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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
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Flag10―趨勢―(6)

 俺は握っていた《暦巡》を消し、一度深呼吸をする。


 俺を囲む様に立っている人形が一体、俺に刃を振りかざしてきたが、動いたのは俺の方が早かった。


 逃げようともしない人形の腹にさっきのお返しとばかりに殴打を繰り出す。突き出した右手には水の属性強化を施して。


 結果、俺の拳は人形の腹にめり込み、硬質なその体に皹が入り、崩れ落ちていった。


 案外脆く、思いの外呆気ない。けれどそれに越したことはない。


 俺は続いて襲い掛かってくる人形の刃を避け今度は一蹴。二体目が崩れ落ちる。見たところ残り十一体。


 次に来たのは二体同時であったが、動きが単調なため、読みやすい。一方の攻撃をしゃがんで避け、そこから相手の足を掬うように水の属性強化を施した蹴りを入れ、足を砕く。


 その後、もう一方が刃を振り下ろして来たが、直ぐ様懐に飛び込み勢いのまま腹部を殴った。三体目。


 吹き飛び、バラバラになったのを確認した俺は、足を砕いた事で地面に横たわり、立ち上がろうとしていた人形に止めを刺した。四体目。


 五体目を倒しながら、俺の頭に思い浮かぶのは青髪の男。皮肉な事に状況を打破出来たのはあの何を考えているのか理解し難い男のお陰だ。


 魔法や、俺は使ったことはないが魔術は、己のイメージが重要とされている。それは魔力付加や属性強化も例外ではない。


 今思い返すと、あのショウシと名乗った男の属性強化はかなりのものだった。


 俺ではまだそれに遠く及ばないが、ある程度俺が魔法や属性強化を理解した時、本物の水の属性強化を見たのはあの時だけだったのだとも理解した。


 その時から俺は不本意であるが、水の属性強化はショウシものを参考にすることにし、その結果、今のように魔力付加と攻撃時にだけ部分的に属性強化を施すだけで人形を砕けている。


 きっとあの体験が無ければ俺の水の属性強化はもっと柔で、《暦巡》の能力を出し惜しんでなんていられなかったり、出し惜しんで現在も危機的状況ないし、その挙げ句既に死んでいたのかもしれない。


 八体目の人形を倒した時、それまでに考えていた事もあってか、ふと気付く。この黒い何かが集まって形成された人形は誰が作り出しているのか。


 俺はこの黒い何かに見覚えがあった。


 それはショウシと初めて会った時と同じ時。学園長の召喚した芋虫のようなものを退けたあの黒い靄のようなもの。これはきっとあれと同じものだ。


 つい二ヶ月ほど前の事であるが濃い日々が続いていたせいですっかり記憶の底に埋もれてしまっていた。


 何故、こんなことをするのか。


 俺が出会ったのは二回だけではあるが、聞いた話によるとこの国の各地で現れては大したことは行わずに嘲笑うように消えるらしい。《リアトラの影》なんてふざけた名前を名乗って、何がしたいのか今一読めず、殺人も殆ど行わない。いや、むしろ出来るだけ避けている様にも見える節があるとも聞いた。


 なのにどうして今更こんなことをする? この惨殺に意味があると言うのだろうか? 人を大量に殺す必要があるならわざわざ学院を狙う必要なんてないのに。


 そんなことを考えたって、俺には到底答えに行き着く事が出来ないなのだろう。けれど、きっとこの先にはあいつらが居る。


 何を考えているのかが気なるというのは単なる好奇心だと言われるかもしれないけど、この沸き上がる感情は好奇心って言葉だけじゃ済ませそうにはない。


 どうして俺がそんなことをするのかと、図々しいと言われるかもしれないけど、俺だってここに愛着が生まれてしまったのだから、仕方ないではないか。


「らぁっ!」


 十一体目を倒して、残りの一体を目標に見定める。


 距離を詰め、依然として単調な人形の動き見切って、水の鎧を纏った拳を突き出した。


 今ではどうしてこんなのにてこずっていたのかと思える位に容易く崩れ落ちる人影の最期は見届ける時間も惜しい俺は、次へ行こうと足を進め始める。


 ……が、誠に不本意ながらも直ぐに足を止める事となった。


 校舎の中にいた人影を集めてきたのだろうか、景色が真っ黒に見える。どうやらこいつらは、まだ俺を先に行かしてはくれないらしい。


「ははっ……」


 最初に来た時よりも多い、犇めき蠢くそれらを見ていると、焦りによる苛立ちよりも、呆れによる笑いの方が先に来た。


 これ操ってる奴絶対性格悪いだろ……。


 後ろにも目を向けると前方と同様な景色。元々控えていたとは考えにくい事を考えると、集めてきたのだろう。


 となると俺が脅威と判断されたのか。それとも校舎の中に居た人達は皆もう……?


 いやいやそりゃないだろう、と後者を自分の中で否定し、思い違いであることを願う。けれども前者は前者で非常に複雑な気分になってしまうというのは不謹慎ながらも否めない。


 どちらかが良かった。ではなく、どらでもなかった、というのが良いのだが、真相はわからない。まあ、そもそもこの状況で真相を知りたいと他力本願に願っても意味なんてないのだけれど。


 只、目的地へと向かう理由が増えるだけである。


「〝ディレクト・ウォート〟」


 真っ直ぐ進む水属性の魔力を黒く蠢く集団に放つ。


 この状況では一体ずつ相手をする方が効率が悪いので魔法を使うことになってしまったが仕方ない。


 上級魔法一発で粗方片付けられるのなら安いものだ。


 ……と思っていたのだが。


「あれー……?」


 生憎、残念ながらそうはいかなかった。


 放った魔法は今までと同様に黒い人形を蹴散らしてくれるものだと思っていたが、防がれた。それも完璧に。


 それは〝ディレクト・ウォート〟が相手に着弾する直前。大量に並んでいる人形の最前列の奴らの体が揺らぎ元の靄に戻ったかと思うと、それらは直ぐ様形を変えて真っ黒な壁になってしまった。


 すると、どういう訳か、倒す事はおろか傷一つ付きやしない。


 属性の問題なのだろうか? そう思った俺は、今度は二階で三人組を襲っていた奴を倒した時のように〝ディレクト・ブライズ〟を放ってみたのだが、無残にも〝ディレクト・ウォート〟同様に防がれてしまった。


 何故? さっきまでとは何が違う? 考えても何もわからない俺の頭は、上級で駄目なら最上級や混合魔法ならどうかと提案してくるが、持って行かれる魔力の量を考えると、それは承認し難い。


 コーチの言っていた事を聞いていれば、なんて甘ったれた逃避染みた言い訳が頭を過る。


 しっかりしろ、俺。


 相手が自分より強いのはいつもの事ではないかと己を鼓舞し、今回はいつもと違い、命というものが天秤に掛かっている事を踏まえて考える。


 窓から逃げるという選択肢は? ……逃げ切れれば良いが、狭い為に一度に相手をする量が制限されているこことは違って、追い付かれるときっと今以上に不利になる。


 なら、ここで戦うべきなのかと疑問を呈してみるが、もしかすると、これを操作している奴を叩かない限りこいつらはどんどん沸いてくるのではいかという不安が、どうしても選択肢を狭めてしまう。

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