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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag11―玄色―(12)

 少し呑気過ぎたかなと、反省しながら話を戻しました。……この時点で、コーチさんを振り回しているという、更に反省すべき事が増えてしまっているのは……今は後回しにしちゃいましょう。


「先程、コーチさんの我が儘、なんて言いましたが、どう見たって全て私の我が儘じゃないですか」


「けど、最初に言い出したのは――」


「私の方が後に無理を言って、それが通ってしまっているんですよ? 確かにコーチさんは最初に言いましたけど、便乗して、更に自分勝手な振る舞いをしたのは私です」


 そう言うと、コーチさんは口を閉ざしてしまいます。きっと、何がなんでも責任を被るための言葉でも探しているのでしょう。


「コーチさん、覚えていますか?」


 しかし、私はそれを許しません。ここまで来てしまったのだから、もういっそ、今の間は我が儘を通してしまおう。そんな風に開き直ると、何だか少し気分が良くなってきました。……いやいや、駄目です。この思考は少し危ないです。……自制しましょう。


「学院に入学した時……私とコーチさんは高等部からでしたよね?」


 何はともあれ、何の脈絡もない私の話は続きます。……私が続けているとも言いますね。ですが、それでもコーチさんは少し戸惑いながらも、やはり丁寧に相槌を打ってくれています。


「まあ、高等部からの入学者自体は少なくはなかったんですけど、私は入学当初、今では仲の良いクラスメイトの皆さんの誰にも話し掛ける事が出来ずに孤立していました。そんな中、コーチさんは私に話し掛けてきてくださいましたね。その時にレディちゃんも紹介してくれて、今ではそんな事があったなんて考えられない位に賑やかになりました」


 学院に通い始めて一年ほど、色々な事がありました。特に司さんがやってきてからの約三ヶ月はその中でもかなり内容の濃い日々だったように思えます。


 ですが、過ぎ去ってしまうとこんなものかと、まるで第三者のように、体験したのは自分なのに他人事のように、どこか空想的な小説を読んでいる時みたく、とても遠い日々での出来事に思えてなりません。


 案外、一年なんて早いのかもしれませんね。


 もし、大切な誰かと別れなければならない日が来たとしたら、その人との思い出も……手の届かない遠いものに思うのでしょうか?


 その時、私は……何を思うんでしょうか?


「ねぇ、コーチさん。私、まだ言ってない事がたくさんあると言いましたよね?」


「そりゃあ、誰にだって秘密はあるもんじゃねぇの? まっ、言いたいなら別だけどよ。……言いたいの?」


「言いたいです。大切な事ですから」


「大切な事かー…………ま、まさか俺の事が……!」


「ははっ、それはないですね」


「ですよねー」


「ですが、私にとって大切な人達の一人です。だからこそ、言っておかなくっちゃならない事もあります」


「今言うの?」


「言いたい所ですが、どうやら時間みたいです。司さんが今溜めてる魔力を放ったら行きましょう」


「うわー……この状態で更に魔力溜めるとか……結界割ったは良いけど、その頃には校舎も寮も全部吹っ飛ばされて宿無しとか……ならねぇよな……?」


「否定出来るだけの自信は既にありません……」


 話を中断し、私達は二人してため息混じりの言葉を吐き出します――が、それ以上は吐き出しません。死ぬかもしれない、なんて弱音は以ての外です。元々死ぬ気なんて更々ありません、あるのは帰る気のみですから。


 暗澹とした魔力に包まれて、禍々しい竜人のような姿をした司さんは、左腕を大きく振り被ります。


「あっ、コーチさん」


「ん?」


「もしもの時は対応お願いしますね。私――止まらなくなってしまうかもしれませんから」


 合図です。司さんは腕を振り下ろしました。


「えっ!? ちょっ!」


 走り出して、私が言って、魔力が放たれて。


 コーチさんは私に深く問う事は出来ません。このタイミングで言ったのは、ちょっとした悪戯心もありますが、これも言っておかなくっちゃならない大切な事の一つでしたから、時間が足りなかったと言い訳しておきましょう。


 魔力を放った側と、それを防いだ側、当然のように両者には硬直が生まれます。


 何の言葉も交わしていないのに、自然と私とコーチさんはそれぞれの分担のように動きました。


「〝リット・プリズン〟!」


 コーチさんは橙色の髪をした男性達を光の牢獄へと閉じ込めて。


「司さん!」


 私は司さんに呼び掛けます。


 ……ですが。


『ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 私の声は、司さんには届いていませんでした。


 私の声には聞く耳なんて持たず、司さんは私の目の前から消え去ります。


 その上、私の事は眼中にないのか、司さんは一瞥もせずに駆けて行き、勢いそのまま、黒い刃を橙色の髪をした男性達に向けて振り下ろしました。


 しかし、橙色の髪をした男性達の周囲には、コーチさんの作り出した光の牢獄が広がっています。その強度は中々で、橙色の髪をした男性達も、いきなり現れた光の牢獄を、司さんが襲い掛かるよりも先に壊す事が出来なかった程です。


「マジ……かよ……」


 ですが、それさえも、今の司さんにとっては有って無かった様なものだったのかもしれません。


 光の牢獄は脆く崩れ去り、コーチさんの呟いた言葉と共に混濁に呑まれていきます。


「チッ……どいつもこいつも邪魔くせぇンだよ……」


 とは言え、橙色の髪をした男性達は無傷だったようですが……。一体どれだけ頑丈なのでしょうか?


 それに加えて、橙色の髪をした男性は愚痴を溢しただけで、私達に見向きもしませんでした。流石にこれは心外ですね。……ですが、このままでは私達が居ても居なくても変わらないのも、また事実です。


 私はコーチさんに目を向けました。すると案の定、コーチさんは何処と無く歯痒そうな表情を浮かべています。


「コーチさん、遠慮する必要はありません。思い切りやっちゃいましょう」


 私がそう言うと、コーチさんは少し間を空けた後、「わかった」とだけ言いました。……果たして本当にわかっているのでしょうか? まあ、遠慮しているのは私も同じなので、人には言えた立場ではないのですけど……。


 すみません、と、効果があるかはわからないですが、内心でコーチさんに謝罪を送って、司さんが魔力を放とうとする素振りを見せた時、コーチさんと同じタイミングに合わせて、私も再び走り出した――つもりだったのですが。


「速っ……」


 光の鎧を纏ったコーチさんに、私は当初の予想も、目も、足も、全てにおいて置いて行かれてしまっていました。


 コーチさんに合わせようとした私が多少出遅れてしまうのは当たり前なのですが、それでも精々一歩分……そんな風に思っていた自分が浅はか過ぎて嫌になります。


 ……そもそも、動きを合わせる、なんて随分と偉そうな物言いでした。私は初動さえも見る事が出来なかったのに。これが光属性が得意な方の本気なのでしょうか? 敬服や羨望、嫉妬、とにかく複雑な気分です。

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