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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag11―玄色―(10)

 そうなると、ユーリさんが精神系の魔法や魔導人形を使わないのが少し疑問に思えてしまいますが、それは幼い頃に亡くなったユーリさんの母君がカリエールの血筋だったからなのでしょう。


「そこへスチュアートの魔術……いや、この場合は魔術や魔法とか、魔導に関しての知識か?」


「ああ、大方はそんな感じで間違いないよ。それで、あの魔導人形は八年前にスチュアートの研究施設にあったものだと思う」


「なるほどねぇ。確かにその二つの家だったら出来そうな話ではあるね。けどさ、ユーリ君はあの魔導人形がカリエールが関わったものだからって、何がしたいの?」


 レディちゃんから投げ掛けられた、無邪気そうな表情とは裏腹に切れ味の鋭い言葉に、ユーリさんはばつが悪そうに目を伏せます。


「それに、今はツカサ君をどうするか考えた方が良くない?」


 そんなユーリさんを優しくフォローするように言葉を続けたレディちゃんは微笑んで、司さん達の方を見遣りました。


 するとそこでは、睨み合っていた両者が丁度動き出した所だったのですが――


『ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 ――その規模は、私の想像を優に越えていました。


 信じたくはありませんが……いや、未だに信じられませんが、竜人のような姿をした司さんは咆哮をあげると共に、左腕を横に振ります。


 するとそこから、ここへ向かう前に見た魔力と同様のものが、放たれました。


 対して、橙色の髪をした傷だらけの男性と青年の見た目の魔導人形は動きませんが、二人とも同様に、腕を前に突き出します。


 そこへ、気味が悪い雰囲気を漂わせている真っ黒な魔力は襲い掛かり、とてつもない轟音を響かせましたが、二人が傷を負った様子は見受けられません。


 一体何をしたのか私には見ることが出来ませんでしたが、ユーリさんから聞いた話を踏まえると想像はつきます。


 左腕を振り抜いた体勢の司さんに向けて、黒い靄の様なもので身を守ったであろう魔導人形が手を突き出すと、司さんの回りに、同様のものと思われる靄が現れ、真っ黒な魔力に包まれた体に纏わりつきました。


 司さんは体勢を整えようとしますが、その靄のせいで叶いません。


 そこへ凄まじい速度で近付いた橙色の髪をした男性は、司さんの腹部へ拳を叩き込みます。しかし、只殴ったにしては、異様に鈍く大きな音が聞こえてきました。


 思わず目を伏せ、耳を塞ぎたくなる光景ではありましたが、司さんには効いていないのか、怯んだ素振りも見せず、靄を無理矢理振り払い、橙色の髪をした男性に鋭利な左腕を振り下ろします。


 勿論、橙色の髪をした男性は身を引いて避けようとしますが腕を伸ばした状態からでは間に合いません。


 しかし、男性は落ち着いていました。その事に私が違和感を覚えたとほぼ同じ瞬間に、司さんの回りに黒い靄が再び出現し、纏わりつき、司さんの動きを鈍らせます。


 完全に動きを制した、というわけではありませんでしたが、橙色の髪をした男性が司さんから離れるだけの余裕は十分にありました。


 ですが、振り下ろした形で空振りした司さんは直ぐに斬り上げを繰り出します。振り下ろした時と違って、今回は膨大な量の魔力が刃から放たれました。


「ねぇ、妙じゃないかな……」


 レディちゃんがふと、疑問を口にします。たった一言、それだけの言葉ではありましたが、この場に居る皆、レディちゃんの言わんとした事はわかりました。


 最初、私の気のせいだと思っていましたが、やっぱり……


「司さんの魔力の量が、増えていますね……」


 どこから溢れ出しているのか、何故こんな事になっているのかはわかりませんが、このままでは司さんの体が危ない、それだけは言えます。


 本来、人がその身に秘める魔力――体内魔力というものは、この世界に空気のように広がっている存在魔力を少しずつ、ゆっくりと人それぞれの体に合った形のものへと吸収、変換され、その身に宿っていくいくものです。


 人によって魔力の形は違い、同じものは無いとされており、また、他人の魔力は体に合わないため、他人に魔力を体に注がれようものなら、場合によっては死に至る……即ち、魔力は使い方によっては奇跡を現実にする事が可能ではありますが、同時に毒でもあるのです。


 毒であるのは既に誰かの身に合った形に変換されたものでも、変換されていないものでも変わりません。違いはそこから自分の身に合った形に変換しやすいかどうかであり、誰かの身に合った形の魔力の方が変換しにくいから毒になりやすい、なんて事はこの際は関係ありません。


 とは言え、一旦魔力というものを知覚してしまえば、他人から送り込まれた魔力は反射的に弾いてしまいますので、余程濃度が高い魔力でない限り、他人から送り込まれた魔力による害はなく、また、存在魔力を体内魔力に変換するのも無意識で行われるものなので、魔力が毒になる危険性は殆どありません。


 しかし、例外もあります。


 それは魔導具や契約武器、魔術等、何等かの手段により、無理矢理にでも体に魔力を通した場合です。


 魔力量というものは、個人差はあれど、どんなに魔力の多い人であっても限界は存在します。


 それ故に魔法や魔術を発動した時に現れる魔法陣が多様化しました。


 原初の魔法が生まれた時、初めて魔法陣という存在を人は知ったと言われています。


 当初は魔法を使うと現れるよくわからないもの、という認識だったのでしょうが、時が流れるに連れて、それはふとしたきっかけだったのかもしれません。魔法陣には意味があるという事を、人はある時気付きました。


 それと同時に、魔法を使う時に、体内魔力を呼び水のように扱う事で存在魔力を使い、消費する魔力を抑えるという方法も発見されました。


 ……しかし、この方法でも魔力が底をつく事には変わりありません。


 そこで研究されたのが、何等かの方法によって魔力を吸収するスピードを上げられないか、という事なのですが、結果としては不可能でした。契約武器ならいざ知らず、同じ性能の魔導具を作ることは叶いませんでした。


 ですが、その代わり“無理矢理”人の身に魔力を通す事は可能でした。


 魔力を高濃度に圧縮して、人にぶつける。只、それだけです。


 しかし、それでは毒でした。いえ、それだけではありません。例え、魔力を変換する速度を上げる契約武器が存在しようとも、毒には変わりありません。


 何故なら変換する速度を上げたとしても、変換し、吸収するわけではなく、吸収し、変換しているからです。


 例え変換する速度が上がったとしても、体に入った時点では、魔力は毒のまま。毒を受け入れ、無効化する。そのサイクルを早めるという事は、毒を受け入れた時に生じる負荷を、癒える間も与えず蓄積させる、という事でもあります。


「つまり要は、あの暴れている馬鹿をとっとと止めて、襲撃してきた奴等をとっちめりゃ良いんだろ?」


 溜め息を吐いて、コーチさんは呟きました。

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