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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
134/179

Flag9―影―(15)

 しかし、予想が出来ないのは俺であって、学園長の事を知っているであろうノスリとは話が別だ。


 それにお互いを知っている人なら、英雄の血族同士なら、それも親しい間柄であろうノスリなら、学園長への何らかの対抗策を知っているもしれない。


「……多分無理。ルイスは一対多の戦闘に長けているから、真っ直ぐ行ってツカサが逃げ切るのは厳しい」


「何とかならないか?」


「ツカサが居なかったら……私とコーチだけだったなら逃げ切れた筈……と言うか、私だけなら余裕……」


 足手纏いだったと言う知りたくなかった事実!


 そしてやっぱりノスリに悪気が無い分、心に突き刺さる!


「けど、それって〝転移トランスファー〟を使ってだろ?」


 俺がそう問いかけるとノスリは首を横に振る。


「〝転移トランスファー〟を使えば三人共逃げられる……」


「あっ、やっぱ〝転移トランスファー〟を使う気は無いんだ……」


「勿論……」


 ノスリは微かにわかるしたり顔で頷き、そう言う。一体何をしたいんだ? ……ああ、遊びの一環か。随分とハイレベルな御遊戯で……。


 自然と洩れた溜め息なんて気にも止めずに学園長の挙動を確認する。


 堂々と仁王立ちをしながら腕を組み、その綺麗な造形の顔に笑みを浮かべている学園長からは、変身しても良いんだぞ? むしろ変身しろ! といった思いがひしひしと伝わってくる。学園長もハイレベルな御遊戯ですか……。出来れば二人だけでやって欲しいんですけど……。


 どうにか学園長から逃げられないかと考えていると、予想外の人物が口を開いた。


「じゃあ、俺が学園長の相手をしてやるよ」


「コーチ本気か……?」


 俺の問い掛けに、コーチは白銀の槍を召喚する事で答える。何だこれ……コーチの癖に格好いい。


「……サンキュ」


「礼は要らねぇよ。それよりツカサ」


 俺達より数歩前に出て、学園長と対面しているコーチは、俺達の方に顔は向けずにそう言う。


「何だ?」


「戦闘中にうっかりってのは仕方無いよな……? うへへ」


「知るか」


 ああ、こいつ馬鹿だった。さっき少しでも格好いいとか思った自分を殴ってやりたい。


 例えコーチであっても、置いて行くのは申し訳無いなんて考えていたけれどそんな事を考える必要なんて無かった事を実感。よし、さっさと逃げてしまおう。


「待ちなさい!」


 俺はコーチなんて早々に無視して学園長に目を遣り、動き出せそうなタイミングを見計らっていたが、突如聞こえてきたその声のせいでタイミングを外してしまう。


 しかし、悪い事ばかりでも無いようで。学園長はその声が聞こえてくると珍しく頭を抱え嘆息した。


 学園長含め、俺達の視線の先には煙を上げながら植え込みの中に姿を消した筈のレイラ女史。学園長に一発KOされたものと思っていたが、見た限りピンピンしている。


「大丈夫だったんスねレイラ女史……」


 コーチからここに居る人達のほぼ全員の気持ちを代弁しているであろう言葉が洩れる。


「当たり前じゃない。だってルイスの攻撃よ? 御褒美以外の何物でもないじゃない! あなたみたいな男にルイスの愛の鞭は絶対に渡さないわ! 絶対によ!」


 コーチの発言に反応したレイラ女史は恍惚とした表情でそんな事を語っているが、これでもこの人は教師である。もしかしたら反面教師とはこんな風にして生まれたかのもしれない。


 そんなくだらない考えに頭が持っていかれてしまっていたが直ぐに正気に戻った俺は、涎を垂らして更に語りだすレイラ女史に対して酷く表情を歪ませている学園長と、戦闘中にうっかりを狙ってか、不意討ちを敢行するコーチを尻目に、ノスリに声を掛けてこっそりこの場からの脱出を試みた。


 さっきまでピリピリとかビリビリ……いや、バリバリしていたカーミリアさんは何故か動かなかったので、その横を簡単に通り抜けられた。


 更に道中、楽しげに笑っていたレディとケトルが同情している様な表情をしていたのも引っ掛かったが、逃げ出せたのだから良いか、と楽観視して疑問を頭の片隅に追いやる。


 そうして俺達は誰にも追われる事なく脱出した。




「何処へ……行くんですか?」




 筈、だった……。


 そんな問いかけと共に、俺の足先の数ミリ先が爆発する。


「ルーナも……来る……?」


 震える声で、それを行った紅い髪色の少女に振り替えって問い掛けてみる。気のせいか彼女のダークレッドの瞳はいつもよりも深く、黒く見えた。


「ねぇ、司さん」


「は、はい……」


「今、何だか変な気分なんです」


「へ、へぇー……どんなの?」


「それがわからないんです。けど、司さんが居るとわかる気がするんです……」


 ルーナから発せられる謎のオーラに気圧され、少し後ずさってしまうが、その瞬間真横が爆発した。


「付き合って……くれますよね……?」


「ノスリぃぃいい!!」


 俺の中の危機回避能力が全力で警告を告げ、咄嗟にノスリに助けを乞う。女の子、それも年下に助けて貰う事の不格好さなんて関係無い。そんなくだらない男のプライドなんて今は捨てちまえ。


 ……しかし、当のノスリは返事をしない。当然である。ノスリは俺の近くには居らず、相変わらず同情の表現浮かべているレディやケトルの脇に隠れてこちらの様子を伺っていたのだから。


 あいつ俺を置いて逃げやがった!


 ノスリが居たことで何処か安心を感じていた俺は、何だか笑顔が怖いルーナさんと目が合っただけで変な汗が吹き出してきた。


「あの、ルーナさん……」


「何ですか?」


「俺は何に付き合えば良いのかなーって……」


「ふふっ、知りたい……ですか?」


「……いえ、やっぱ結構です……」


「…………」


「…………」


 そして緊張のせいか会話が途切れてしまい、特有の重圧と焦りと不安が俺を襲ってくる。


 どうしようもないとわかっていながらも、ついついこちらを傍観している人達に目を向けてしまうのは仕方の無い事だと思いたい。


 一歩。ルーナがこちらに歩みを進めた。


 割と本気で生命の危機を感じた時、それは起こった。


 結果的に述べるならば、俺は助かった。けれど、そんな風に表現するのは不謹慎過ぎて嫌悪感が生まれる。


 一歩。距離が詰められ、俺は助かりたいと向けていた眼差しの先に居たのはノスリ。



 倒れた。



 それはあまりにも唐突で、最初は何かの冗談かと思ったがレディとケトルの焦る表情でそれは違うのだと理解する。


 俺が駆け寄るとほぼ同じタイミングで、珍しく焦った表情の学園長やレイラ女史も傍にやって来た。


 注目を浴びていた学園長やレイラ女史が急激に血相を変えてノスリに駆け寄ったせいか、何事かと騒ぎが広がって行く。


 そんな中で、ノスリはあっという間に運ばれて行き、それまで一連の騒ぎなんて無かった程にうやむやになった。


 その間、俺は何も出来ず、目の前でノスリが運ばれて行く様を眺めている事しか出来なかった。

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