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TWINE TALE  作者: 緑茶猫
132/179

Flag9―影―(13)

 最初からこうすれば良かったと若干後悔しながら、俺はカーミリアさんから背を向け、逃亡を行おうとする。


「嘘……だろ……?」


 ……が、しかし、その先には何人もの女子生徒が立ち塞がっていた。


「アンタも馬鹿ね。アタシ……達が無策な訳が無いじゃない。こっちにはスチュアートが居るんだから」


 なるほど、カーミリアさんがゆっくり歩いていたのは既に俺達を包囲していたからだったのか……。


 それに、まさかあんなに口論をしていた学年の一位と二位が手を組むとは思わなかった。これも変態によって生み出された偶然の産物。本当に大変な事をしでかしてくれたな……。


「どうするコーチ?」


 こうなってしまえば、例えこの状況の元凶であったとしても、協力せざるを得ない。


「流石俺。スカート捲りから友情を生み出してしまうとは……罪な男だ……」


「真面目に答えろ」


「出来るだけ細い道があれば良かったんだが、生憎ここは一本道だ。戦力の薄そうな所を狙って強行突発位しか思い付かねぇ。ったく、誰だよ、こんな所で挟み撃ちを食らう事態に陥れたのは」


「お前だ」


「サーセン」


「はぁ……なら、いつ行く?」


「一番油断するタイミングだな」


「それじゃあ、諦めるふりでもしてカーミリアさんがある程度近付いて来た時に一気に逃げるか?」


「ああ、そうしよう」


 コーチと小声で打ち合わせをし、俺達は近付いて来るカーミリアさんに対して、出来るだけ観念している様な素振りをする。


「ふーん……アンタ達にしては潔いわね」


「流石にこれはコーチと俺だけじゃどうしようもないだろ……?」


「それもそうね。なら、何か言いたい事でもある? その潔さに免じて遺言位は許してあげるわ」


 遺言って……本当に遺言になりそうなんだけど……。大丈夫だよね? 突発出来るよ? 死なない……よね?


 作戦は立てたものの、不安になってきた……。


「ツカサ……」


 本当に遺言になりそうでもあったので、一応遺言らしい事を言おうとした時、さっきまで一緒に行動していて寝返った銀髪ツインテールが俺を呼んだ。……今更何なのだろうか?


「何だ? ノスリ」


「ツカサの願い叶える……」


「へっ?」


「〝ビロウ・ウィンダ〟」



「「「「「えっ?」」」」」



 俺が何の事かと問う暇もなくノスリは突然、地面に向かって風の中級魔法を放った。


 呆けた声を洩らしたのは、その場に居たほぼ全員。


 地面にぶつかった風は地を這い、天へと巻き上がる。


「何……だと……!?」


 隣のコーチは目を見開き、そう言葉を溢した。


 俺の目に映る光景は、突如の事にスカートを抑える暇もなく、下から吹く風にスカートが乗り、パンツを晒している状態の女子生徒達。それはルーナも例外でなく、話に聞く赤もバッチリと確認する事が出来た。


「……どう?」


 いつの間にか側まで来ていたノスリは、珍しく力強い声でそう問い掛けてきた。


「いや、どうじゃなく――」


 俺達の横を紫電の塊が通り、言葉は遮られる。……答えたり抗議をする暇も与えてくれないらしい。


「ノスリ……なんて事をしてくれたんだ……」


「さっきツカサは気になるって言っていた……」


 親指を立てるノスリ。……こいつコーチと距離を取っている割には似た様な事をするのな……。


「確かに気になるとは言ったけど――」


 再び俺達の横を掠める紫電。


「へぇ……余裕なのね……」


 カーミリアさん、とてもお怒りであります……。


「ノスリ、〝転移トランスファー〟をお願いします」


 命の危機を感じた俺は、ノスリに戦線離脱の願いを申し出る。


「……却下」


 願いは簡単に砕け散った……。


「いや、これ死ぬって! 俺もコーチも!」


「私は安全……だから大丈夫。それに、ツカサは死なないように努力する……」


 それは言い換えると生きていればどんな状態でも良いって事だろ……全く大丈夫ではないんですが……。


「コーチ逃げよう!」


「お、おう!」


 その瞬間、俺達の足下の地面が爆発した。


 それによって、整備されていた地面の爆発した中心部は熔け、その周囲は焦げて黒く変色してしまっている……。


「悪い子には……お仕置きが必要、ですよね?」


 真っ黒な笑顔のルーナ様降臨。


「「うわぁぁあああ!?」」


 無様にも悲鳴を上げてしまう男二人。


 誰でも良いから助けてください。


「いやぁ、絶景かな絶景かな。とても良い仕事をするじゃないノスリ。見直したわ」


 とにかく叫んで、何かもうやけくそで、カーミリアさん達には背を向けて俺達が走り出した時、そんな声が校舎に挟まれた庭に響いた。


 俺とコーチの心境に呼応するかのように現れたその声の主は校舎の上から俺達を見下ろしていた。


 風に揺れる紺色の髪の下で、彼女はこちらへ向けている黒い瞳を細め、口元に笑みを浮かべる。


「良いものを見せて貰ったのだから、流石に貰いっぱなしも悪いわね。感謝なさい、今からこのレイラ=フロックハートが貴方達を助けてあげる! その代わり、ノスリとツカサ君は後でぺろぺろさせてぶふぇあっ!?」


「レイラ女史ぃぃぃいいい!?」


 爆発した。何がって問われると、校舎が。細かく言うなら、颯爽と現れたレイラ女史が居たところが。


 レイラ女史は黒い煙を上げながら落ちて行き、校庭の植木の緑へと姿を消した。……生きてるかな?


「この馬鹿者共が……この忙しい時期貴様らは一体何をしているんだ」


 そして、元々レイラ女史が居たところから呆れた声が聞こえてきたので見上げると、そこには学園長が立っていた。まさか学園長が出てくるとは……。


 俺達の後ろにはカーミリアさんやルーナやエル。手出しはしなさそうだが、笑みを浮かべているレディとケトルと言うお馴染みの人々。


 正面には女史生徒の方々。見知った顔もちらほらと見られる。


 そして極めつけにヒーローの様に現れたレイラ女史を一瞬で撃墜して登場した学園長。 


 ……何ですかここは。地獄ですか? 死亡以外の未来が全く見えないんですが……。


「ツカサ」


「何だコーチ」


「ハーレムの中で死ねるなら、俺は本望だ」


「待て早まるな。正気を保つんだ」


「ツカサ……」


「どうしたノスリ」


「……楽しい」


「……そうか、良いことだな」


 これが正気だと言うのだから恐ろしいものである。


 こちらの戦力は今まさに現実からフェードアウトしそうになっているコーチと、頭の螺が既にフェードアウトしていそうな銀髪。


 対するあちらは…………うん、やっぱ無理じゃないかな?


「どうした貴様ら? 動かないのか?」


 校舎の上から学園長が急かすように俺達に呼び掛ける。……この人呆れた風を装ってるけど、絶対に楽しんでる……。


 英雄の血族って変な人多いの?


 自然に浮かんでしまった疑問を振り払う。だって繁じいちゃんも英雄だから。きっとそんな事は…………じいちゃん変な人だった。


 い、いや! 英雄に限らず、レディやケトルも楽しそうにしているじゃないか! だからそんな仮説は成り立たない!

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