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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
168/179

Flag12―還御―(4)

「まあまあ、そう言っちゃって、ある程度は知っているんでしょ?」


「牢屋に入っていてそんな嬉しそうにしてる人、初めて見ましたよ……」


「いやー……ずっと暇だったから、人に会えたのが嬉しくってさ」


 呆れた笑みを浮かべても様になる。流石は王子様フェイス。そんな同年代の少年は、一度溜め息をつくと表情を引き締めた。


「ユーリ君から頼まれたんです。『僕の友人達が王宮に向かうだろうから、迎え入れてもらえないだろうか』って。誰が来るとは言われなかったけど、物凄く深刻そうな声だったので迎えに行く事にしたんです」


 ユーリ……レイと知り合いだったのか。別に友達がいたんだとか驚いたとかそんなじゃなくて……ちょっとは思ったけど、そもそもユーリも貴族ってやつだし、王族と交流があっても可笑しくはないんだけれど、あのユーリがわざわざ皇子に頼み事をするとは思えない。


 ユーリの様な人が、不躾と思われても仕方が無い頼み事をするって事は、それだけに本気だったって事だ。


「そこで、ルイスおねえ……ルイスさん達王都魔術学院の先生達四人と、ルーナさんと二人の御学友、確かコーチ=クロックさんとレディ=ロッテンさん……と名乗っていました。その三人の、七人に会いました」


「先生達も……? 何しに?」


「先生達は『殴り込みに来た』と言って追い返されてました」


 当たり前だろ。何なのあの人達。一緒に牢屋にブチ込まれに来たの?


「……先生達の事は気にしない事にするよ。それで、皆は……ルーナ達は何をしに?」


「ツカサ君を『取り返しに来た』と言っていました」


 ……何だよそれ。馬鹿じゃないのか。俺がここに居るのは、皆を傷付けてしまうかもしれないからなのに。そもそも、何で出会ってから三ヶ月も経っていないやつをそんなに気に掛けるんだよ。そんなやつの為なんかに、そこまでする必要なんてないだろ……。自分達が捕まる可能性だってあるのにさ。


「あ、あの、ツカサ君……?」


「えっ……あっ、ごめん、どうしたの?」


「気付いていないんですか? 泣いてますよ、今」


 レイに言われて左手で顔に触れてみると、確かに泣いていた。意識はしていなかったけど、頬に雫が伝っていた。どっちなんだろうか。迷ったけれど……多分、これは嬉しいからなんだ。


 あまり恥ずかしいところを人様には見せられないと、俺は袖で顔を荒っぽく拭ってレイに笑って見せる。


 それをレイは推し量って気遣ってくれたのか、本当はまだ酷い顔をしていたのだろうけど、何事もないように笑い返してくれた。


「それで、このような所に皇子様が直々に来られた理由をお教え下さいませんか?」


「皇子様はやめてくれませんか……? さっきも言いましたけど、七人が王宮へ来たのは良いのですが、今日は魔飽祭で騎士団の方達の殆どが出払ってしまっていて、警備が少々手薄になってしまうので入れる事が出来ないんです」


「……ごめん、ちょっと話が逸れるけど良いか? 警備が手薄でここに部外者を入れられないのはわかるけど、何で俺をここに収容したんだ? 自分で言うのもあれだけど、ここは危険な存在しか収容しないところなんだろ?」


「だからこそです。最悪の事態に陥った時、我々王族が責任を持って対応する為です。お忘れですか? 僕達はこれでも英雄の血筋ですよ」


 それなら、少し安心した。最悪の事態の際、皆を傷付けなくって済む。レイ達を傷付けてしまうかもしれないのは気掛かりだけど、それでも、傷付ける人が少なく済むのは良い。


「そっか、失礼な事を言って悪かった」


「いえ、お気になさらず。それで、僕がここに来たのは届ける物があったからです」


 そう言って鉄の柵越しに手渡されたのは栞の挟まれた一冊の……いや、二冊の本。


 長い月日をかけて、表と裏の表紙がくっついてしまっている本。少し前に、生徒会長に無理矢理渡された本。病室に忘れていった本。


 けれど、挟まっている綺麗な花のイラスト描かれた木の栞に見覚えが無かった。


 栞の挟まれたページを開いて、栞を確認してみる。



『待ってて』



 元々何も書いていなかったであろう栞の裏には、綺麗な文字でそう書かれていた。


「ありがとう、レイ」


「いえ、退屈ですもんね。……もう少し話をしていたいのですが、あまり遅いと心配されてしまいますから、ここら辺で。僕も早く出してもらえるように交渉してみますので、またお会いましょう」


 レイはそう言い、お互いに挨拶の言葉を交わすと、ゆっくりと、あまり足音は立てずに牢屋から出ていった。射し込んで来る陽射しはいつしかなくなっていた。


 本当にお人好しばっかりだ。


 けどさ、レイ。お前は嘘をつくのが下手だ。早く出して貰えるなら退屈な筈が無いし、そんな交渉で出して貰えるならこんな所に入れられる筈なんてないんだから。


 きっとレイは交渉はするだろう。してくれるだろう。けど、やっぱり内心じゃ無理だと、聡いからこそ理解している。


 隙間から、薄っすらと聞こえるようになった賑わいを背景に、いつか返しに行かないといけない本のページを捲った。


 物語だった。昔からある話にしては少し悲しい話。大切な人の死と向き合う話だった。


 もう一つの方の本のページも捲った。タイトルは『世界を繋ぐ方法』。ずっと、読む機会がなくって、未だに目を通していなかった方の本。読もうとする度に、來依菜の事を悪い方向に考えてしまって一向に読めなかったけど、來依菜が生きていたから、今は邪推は出てこない。


『世界同士を繋ぐゲートはエーテル粒子を圧縮することで作り出す事が出来るが、長くは持たない。長持ちさせるにはエーテル粒子を供給し続ける必要がある。更にそれを固定化となると、固定化するまでに膨大な量のエーテル粒子が必要となる。では、それを魔飽の日に行えば良いのではないだろうか? そんな風に思えるが、只の魔飽の日でゲートが固定化出来るのなら、もうとっくの昔に世界は繋がっている筈だ。ではどうするか。存在魔力の濃度は一年という周期で小刻みに変化があるが、六十年で大きく変化する周期もあることが判明した。僕が神隠しに遭った理由もこのせいだろう。そして、その六十年に一度の魔飽の日に、魔力濃度の高い、リアトラの森のような地で更にエーテル粒子を圧縮してゲートの維持し続けられれば、ゲートの固定化が完了する筈だ』


 目を通しても、あまり何を書いているのかはよくわからなかったので、適当にパラパラと捲っていったら、最後の方、そう記されていたのを見付けた。


 ……魔飽の日か。何ともタイムリーな話題だ。もっとも、俺はそのお祭りには行けそうには無いのだけれど。


 そういや、第四次帝締戦って六十年前だったっけ? となると今日がその日だったりするのだろうか。


 そもそも、世界を繋げてどうするつもりなんだろう……?

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