ったのか。繁じいちゃんも話し出すと結構長話な方だったし、覚悟しないといけないのかもしれない。


「……しかしこうしてみると、昔、シゲルと出会ったばかりの頃、こうして牢屋越しに会話したのを思い出すわい」


「確か繁じいちゃんが馬鹿な事してレジスタンスに捕まった時ですよね」


「おお! そうじゃ、聞いておったか! あの時のシゲルといったら捕まってるにも拘らずワシの事を罵りおっての。ワシも落ち着いて対応しようと心掛けておったのじゃが、何時しか口喧嘩に発展しておったわい」


「じいちゃんがご迷惑を……」


「いやいや、喧嘩を買ったのはワシじゃ。それでの、その内シゲルが主が今しているような枷ごと牢屋をぶっ壊しおって、それからはお互いに剣を持ってはいたが、お互いに殴り飛ばさんと気が済まんで、殴り合いの喧嘩じゃ」


 ケラケラとロイドさんは笑って、「まっ、ワシが勝ったんじゃがの」と言う。確か繁じいちゃんも同じ台詞を言っていたな……。


 話が進むと、何だかどっちも似た者同士だって事がわかった。別々の視点から話される昔話は、結局お互いがお互いに意地を張っていて、中々に殺伐とした背景ではあるけれど、何だか微笑ましいものだった。


 昔話が終わった頃には、何だか外が更に騒がしくなっていて、ロイドさんに訊ねたところ、街中が宴会場のようになっているらしく、この王宮内も、部外者は入れないものの、ここへ勤めている人達の為に外同様のような事が行われているそうだ。


 ロイドさんが「それではの」と満足そうな表情を浮かべて立ち去った後、外から聞こえる音は更に盛り上がってるようでようで、そのせいか、牢屋の雰囲気の暗さも少し薄まっているように感じた。


 楽しそうだな、なんてぼうっと考えていると、またしても廊下の向こう側から足音が聞こえた。誰だろうか。


 ほんの少しの間待っているとやって来たのはメイドさんだった。


 紛れもないメイドさん。白と黒のコントラストの素晴らしいメイドさん。可愛らしいメイドさん。


「……どちら様で?」


「え、ええ……あのっ……わわたわたくしは今日限定でここでお仕えさしてもらっているというかなんて言うか……そのっ……」


 見ず知らずの同年代の少女は見るからに俺を見て怯えている。フリフリの、十中八九王様の趣味であろうスカートの短めの裾を軽く揺らして。……今ばかりは王様に感謝しても良いのかもしれない。


 しどろもどろとしている目の前の少女は「あのっ……そのっ……」と言っている内に、何かを覚悟したのか、手に持ってきていたバスケットの中からお盆を取り出して、牢の下にある小さなスペースを通して突き出してきた。


 お盆の上では屋台で売っているような食欲をそそる色合い料理達が俺を誘惑してくる。……気のせいか量は多いが。


「ご飯持ってきてくれたの?」


 必死に頷く少女。


「だっ……だからっ……私を食べないでくださいっ! た、食べようとしたら殺しますからっ!」


「いや、食べないから」


 だから量が多いのか。この人は何か勘違いしているのだと思う。


「ひいっ! お願いします! 命だけはっ! 命だけはっ! さっ、最初は好きな人と決めているんですっ! そっ、そもそも! 私は女でふ……ですっ! ノーマルですからぁっ!」


「俺もノーマルだし、女じゃねぇよ!」


「えっ……えぇっ!?」


「何でそこで一番驚いてるんだよ!」


 狼狽える少女が落ち着くまで待って、誤解を解きがてら少し話をしてみると、どうやらこのマーガレット=リタ=アルダートンという少女は、ここハルバディリス王国の西の隣国、エレーナ共和国の都ネクトの魔導学院の一年生で、ギルドとか言う誰でも出来る便利屋さんみたいなのの依頼の一つでここに来たらしい。


 何でも、魔飽祭のこともあって、警備然りお手伝いさん然り人手が足りないとあったらしく、依頼内容の割に報酬とランクというやつが高かったことから受けて今に至るとの事だった。


 尚、本人もまさかこんな格好で、こんな所にご飯を持ってくるとは思わなかったらしく、こんな事になると知っているなら受けなかったと愚痴っている。


「……だからさ、私思うのよね。好きじゃないなら付き合うなって。その癖すぐに彼氏が作ってさ、馬鹿みたいに惚気て、そっから数日もしない内にグチグチ言って、最終的には『もう恋愛は懲り懲り!』って、本当にあなたそれ何回目よ、いい加減私も聞き飽きたっつの!」


「そりゃ大変だな。まあ、食えよ」


 愚痴の内容と態度が段々と変わって来たのは良い兆候と見れば良いのか悪い兆候と見れば良いのかはわからないが。

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