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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
153/179

Flag11―玄色―(9)

 その際、広げた腕のその先、黒い刃がさっきまでよりも太く見えたが、僕の見間違いではなかったようだ。


 目を凝らすよりも先に、黒い刃は更に太さを増す。そこにはさっきまでとは比にならない程、魔力が集まっていた。


 その膨大な魔力の量を見て、フードを被った男はここに来て漸く反応を示し、黒い靄のようなものを発生させると自身を包み込む。


 と、同時に橙色の髪の男の前に同様の黒い靄のようなものが現れた。


 すると、今さっき消えたフードを被った男が、橙色の髪の男前に現れた黒い靄のようなものから姿を見せた。


 そして橙色の髪の男を庇うように立つフードを被った男は、直ぐ様、瞬間移動してきた時と同じ黒い靄のようなものを今度は大量に、前方に発生させる。


 その瞬間、ツカサ君は魔力を集めた刃を横に一閃。


 黒い魔力と靄のようなものは大きく音をあげ、周囲を巻き込みながらぶつかり、爆風を伴う衝撃を作り出した。


 橙色の髪の男とフードを被った男の姿は、舞い上がった砂埃のせいで視界が不明瞭になってしまったため、直ぐには確認することが出来ない。


 けれども、ツカサ君が再び腕を横に広げて、魔力を溜めるような素振りを見せたという事は、最低でも生きているという事なのだろう。


 殺伐とした静けさが広がる中、緩徐な動きを見せているツカサ君の見遣る先で、襲撃者二人は姿を見せた。


 橙色の髪の男は相変わらず酷い傷を負っているように見えるがしっかりとした足取りで、特に痛手となるような被害を受けた様子はない。


 しかしもう一人、フードの男のフードはぼろぼろの布切れに成り果てており、隠されていたほっそりとした体型と、どこかスチュアートを彷彿とさせる黒い髪と黒い瞳をした顔が露になっていた。


 けれども、それよりも僕の目を引いたのが、砂で少し汚れてしまっている彼の頬。別に多少砂が付着している位ならば、大して気に留める事ではないのだが、違った。


 彼の左目の下には、大きなひび割れのようなものがあった。


 そのひび割れが今出来たものなのか、はたまた以前からあったものなのかはわからないが、少しだけ、納得が出来た。


 だが、僕の納得は少しだけ。予想の域からは出ていない。


 僅かな魔力を地属性のものへと変換し、傷の酷いところへ纏わせて無理矢理立ち上がろうとするが、二本の足だけで支えようとすると大きく尻餅をついてしまう。


 目を凝らして確かめたい事があるのに、歯痒い。今を逃すと、彼らを犇と見れる機会はないのに。


「ほら、立てるか?」


 だけどそんな時、少し荒い息が混じった言葉と共に、傷痕と肉刺だらけの手が後ろから差し出された。


「ありがとう、大丈夫……だよ。まさか君に助けて貰えるとはね……」


「はぁ……立っていられなさそうだから言ってんだよ。それに、これは貸しだ」


「そっちの方が気が楽だよ、コーチ君」


 まるで救世主のようなタイミングで現れた彼は、呆れた表情から更に頬を緩めて、ほんの少しだけ微笑むけれど、それも一瞬、直ぐに険しい顔へと変わる。


「それで、これはどんな状況だ」


 遠くで睨み合っている両者を、僕の視界の端で一瞥したコーチ君は、そう問い掛けてきた。


 確認したい事を終え、膝から崩れ落ちながら振り向いた僕は、そこで漸くこの場へやってきたのはコーチ君だけではないと気付く。


「……なんだ、結局全員来ているじゃないか」


「アハハ、皆優しいからねぇ」


「素直じゃない方も多いですけどね」


「……何で俺を見るんだよ……」


 僕の溢した呟きに、彼ら彼女らは、らしい言葉を返してきた。そんな様子を見ていると、こんな時でも少し羨ましく感じる。


「すまない、話を戻そう……と、言いたい所なんだけど、倒れているヴァルを運んで来てくれないか?」


 今、規模の大きい戦いを繰り広げていた両者は、相手の出方を見ているのだろう、睨み合って動かない。肌を刺すような緊張感が、僕らにも漂っては来ているが、運が良いことに僕らは蚊帳の外。本来、こんな状況であまり会話をするべきでもないのだろうが、戦闘を再開するよりも先にヴァルを端の方へ避難させないと、いつ巻き込まれてしまうかわからない。


「酷い状態ですね……」


 コーチ君がヴァルを運び、ゆっくりと下ろしたところで、ヴァルの傷を見たルーナさんは苦々しい表情で呟きながら両手をヴァルへと向け、ある魔法を発動した。


「ルーナさん……回復魔法を使えたのか……」


「ええ、お母さんが保健医をしていて、小さい頃に少し教えてもらった事があります。とは言え、難しいものは使えませんし、回復魔法を使ったからといって無くなった血が戻るわけでもありませんから……」


 回復魔法は難易度も高い故に、専門の人以外が覚えている事は滅多にない。しかしそれを『小さい頃に少し』で使えるというのは、普段謙遜している彼女が優秀であるという証であろう。


「……一応、目に見える傷はある程度塞ぎましたが……ごめんなさい、私の使える回復魔法で出来るのはここまでです……」


 悔しげにそう言ったルーナさんは、雨粒の降り注ぐ、割れた結界の天井部分を見上げる。


「じゃあ、一刻も早く、こっから脱出しねぇとな。……んでユーリ、この状況は一体なんだ? 何かあんま言いたくないみてぇだけど、話も進まねぇし、聞かせてもらうぞ」


 後半部分は僕だけに聞こえるように声を潜めて、コーチ君は僕に問い掛けた。気付かれているとは……意外と鋭い……。


 けど、コーチ君の言う通り、黙っていてもしょうがないし、ヴァルのためにも、ゆっくりなんてしていられない。


「そう……だね。皆、良いかい?」





   ‡  ‡  ‡





「あれが……司……さん……?」


 私とレディちゃんは、校門から野外演習場に向かっている道中、黒い人影のようなもののせいで進めなくなっていたコーチさんと合流し、同じく足止めを食らってしまったのですが、少し戦っていると人影のようなものが現れなったので、無事、野外演習場に辿り着く事が出来ました。


 しかし、演習場に着くと、ヴァルさんが瀕死の状態で回復魔法をかけたものの、危険な状態には変わりありません。その上、そんな切羽詰まった状況でユーリさんから聞いた話は、どう誇張しようとて、良い顔が出来るものではありませんでした。


「……うん。それともう一つ、良いかい?」


 私の言葉に苦い顔で返したユーリさんは、そう問い掛けてきます。どうしても気持ちが逸ってしまいそうになりますが、黙って私達三人は首肯しました。


「君達を傷付けたあの頬にひび割れがある黒髪の青年は、恐らく傀儡……もっと言うと、自立型の魔導人形だ」


「魔導人形? 魔導人形ってあんな魔法みたいなの使えるの? それに自立型って……」


「いや、レディさんの言う通り、本来は使えないし、今まで自立型の魔導人形が開発された、なんて話は聞いたことがないと思う。だけど八年前、僕の母上とスチュアート家が何の開発をしていたと思う?」


「……そう言えば、ユーリさんの家は魔導人形や精神系の魔法の研究を進めていたと聞いた事がありますね」

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